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奨学金でも手に入らないもの - 大学生への教育支援のコト

カンボジア政府が2025年から「学校保健」を科目として小学校から高校まで導入すると発表されてから5年。教える先生の育成も進んでいます。

カンボジアの教員養成

カンボジアでは、小学校と中学校の教員になる場合、教員養成機関を卒業しなければなりません。これまでは2年制の小学校教員養成校と中学校教員養成校を卒業するのが主なルートでしたが、2018年に4年制の教員養成大学が全国に2校設立されました。日本のように大学で教員免許取得のための単位を取ったあと、自治体ごとに採用試験を受けて晴れて公立学校の教員になる、という制度とは少し違って、教員養成機関に入学した瞬間から”学生教師”(student teacher)と呼ばれ、準公務員扱いとなります。卒業した時点で、卒業生全員が教師になるのです。

教員養成大学の学生

わたしが学校保健プロジェクトの仕事で関わっているのが、プノンペンとバッタンバンにある2つの教員養成大学で、学生が卒業するとき、”学校で保健を子どもたちに教えることができる”教師を輩出するのがプロジェクトの目的のひとつ。それに先立って、学生に学校保健を教えることができる教官の育成を4年前からしてきました。教員養成大学の学生は、他の大学と違って学費が免除されています。なぜなら、”絶対に”教師になる人たちだから。日本の防衛大学のような縛りがあり、さらに、公務員としての給与も基準の何十%か出ています。政府の公務員予算枠制限の壁があって、教員養成大学の学生を増やせないというのがネックになりますが。これはつねに教師不足のカンボジアのジレンマかもしれないです。

寮生活・教科書は大学が用意

全国25州あるカンボジアに2つしかない教員養成大学には、それぞれ12州・13州から学生が入学し、ほとんどが寮や借家での共同生活をしています。カンボジアの大学では、夜間だけ・土日だけという選択ができることが多く、2つの大学を同時並行で通ったり(ダブルBA)正規職員の仕事をしながら通ったりすることができるという自由度が高いのが特徴。しかし教員養成大学については、毎日終日授業があり、課題も多く仕事をしながら通うのはとても難しい状況です。勉強用の教科書は購入の必要はなく、ほとんどが図書館や準備室に備えてあって授業の前に日直がクラスの人数分借りに行き、授業が終わったら返却するというシステムになっています。

これは私がもらっていい教科書ですか?

教科書が大学からレンタルの場合、教科書を忘れた! といったピンチはないものの、重要だと思ったところにマーカーを引いたり、もう1回読みたいと思ったところをドッグイヤーすることができません。それって復習しようと思ったときは不便ですよね。また、数年に渡って使った教科書は、誰かの手垢で汚れていたりします。幸運なことに、わたしたちのプロジェクトでは、ドナーが教科書作成費に加えて十分な印刷費も出してくれたので、教員養成大学の学生一人ひとりに、自分”専用”の教科書を渡すことができました。教科書を手に取った大学生が教官に尋ねたそうです「これは私がもらっていい教科書ですか? それとも大学からのレンタルですか?」と。「あなたのものです」と教官が答えた後、学生たちの顔が輝きよろこびの声が上がったそうです。
このエピソードを聞いたとき、教科書は作成するだけでなく、手渡すところまでプロジェクトは見届けなければいけない、と思いました。

地方から出ていて生活費がかかるがアルバイトをすることが難しい教員養成大学の学生に、奨学金等の支援もあります。それもすばらしいことですが、奨学金があっても買えないものの支援も尊い、と改めて思ったのです。とくに保健分野はカンボジアでは専門書などが乏しいので、教科書が教科書以上の役割を担ってくれるのではないかと、少し期待をしています。


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