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♯11 「能ある鷹は爪を隠す」とはこういうことか!

ある企業に派遣されていた時。
隣の島が海外との交渉を担当している部署だった。
部署の人数が少ないため、不在の際にはそちらの電話も対応する様に上司から指示をされていた。
もちろん海外からかかることもあるので、簡単な英語でのやり取りの必要があるとのことなのだ。

私は全くと言っていい程に英会話はできない。
今までの仕事でも英語を使う仕事はやって来ていない。
というよりも、派遣はスキルに合わせて業務を委託されるため、
英語を必要とする職場への希望を本人が出していない限りそういう職場には回されない。

だが、この職場にとっては「英語力は必要とはしていないけど、誰でも日常会話レベルはできるでしょ??」
みたいな暗黙の認識があるようだった。
簡単なやりとりだけでいいと言われても、これは私にとってはすごく困ることであった。
(後にわかったことだが、実は上司もこの部署の社員さんも英語のできない人が多かったので、
面倒なことは派遣社員の私に押し付けようとする魂胆だったようだ)

隣の部署でメインで海外との交渉を担当されている女性社員のオノガワさん(仮名)はバリバリの帰国子女だった。
しかも、ドイツ語にも精通されているトリリンガルだ。
能ある鷹は爪を隠すと言わんばかりに、普段オフィス内では積極的に英語で話されることはないのだが、
海外からのお客様の対応をされている時のネイティブ過ぎる発音は聞き取ることができないぐらい流暢だ。
オノガワさんがいてくれさえすれば英語の心配は一切ない。

ある時。
オノガワさんが有給の日に突然、海外からの来客があった。
カジュアルな服にリュックスタイル。どうやら観光客の様だった。

その日は運悪く外出している社員が多く、英語が話せる社員がほとんど社内にいなかった。
社内にいる女性社員さんたちとどうしよう…と顔を見合わせて困っていた時に、
オフィスの奥から普段は物静かで穏やかな部長が颯爽とやってきて、すぐに英語で対応を始めた。

しばらく談笑して、来客は機嫌よく帰って行った。

「彼は観光で日本に来てるらしいんだけど、以前に仕事でお世話になったからってオノガワさんにお土産持って来たんだって」
と、にこやかに説明をしてくれる。

社内にいた皆が安堵した表情になり、
女性社員さんたちは神様に出会ったかの様に部長に「ありがとうございます!!」のお礼が止まらなかった。
傍から見ていた私もあまりのスマートな対応に感激した。

翌日にこの出来事をオノガワさんに報告すると、
「あの部長、以前の会社では海外の支店で支店長までされてた人なんだよ。英語はペラペラよ」
と、こっそりと教えて下さった。

ある大企業から引っ張られてこの会社に来られた方ということだったが、
どうもこの会社では冷遇され、閑職に追いやられている感じが派遣社員の私の目にも明らかだった。

この部長とは私は仕事では全く接点はなかったのだが、
私が大阪出身と知って、
「僕も昔神戸に住んでいたことがあるんだよ」
と、時々阪急沿線のローカルの話や吉本新喜劇の話題を話しかけてきてくれたりと、私が居心地のいい場所を作ってくれる人柄も尊敬できる人だっただけに、
後から来て既存の組織に入り込むことは、派遣社員でなくても大変なことなのだな…とつくづく思わされた。

さて、私の電話の英語対応問題だが、簡単なやりとりの一覧表を作って、
その時に備えて毎日ビクビクして待ち構えてはいたのだが、
幸いなことに、私がいる間に海外の方からの電話を取ることはなかった。

しかし、この一件から、自分もこんな時に英語で対応できる様になりたい…と、
この職場にいる間、ステップアップを目指して、しばらく派遣会社の英会話のセミナーなどに通うようになったり影響を受けたのだった。

だが、次にまた英語の全く必要ない職場に派遣されたタイミングで、あっという間に英語勉強熱も冷めてしまったというのは大きな声では言えないのだが…

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