♯9 上司の遅刻大喜利に振り回される職場
ある企業。
毎朝、必ずと言っていいぐらい遅刻をしてくる上司がいた。
持病があったり、何か個人的な問題を抱えているのかもしれない…
本当のところは本人にしかわからない。
だが、贔屓目に見ても、薬を飲んでいる気配はなく、一人暮らしで独身を謳歌しているらしく、勤務中はとても元気なのだ。
周りからはほぼ寝坊であることを確信されていた。
本人も多少の罪悪感は感じているようで、
常習過ぎて、周りの社員には遅刻連絡をしにくいことを察している。
そこで絶好の存在が派遣社員だ。
決して自分に文句を言うはずのない派遣社員に確信犯的に連絡するようにしているようだった。
始業の少し前、電話やメールで毎朝連絡が来て、ホワイトボードに遅刻理由を書いておくように指示される。
こちらは就業前からメールチェックしたり、電話を取ったりしないといけなくなることはお構いなしだ。
「電車遅延」
「病院立ち寄り」
「急病」
「体調不良」
この辺りは、真っ当な理由だが、週に何度も頻発すると疑念を抱かれてしまう。
もう本人もネタが尽きていたのだろう。
理由がどんどん雑になっていく。
「身体のどこそこが痛い…」
「打ち合わせ」(どこの誰とかは不明)
「人に合わないといけなくなった」(どこの誰とかは不明)
「どうしても買い物に行かなくてはならない」
「昨日、残業で遅くなって寝てないから…」
「ペットの調子が悪い」
これはホワイトボードにそのまま書けないでしょ?という感じで、毎回困り果てていた。
電話を切ると、周りの社員さんもニヤニヤしながら
「今日は何?」
と、大喜利の答えを待つ様に理由を期待するようになっていた。
特に
「不動産に寄って、家賃を払ってから行く」
もう、知らんがな!という理由だった時は、皆んな満足げな表情だった。
タチが悪いのが、当の本人は機嫌悪く出社してきたりすることだ。
総務の担当者からやんわり注意されている場面などでは、逆ギレのような対応で相手を困らせるのである。
仕事のエンジンがかかるのも遅いため、質問や報告も後回しになってしまうし、皆が帰り支度をするような時間から急に指示を出してきたりする。
周りで振り回される社員は本当にたまらない。
また別の企業では、いつも謎の立ち寄りで遅刻するという女性部長がいた。
こちらも遅刻の連絡だけは当たり前のように社員をすっ飛ばして派遣社員の私へ朝メールが届く。
「立ち寄り 銀座」
と、指示通りにホワイトボードに書く。
そして、部長が昼過ぎにご機嫌で出勤して来ると、必ずどこかのブランドの袋を持っている。
その姿を見る社員の顔は一様に曇るのである。
『この部長に嫌われたら社内にいることはできない』と噂される程に社内で権力を握る人だったこともあり、
面と向かって注意する人は皆無であった。
たまたまなのかもしれないが、印象的なのが両者ともに遅刻連絡のメールの最後には必ず
「遅れますm(__)m」
「よろしく(^▽^)/」
のような顔文字が入っていた。
二人とも普段ほとんど直接仕事上の関わりはなかったのだが、
この顔文字を見る度に、
「事情のわからない派遣社員をこっちに上手く丸め込んでやったぜ!」
と、言わんばかりのメッセージに見えてモヤモヤしていたのだった。
本来、管理職にもなる人は自己管理ができて然るべきだろう。
しかし、管理職の遅刻癖は注意できる人も少なく、結構うやむやになりがちなようだ。