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日本では耳慣れないシルバースクイーズ運動と、シルバースタッカー、そしてプレッパーについて、徒然なるままに。

アメリカでは少し前から、とある投資ムーブメントが巻き起きているのをご存知でしょうか? BTCを始めとする暗号資産の値上がりではありません。株の値上がりでもありません。それは銀(シルバー)です。アメリカでは少し前からネット、特にreddit(レディット)というアメリカ版5chのような掲示板でsilver squeeze(シルバースクイーズ)なる運動が盛り上がっているのです。wall street silverなる人物が中心に始めた活動で、いわく「銀の現在価格は大手銀行などの結託により不当に安く引き下げられている! 俺たちの手で銀を買いまくって値段釣り上げて銀行を追い込もうぜ! それに銀はこれから再生可能エネルギー施設を作ったりする上で需要が大幅に拡大する金属だ。今のうち買っときゃ俺たち大金持ちだぜ!」とのことで、米国の一部では大変に盛り上がっています。

実際その影響は凄まじく、多くの人々が政府からばらまかれたコロナ給付金などを原資に、数ヶ月ほど前からアメリカ中の貴金属店やコインショップで銀を買い占めていったのです。このためアメリカの店先からは銀貨や銀地金のたぐいが一斉に品薄になり、プレミア価格も一気に高くなるほどでした(特にアメリカが発行しているイーグル銀貨のプレミアは、他国が発行している銀貨よりも高い傾向にあります。やっぱり自分の祖国のものが良いのでしょうか)。最近ではsilver squeezeの街頭看板(下の画像)などが出現したことでさらにその熱が高まり、値段の方も上昇傾向を続けています(無論価格上昇の理由全てがsilver squeeze運動の影響というわけではないでしょうが)。

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なぜ今銀のでしょうか? それにはいくつかの理由があります。ます現在は全地球レベルでインフレが起きつつあるからです。社会や経済に疎い一般の方は待ったく知らない・気がついていないか、せいぜい「油や卵が値上がりして大変ねぇ~」くらいの軽い気持ちでいるようですが、現在世界では食料や木材・貴金属など我々の生活になくてはならないものや、なくてはならないものを作るための原材料が大爆上げしているのです。木材に至ってはこの1年で7倍にまで高騰し「ウッドショック」などという名前まで付きました(重要品目を輸入に頼っている日本にもいずれこれらの影響が出てくると思いますが、海外のものの値段が上がっても国内在庫の存在がありますし、業者も値上がり分をすぐに価格添加せず「我慢」しますので、直ちに日本の消費者の懐に激痛が走るわけではありません)。

物価の高騰が起きるということはすなわち、我々が財布や銀行預金として持っているおカネの価値が下がることを意味します。こういうインフレが発生しているときに買いが集まる定番商品があります。それが金・銀などの貴金属類です。最近は暗号資産にその役割を半分持っていかれてしまっているようですが、それでも昔から馴染みがあり、換金性が高く、物自体に値打ちがあるので価値がゼロになることがなく(暗号資産は裏付けとなる資産がないし、開発元が信用のおけない山師の類であることも多いので、何かあったら価値が全くなくなるリスクが有る)、現物を直接手元においておくこともできる貴金属は未だに根強い人気を誇ります。しかしそんななかでもなぜわざわざ銀なのでしょうか? 貴金属の王様といえば金(ゴールド)ですし、プラチナだって良いはずです。その答えはいくつかあります。

現代日本ではそれほど馴染みのない銀ですが、実はアメリカではかなりポピュラーな存在です。というのも、1930年代、当時まだアメリカの通貨であるドルは金との兌換を行っていました。これは政府・中銀が積む金の量によって発行できるお札の量が決まることを意味します。言い換えれば政府が新たな財政政策などを取ろうと思った場合には、その規模に見合う裏付けの金の存在が必要となります。当時政府の手で様々な政策を行おうとしていたフランクリン・ルーズベルト大統領でしたがお金が足りません。そこで彼は、とても大胆な一手を打ちました。なんと国民の金資産を没収したのです(当時の合衆国憲法に私有財産権の規定はなかったのでしょうか……?)。そのやり方は徹底していて、国民が財産を奪われまいと池の中に隠そうと森の中に隠そうと下水道の中に沈めておこうと、犬並みに鼻の効く役人たちの手によってたちどころに発見され、そして没収されていきました。それにたいして銀は没収を免れた、という歴史があるのです(銀は金に比べて価値が低くかさばるため没収するのが面倒だという判断もあったのでしょう)。そういったこともあり、アメリカでは「銀しか信じねぇ……」という人が今も結構いて、彼らは銀の現物を自宅に保管することを好むことから、銀を積み上げるもの「シルバースタッカー(silver stacker)」と呼ばれます。

