「DeepL翻訳」すごい! 人のチェック、編集はもう不要?
ほぼ1年ぶりのnote更新。この間、2019年8月末で立ち上げから携わってきたBusiness Insider Japan編集部を辞め、9月からcoindesk JAPANに参加、10カ月強が経ちました。
ミレニアル世代をターゲットにした経済ニュースメディアから、仮想通貨/ブロックチェーンに特化したメディアへ。とはいえ、やっていることは変わりません。US版から翻訳すべき記事をピックアップ→翻訳発注→チェック&編集→公開という作業です。
DeepL翻訳を実際の記事でチェック
「変わりません」と書きましたが、変わったことが一つ。翻訳者さんに依頼すると同時に、ドイツ生まれの超高性能な機械翻訳サービス「DeepL翻訳」を使うことが多くなりました。DeepLで翻訳して、チェック→公開、という流れです。
かなり前の例になりますが、3月27日に公開した記事「ビットコイン採掘難易度が史上2番目の下落、その影響とは?」はDeepLで翻訳しました。どんな精度だったのか、記事として公開できるレベルなのか、できること・できないことなどを見ていきたいと思います。
スゴイ! でも日本語的になりすぎ?
結論から言えば、スゴイ! です。もう人間による翻訳作業は不要と思えるくらい。ですが、言い方が変かもしれませんが、「日本語的な翻訳」をしすぎ、と感じる箇所もありました。
いえ、正確には直訳調ではなく、「日本語的な翻訳」を実現したところが、DeepL翻訳のスゴイところでしょう。ただ、私個人としては、ニュース記事翻訳では結論を先に書くことを意識しているので「日本語的な翻訳」だと「まわりくどくなるなぁ」と思ってしまうこともありました。
逆に、Google翻訳は「直訳的」で、翻訳が妙なこともありますが、素直とも言えます。ちょっと長くなりますが、Google翻訳とも比較してみます。
ややマニアックな英文記事をDeepLはどう訳すか
元記事は「Bitcoin Mining Difficulty Posts Second-Biggest Percentage Drop in Its History」です。
仮想通貨やビットコインに興味のない方には、まったく馴染みのない内容かと思いますので簡単に説明しておきます。
・ビットコインはコンピューターを使って作る(採掘、マイニングと呼ばれます)
・ビットコイン価格が上がると、採掘する人は増える(昔のゴールドラッシュと同じ。一攫千金を狙う人が増える)
・ですが、ビットコインには供給量を調整する仕組みがあり、作られ過ぎるとハードルを上げます(作るのを難しくします)。これがタイトルにある「採掘難易度」です。
記事の内容は「ビットコイン価格が3月上旬に大きく下落したことで、採掘する人(ビットコインを作る人)が減り、難易度が大きく下がった」というものです。
では、前置きが長くなりましたが、DeepLの訳文と、公開した文章を比較しながら、そのスゴさと、チェック&編集の考え方を見ていきます。
■冗長な英文は冗長な訳文になる
当たり前の話ですね。そして、DeepL翻訳の問題ではなく、原文の問題です。coindeskの記事には、たまに表現が回りくどいことがあります。
特に冒頭の書き出しは、筆者が「つかみ」として、いろいろ工夫しているせいか、その傾向があります。今回もそうでした。
【原文】
The drop in so-called mining difficulty signals some miners have bowed out of the ongoing race to solve math problems to win freshly minted bitcoin (BTC), as a decline in the cryptocurrency's price has made this activity less profitable.
【DeepL】
いわゆる採掘難易度の低下は、一部の採掘者が、クリプトカレンシーの価格の下落により、この活動がより収益性の低いものになっているため、新たにミントされたばかりのビットコイン(BTC)を獲得するために数学の問題を解決するために進行中のレースから身を引いていることを示しています。
【公開した文章】
採掘難易度の低下は、一部のマイナーがビットコインの獲得レースから撤退していることを示している。ビットコイン価格の下落によって、マイニングの収益性が低下しているためだ。
【チェック&編集の考え方】
◎マイニングについての記述を簡単に。
「新たにミントされたばかりのビットコイン(BTC)を獲得するために数学の問題を解決するために進行中のレース」
↓
「ビットコインの獲得レース」
原文は、ビットコインの仕組みに基づいて、正確な記述をしていると言えますが、技術的に詳しくない人には分かりにくく、逆に詳しい人には余分なので、思い切って短くしました。
◎後半のas以下を独立させて2つのセンテンスに。
「英語は後ろから訳す」などとも言われますが、英文の構成と同じように大事なことを先に、理由など付加的なことは後にしました。
【Google翻訳】
いわゆるマイニングの難易度の低下は、暗号通貨の価格の低下によりこの活動の収益性が低下したため、一部のマイナーが数学の問題を解決して新たにミントされたビットコイン(BTC)を獲得するために進行中のレースを辞任したことを示しています。
ほぼ同じような訳ですが、ここはGoogle翻訳の方が分かりやすいですね。
■日本語的にしすぎ(やりすぎ?)
