学校とコミュニティの話し
ロスジェネ世代のわたしが子どものころ、学校にはいつも「身近な他人」が出入りしていました。いわゆる近所のじじばばたち。でもいまの学校は固く門を閉し、保護者でさえ首から下げた証明書がないと入れないとか。これは日本の話ですが、カンボジアでは、これから「身近な他人」が学校を支える重要人物になるのでは?
じじばばたちから学んだこと
藁を与えられるとつい、”縄ない”をしたくなり、わらじってどうやって作るんだっけ? なんて考えてしまうわたし。昭和初期の人間ではありません、あしからず。小学生のころ、老人会の方々が学校に来てわらじの作り方を教えてくれたのですが、三子の魂なんちゃらで何十年経っても覚えているものです。わたしの母校は新潟北部の村立小学校ですが、その立地から畑で蕎麦を栽培していました。石臼で蕎麦粉をひいたり、とうみ(江戸時代から使われていた農具)でゴミを飛ばしたり、水と蕎麦粉で蕎麦を打ったり、そいういうことを教えてくれたのも村の老人会のみなさんでした。全国愛鳥モデル校になったり、花いっぱいコンクールで文部大臣(当時)奨励賞に輝いた学校の花壇維持の立役者も今考えれば近所のじじばばの方々でした。彼らは先生や親が教えてくれなかったことを教えてくれて、学校を支えてくれていたということを大人になってから気づきました。
学校がコミュニティの中心
コミュニティの方々が集う場所として、公民館や集会所というのがありますが、学校もかつてはコミュニティの中心地でした。自分や自分の子どもたち孫たちが通った場所であり、誰にとっても「おらの学校」という意識があったのではないかと思います。それが消えていったのは、学校に他人が侵入して殺傷事件を起こしたことに代表される「不審者の乱入」があったことだけでなく過疎化と少子化による学校の統廃合も理由ではないかと思います。学校の統廃合によって身近なところに学校がなくなってしまったコミュニティにとって、学校という”集いの場”がなくなってしまったのです。場というのは物理的な建物だけではなく、子どもたちと「身近な他人」が接触する機会のことも表していると思うんです。
カンボジアの学校とコミュニティ
一方、カンボジアの田舎の学校では、物理的な門や塀はなく犬だろうが牛だろうが乱入し放題。でも先生以外の他人が出入りしているのを見たことはほとんどありません。保護者が学校に来るのは、入学時や稀にある保護者会的な集い(と言っても保護者同士の交流ではなく学校側から一方的な連絡をする)くらいなようです。学校の校舎が痛んだり、何かお金が必要になったときは保護者やコミュニティの方々からの寄付で行うのが普通なので、保護者が学校に呼び出されたときは「お金の都合を頼まれるのか」と考えると聞きました。
学校保健とコミュニティ
カンボジアでは2025年から学校保健という授業がはじまります。その支援活動をしていて困ったことがあります。コッコン州での事例ですが、男性の先生しかいない学校があるということ。どう困るのかというと、保健という科目では思春期の心身の発育に関しての指導や女子の月経もトピックにあります。男性教師が勉強として教えることは問題ありませんが、生徒側(とくに女子)が相談するとなるとハードルが生じるでしょう。わたしだったら抵抗があります。じゃあ、どう解決するか? ここで「身近な他人」の登場です。保健室の活動に近所のおばちゃんが介入してくれたら、もし男性の先生しかいなくてもなんとかなりそうな気がします。学校保健は好成績を目指す科目ではなく、身近なトピックスとしていかに自分たちの生活に取り入れて健康促進に役立てるかということがポイントなので、逆に教師だけではどうにもならない部分も多くあります。健康は学校ではなく日常生活に根付くものなので。学校保健の地方への導入という活動を通じで、とにかく教師不足で勉強以外の活動に手が回らない教師にとって、コミュニティの人々が助っ人になりうるということがわかります。
カンボジアでコミュニティが学校を支える可能性
では、どうやって「身近な他人」を学校に呼ぶか? ですが。Education Support Center KIZUNAという国際NGOがとてもユニークな活動をしています。「田舎の学校でどうやってコミュニティの人々を巻き込んでいくか」という活動ですが、コミュニティ開発ではなく、あくまでも学校側に呼び込むという手法。わたしが所属している東京学芸大学もじつはこの活動に参加しています。
11月19日(土)、コッコン州の田舎の中学校であるイベントが開催されました。学校保健の授業参観&大人の運動会&大人の健康チェックを一つにしたコミュニティ向け健康イベントです。子どもたちが学校でどんな保健を学んでいるのかを知り、コミュニティの大人と教師たちが一緒に運動をして、最後に自分の健康(体重・身長・BMI・血圧)を知って帰るというものです。このイベントが画期的なのは、1回こっきりではないということです。これ以降、学校の保健室にいつでも健康チェックにいらっしゃい! という呼びかけが狙いだからです。BMIや血圧が”やばいんじゃないか数値”を叩き出してしまった方々は定期的に学校に血圧を測りに来ることが推奨されます。
そうやって「近所の他人」を学校に引きつけようという魂胆に、コミュニティが学校を支える可能性を感じました。子どものころのじじばばたちのの交流が忘れられず大人になったひとりとして、個人的にもこの活動の将来がとても楽しみです。