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町の名物おばさん

ただ「いる」ことができない人たち、家や会社、特定の場所に存在することを許されず彷徨う人たちが町の名物おばさん、おじさんになるのではないだろうか。
公共の、通り道で停滞し、行き場なく歩き、「あ、100円だ、安い」と声に出したのち自販機でジュースを買い、ジョナサンで3.4人分も注文をしてドリンクバーのアイスコーヒーをこぼしてしまうような。
どこにもいられない人、社会からあぶれて、はないちもんめで誰からものぞまれずただ一人残ってしまったような人々が町の名物になるのではないか。

たぶん彼らは自分が名物だとなんとなく自覚していて、いつもすこし恥ずかしい。ただ自分としてたゆたっているのはあまりにつらいから「いけね」とか「あれっ、おっかしいなあ」とか、まるでそこにいる理由があるみたいに、約束があったからここにきたんだけどそれをすっぽかされてしまった人のコスプレをしているんじゃないか。本当は待ち合わせなんてひとつもないのに。

私もそう。一昨日フリーマーケットで100円で買った着古されたコムサデモードのロングトレーナーに、よかれと思ってあわせたユニクロのメンズのショートパンツ。10月なのに肌を露出して化粧っけないのに口紅だけは赤く駅前のスーパーのベンチで図書館の本を読んでいる。私も十分、この町の名物女なのではないだろうか。

あちら側とこちら側の境目はいつだってあいまいだ。私は、自分がいつまでこちら側にいられるのかわからない。気づいていないのは私だけで、もしかしたらもう、あちら側にいるのかもしれないと思ったりする。

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