【原文】
The world's largest blockchain network by market capitalization adjusted its mining difficulty around 3:00 UTC on March 26 to 13.91 trillion (T), down from 16.55 T in the previous cycle recorded on March 9. Two weeks ago, bitcoin suffered its worst sell-off in seven years, and it has only partially recovered since.
【DeepL】
時価総額で世界最大のブロックチェーンネットワークは、3月9日に記録された前のサイクルの16.55Tからダウンして13.91兆(T)に、3月26日のUTC 3:00頃にマイニングの難易度を調整しました。
【公開した文章】
ビットコインは、協定世界時(UTC)3月26日3時頃に採掘難易度を調整し、3月9日に記録した前サイクルの16.55兆から、13.91兆になった。
【チェック&編集の考え方】
DeepLの翻訳はもちろん間違いではなく、むしろ時系列で経緯を紹介する流れになっているので、この方が良いと評価する人もいるでしょう。
ですが、ここは「調整した」ことに重点を置き、先に記述しました。
【Google翻訳】
時価総額による世界最大のブロックチェーンネットワークは、3月26日のUTC 3:00あたりにマイニングの難易度を13.91兆(T)に調整しました。これは、3月9日に記録された前のサイクルの16.55 Tから減少しました。
Google翻訳は、as以下を分け、英文の語順に合わせた構成になっています。
ちなみに、DeepLもGoogle翻訳も、主語は「時価総額による世界最大のブロックチェーンネットワーク」になっています。英語には同じ単語が頻出することを避ける作法というか習慣があります。ここでは「Bitcoin」を「The world's largest blockchain network by market capitalization」と記述しています。
どうして、逆に文字数が多くなるようなことをするのかなぁ、と思いますが、以前のBusiness Insiderもそうでした。例えば、「アマゾン」のことを2回目以降は「シアトルに本社を置く会社」とか「ECの巨人」などと表現します。
英語の作法ではありますが、今後、英語がよりグローバルな言語となっていくなかで、消え去っていくのではないかと思います。
また個人的な印象ですが、特に既存メディアではなく、アメリカの新興メディア(Business Insiderやcoindeskなど)に、こうした言い換えが顕著な気がします。ミレニアル世代向けの「新しさ」につながっているのかもしれません。
今後、ディテールにこだわる意味は?
DeepL、本当にすごいです。「みらい翻訳」にも驚かされましたが、AI翻訳はどんどん進化しています。今後、翻訳作業は、ますますAIに置き換えられるでしょう。
どんなに優秀な翻訳者さんでも、1000ワード近い英文を日本語に書き起こすには、早くても1時間程度はかかります。それがDeepLなら数秒です。スピードは圧倒的。敵いません。
では、人間の作業はもう不要でしょうか?
これは提供側がどこまでこだわるか次第になるでしょう。
Coindeskも、もしUS側が日本語での情報提供をAI翻訳ベースで始めれば、我々は不要になります。
現状、AI翻訳の日本語には多少、読みにくい点はありますが、「AI翻訳を使い、タイムラグなしに提供することを優先」し、読者もそれを了解すれば、それで成立します。
また、US側が「AI翻訳にとってわかりやすい英文」を意識すれば、翻訳はもっと読みやすいものになるでしょう。
現状、日本側というか私は、よりわかりやすい情報提供に力を入れていますが、ディテールの作業に陥っているのかもしれません。ディテールにこだわらず、USの記事公開とほぼリアルタイムで、どんどん記事を出していくべきかもしれません(現状は翻訳すべき記事を選んでいますが、リソースの問題でもあります)。
状況がドラスティックに変化しているなかで、ディテールにこだわることは差別化ポイントになり、生き残るポイントになるのか。それとも文字通り、些末なこととして吹き飛ばされてしまうのか。
見定める時間はさほど残されていないようです。
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