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アオマスの小説

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どんな一面にも些細な物語が存在する。それを上手に掬って、鮮明に描いていく。文士を目指す蒼日向真澄によって紡がれる短編集です。
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記事一覧

一枚だけ諭吉さん (小説)

 一枚の福沢諭吉を受け取って、三枚の野口英世と小銭を返す。スーパーでもコンビニでも、ある…

100
蒼乃真澄
1か月前
10

赤 (小説)

1  ある夏の朝。僕は近所の畑で育てられている赤いトマトを、像みたいに幅のある右足で思い…

100
蒼乃真澄
2か月前
6

舟守(特別短編)

「私はこの船の番人であり、問う人であるニーナです。あなたは乗船者であり、問われる人です。…

蒼乃真澄
2か月前
11

戦争

「人を死に追い込む。例えば、爆弾を落とす」  すなわち、空襲。それを望む人って、ほとんど…

蒼乃真澄
3か月前
14

没個性ピラミッド

 小学生たちが、運動会で組体操をする。先生は意のままにピラミッドを作らせようとしたけど、…

蒼乃真澄
4か月前
10

牧野エミの配信〜その後 『ふうふう』

 翌日の夕方に家に帰って来ると、母さんが台所でお雑煮を作っていました。 「お雑煮ってなん…

蒼乃真澄
4か月前
7

彼氏との会話 『ふうふう』

 僕はゲイです。自覚したのはかなり前(小学生だったはず)で、母さんに明かしたのも中学生の頃でした。 「母さん、僕ね、多分男が好きなんだよね」  母さんは一瞬眉をひそめましたが、「そうなんだあ」くらいの返事で、特に変な扱いをしたりしませんでした。少しの間、僕に気を遣っているような様子はありましたが、一緒に男性アイドルを推すなど、だんだんと話が通じ合う仲になっていき、今では何の壁もなくオープンに話せる間柄になりました。  父さんは早くに家を出たきり戻ってこないので話していま

母との会話 『ふうふう』

「って話だよ。あんた、本当に覚えていないの?」  僕が買ってきたジムビームハイボールを飲…

蒼乃真澄
4か月前
13

あるハプニング 『ふうふう』

 これは僕が五歳の頃に経験した、ある『ハプニング』です。しかし、記憶が曖昧な部分は一部補…

蒼乃真澄
4か月前
11

『ふくざつだなあ』 3 (小説)

『夜分遅くに申し訳ございません。一ヶ月ほど前に一度お話しさせていただいた武田です。この度…

蒼乃真澄
4か月前
9

『ふくざつだなあ』 2 (小説)

 土曜日午前十時、天候は晴れ。そんな渋谷は混み合っていて、ハチ公前も外国人観光客でいっぱ…

蒼乃真澄
5か月前
13

『ふくざつだなあ』 1 (小説)

 『会いたいです』  最近、こんなのばっかり。どうせ私が女だからって、同じ趣味を通して繋…

蒼乃真澄
5か月前
14

パンケーキに塩を振る(小説)

「山ちゃんは甘党だね」  大学の食堂でショコラパンを食べていた俺に、同じ文学部の宮田エミ…

蒼乃真澄
5か月前
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沈黙の赤ワイン(小説)

「結婚してほしい」  僕がこの言葉を放つのは、これで三回目だった。一度目は横浜の海が一望できるフレンチレストラン、二度目は東京タワーが見えるイタリアンレストラン、そして三度目の今回は、浅草にある老舗の洋食レストランだった。二度目までが非現実的な場所だったから、今回はあえて手ごろな場所にした。  しかし、彼女は場所など関係なく、「ごめんね」と言って赤ワインを飲んだ。 「どうしてダメなの?」  僕はどうしても諦めきれなかった。彼女と付き合って三年が経つが、これまで彼女とは