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和牛の肥育管理のコツ②(肥育中期)

(1)概要

 肥育中期は、生後月齢では概ね14ヶ月齢~24ヵ月齢の期間になる。この期間は胸最長筋(ロース芯)の脂肪交雑が最も高まる時期で、枝肉成績を左右する重要な期間となる。ここでは、いくつかの肥育中期に重要ないくつかのキーワードごとに留意点をまとめた。

(2)ビタミンAコントロール

 肥育中期では、濃厚飼料の摂取量を最大限に増加させて増体と脂肪交雑を高めるための飼養管理となる。肥育中期以降の粗飼料は主として稲わらとなる。稲わらは、繊維含量が多くて第1胃内での分解・消化が遅い特徴があるので給与量は少なくて繊維効果のある粗飼料である。また稲わらは、β-カロテンが少ない粗飼料である。βカロテンは、牛が摂取すると体内でビタミンAに変換される。

 脂肪交雑を高める技術として、肥育中期にビタミンAの摂取量を制限する方法(ビタミンAコントロール)が多く用いられている。これは、血液中のビタミンAを低減させることで脂肪交雑(サシ)のもとになる脂肪前駆細胞が脂肪細胞へ分化し、油滴を沈着させる割合が高くなることで、脂肪交雑が高くなるというものである。目安として、肥育中期の血液中ビタミンA濃度は30~50IU/dl程度が望ましいと考えられている。30IU/dl以下であればビタミンA欠乏症の発生率が高まるとされている。そのために肥育中期に給与する濃厚飼料のビタミンAレベルは0~500IU/kg程度にされているものが多い。

 ビタミンAコントロールを行う場合、ビタミンA欠乏症には注意が必要であるが、ビタミンA欠乏症は肥育中期よりも肥育後期に発現しやすい傾向である。しかし、夏場の暑熱期などはビタミンAの消耗が多くなるので夏から秋にかけて欠乏が起きやすくなる(四肢のむくみ、食欲減退など)。

 ビタミンA欠乏症の初期段階では、体に症状が発現する前に、牛の飼料摂取量が低減して飼槽に残飼が起こってくる。飼料摂取量を毎日測定すると日々の残飼が上下しながら下降するようになる。これは、牛房においてビタミンA欠乏により飼料摂取量が低下している個体が発生してその個体が食べなくなってきても同居する他個体が食べていたが他個体も食べられなくなると明らかな残飼になってくる。このようなシグナルがあれば牛を確認してビタミンAの投与を行う。肥育中期であればビタミンAコントロール理論ではビタミンA投与は出来ないとされるが、このまま対応しないと症状が出てしまう。

 飼料摂取量が回復しないと増体低下や停滞、肉色などに悪影響が出てしまい脂肪交雑も高まらない。その場合には、月齢に関係なくビタミンAの投与を行う。脂肪交雑の重要時期である生後22ヶ月齢までであれば50万IU以下の投与を行う。

(3)ルーメンマット

 肥育中期では脂肪交雑を高めるビタミンAコントロールは重要であるが、増体も確保する必要があるため、出来るだけ早くビタミンAの投与を行い牛のストレスを取り除くことを行う。飼料摂取については、出来るだけたくさんの濃厚飼料を摂取させることが必要となるが、肥育前期で述べたように、一度に摂取する量を少なくさせ、第1胃内のpHを安定した状態に維持させるような工夫もしなければならない。

 肥育中期以降の濃厚飼料は、穀類割合が高いために多くのデンプンを含んでいる。このデンプンが第1胃で急速に分解されると乳酸生成量が増加しやすくなり、この乳酸により第1胃内のpHが下がって酸性化となってしまう。そのために牛が濃厚飼料を一度に摂取する量を少なくする必要がある。すなわち1回に給与する濃厚飼料を少なくすることになるが、濃厚飼料を給与する回数には作業的に限界がある。

 そこで濃厚飼料を給与する前に稲わらを摂取させて、第1胃内にルーメンマット(繊維質の層)を形成した後、濃厚飼料を給与する方法がある。また、稲わらなどの繊維質を細断して濃厚飼料に混合して給与する方法もある。

 第1胃内は通常3層に分かれており、最上層は発酵によるガス(水色)、中間層は直近に摂取した飼料の塊で、浮遊したルーメンマットの層(黄緑色)、最下層は、第1胃液層(青色)である。これらの3層は1分間2回行われる収縮弛緩運動により混合させる。緑色の食塊が食道より第1胃に入るとルーメンマットに絡まって浮遊した状態になる。しかしルーメンマットが薄いとそのまま下層に落下してしまい下層にある第3胃口から第4胃以降に分解されないで流出してしまう。

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    図.第1胃内のルーメンマット(正常)


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図.第1胃内のルーメンマット(薄い場合、比重の重い食塊が液層に落下)

(4)第1胃内のpH

ルーメンマットがあると、摂取した濃厚飼料が付着して分解される速度が遅くなる。しかし、ルーメンマットが薄い状態や無い場合には、第1胃液にそのまま溶解されるので分解が早くなる。また、比重の重いものは分解をあまり受けないで第3胃に流出してしまう。

 このような状態では、第1胃内が急速に酸性化になり微生物の活性も低下する。また第1胃内が酸性化してpHが5.5以下(アシドーシス)になると牛はほとんど飼料摂取しなくなり、pHが回復すると摂取するという固め食いの原因となってしまう。そのために濃厚飼料の摂取コントロールする工夫が必要となる。図は第1胃内微生物のpHとの関係であり、繊維を分解する微生物はpHが低くなると数が減りその活性も低下する。

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   図.第1胃内pHと微生物の最適範囲

(5)濃厚飼料の摂取と固め食い 

 飼料は、第1胃内の微生物により分解されて胃壁より吸収され、分解されなかった飼料は下部消化管に送り込まれて酵素により消化されて腸から吸収される。第1胃は牛の体の左側に偏っているため、飼料を十分に摂取すれば右より左側が膨らんで見える。これは、牛が飼料を十分に摂取しているかどうかを見るポイントの1つになる。

 肥育中期に濃厚飼料を多く摂取させることで、血液中の脂肪量(コレステロールや中性脂肪など)が増加し、脂肪交雑が高まる。これは、血液中の脂肪成分が筋肉内にある毛細血管から脂肪細胞に吸収、蓄積され、筋肉内の脂肪交雑となるためである。血液中に含まれる脂肪量が多くならないと脂肪交雑が高まらないことから、血液中の脂肪量が常に安定した状態になるのが理想となる。濃厚飼料を摂取してから、次に摂取するまでの時間が長くなる、すなわち固め食いをしてしまうと、血液中の脂肪量が安定せず、低下し、脂肪交雑に悪影響となる。そのためにも固め食いをなくして第1胃内pHを下げないような濃厚飼料給与の方法が肥育中期以降では重要となる。

(6)肥育中期の事例集

 現在準備中
 (具体的な飼料の給与量や種類、枝肉成績など)



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