※2024年11月追記。銀に付いても米国政府は1934年に「銀買上げ法」を作り国民から銀を集めていたそうです。しかしこれはあくまで任意であって、金のような強制ではなかったそうです。

シルバースタッカーはプレッパーと呼ばれる人とかぶっていることがあることでも知られています。プレッパー(prepper)とは、戦争、地震、津波、噴火、竜巻、経済混乱など、いざという時への備えに余念がない人たちのことです。すごい人になると自宅を大改造し水や食料、武器・弾薬を何年分と溜め込み、周りは要塞のごとく防御を固め、さながら戦国時代を生きているかのような錯覚を覚えるほど。さらには拠点を敵対者に占領されてしまった事を考えて、そういう拠点をいくつも持っているような猛者もいるとか。本当に戦国武将のようです。

普通の日本人は「なぜここまでするの?」と首をかしげる人が多いと思いますが、その答えの一つが「プレッパーは田舎に多い」という事が挙げられます。というのも、国土が狭く都市部に人口が集中している日本とは異なり、アメリカの田舎は広大で、なにか異変が起こって政府機関に通報しても、公的な助けが来るまでかなりの時間がかかる場合があり、それまでは自力でなんとかしなければないので少なからぬ備蓄が必要だ、という事情もあるらしいです。もちろんただ単に備えるのが好きとか、オカルト的な終末論を信じておりその難局を乗り切るため、のような理由だったりと、プレッパーがプレッパーになる理由は様々です。

さて、そんな備蓄を大量にしているプレッパーたちも全ての必要な物資を揃えているわけではありませんし、そもそもプレッパー全てが上で言った城のような拠点に住んでるわけではありませんし、さらにいくつも拠点を持ってるような人は少数でしょう。機動力を重視し車に必要最低限の物資のみを載せて、いざというときは走って逃げるようなタイプもいるのです。機動力派プレッパーたちは物資を外部から手に入れる必要があります。平時ならドルなどの法定通貨を使えば良いのですが、緊急事態、つまりハイパーインフレなどが起こってドルの価値が紙くずになってしまった場合は無理です。そして実際今現在、世界中の政府・中銀がコロナ対策と称してばらまいたカネにより、あらゆるコモディティーが値上がりをしています。さらには金利高騰のリスクも高まりつつあり、長きに渡って積みに積み上げた政府債務が今まさに弾け飛ぼうとしています(少なくともシルバースタッカーやプレッパーはそう考えています)。

こうなったときに商品を交換する上で頼りになるのが「貧乏人の金」の二つ名を持つ銀なのです。なぜ金やプラチナではないのかと言うと、金やプラチナは単価が高すぎて日用品を買うには不向きです(金はこの記事を書いている2021年5月後半の時点では1g7000円。1oz(トロントオンス=31.1g)だと30万円以上もする。仮に日本国内で買うとプレミアが「これでもか」と上乗せされた金額で買うことになりますし、それを嫌って海外で買って日本に輸入するとこれに消費税や送料がかかるので、どのみちスポット価格に比べるとだいぶお高くなってしまいます)。お釣りが膨大になってしまいますし、しかもそのお釣りは猛烈なインフレによって価値が下落し続ける法定通貨で支払われるかもしれません。それに対して銀は単価が安く(2021年5月後半現在、銀1gおよそ100円。1oz(トロントオンス=31.1g)でも3000円台。ただし日本国内価格だとプレミアが高く、輸入すると消費税と送料が加算されるのは金と同じ)、使い切るのも楽ですし、お釣りを法貨で受け取らなくてはならない場合も、その量は少なくてすみます。一方の銅やアルミは重さあたりの価値が安すぎて持っていくのが一苦労。なのでプレッパーたちは、世紀末的世界で買い物をするには銀が一番適している、と思っているようなのです。

とまあこんな具合で、いまアメリカで起こっている銀ブームとその背景、そしてプレッパーたちについて思いつくままつらつらと書いてみました。なんともまとまりのなく、そしてオチもないような投稿ですが平にご容赦いただきたい。

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