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書籍「成功するコミュニティの作り方」でわかるコミュニティの"現在"

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IT業界における「コミュニティ」の重要性

IT業界において「コミュニティ」は様々な意味合いがある。
特定の技術や製品に関わる人が集まるだけでなく、有志による発表、事例の共有、あるいは転職のきっかけにつながることもある。
さらにコミュニティのためにボランティアとして活動する人や、遠方から参加する人もいる。
企業の立場で見れば、利用するエンジニアやユーザーの意見を取り込んだり、宣伝やマーケティングの場として重要視している。
大規模な会場でイベントを開催すれば、多くの参加者で賑わい、大手企業のスポンサーが入ることも珍しくない。
もはや「コミュニティ」とは同好の士が集まるだけでなく、製品やサービスの展開において大きな影響を及ぼす存在になっている。

本書はコミュニティにおける立ち上げから成長、発展させて運営するまでの流れについて、著者自身の経験も交えて丁寧に解説した一冊である。
3名の著者は全員がGoogle Cloudの公式エンタープライズユーザー会である「Jagu'e'r」に関わっている。
黒須義一氏は発起人兼オーナーであり、宮本佳歩氏はデータ利活用分科会のオーナーとして、グーグル クラウド ジャパンに所属している。
酒井真弓氏はアンバサダー(親善大使などの意味)を担い、ノンフィクションライターとしてDX(デジタル・トランスフォーメーション)に関する著書がある。
それぞれが異なる立場と役割によって、コミュニティを支えて大きくしていったことがわかるだろう。

コミュニティとは

コミュティの定義には、幅広い意味合いがある。本書ではコミュニティを「利害や興味関心、企業のビジネス活動おける共通様式があり、相互に関連しながら情報交換や自身自社を高めること」を目的とした集団としている。
さらにGoogle Cloudという商用サービスのコミュニティなので、「企業による営利活動」という側面も重要視されるため、この点も本書でも中心に扱うテーマとなっている。

まずはコミュニティを立ち上げる前の準備段階から詳しく説明している。
前述の営利活動という側面もあり、社内からはコミュニティにおける利益を求められる。
こうしたネガティブな反応に対する回答を、本書では「カウンターパンチ」と表現しており、コストや収益面、担当者の業務との兼ね合いなど、実際に課題となる点について複数の視点からアドバイスをしている。
例えば会社は人の時間や行動に対して給料を払っているが、コミュニティは(基本的に)参加者の善意によって成立しているのでコストを抑制できる。
さらにコミュニティ活動によってユーザーの意見を集めるなど、マーケティングや販売促進の形で収益につながるので、これらが利益となる。
これらは著者が持つコミュニティの理解度が高さが伺える点である。

まだまだコミュニティに対して理解度が低い会社では、利益や労力を理由に否定的になってしまう。
事前に本書を読めば理論武装ができるので、経営陣や上司への切り返しを参考にしたい。

コミュニティ設立のポイント

2章ではコミュニティ立ち上げの目的、役割設計、KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)やOKR(Objectives and Key Results:達成目標と目標の達成度を測る主要な成果を設定した目標管理)という流れを追っている。

実際の運営を元にした図解も多くわかりやすい

特定の製品やサービスのコミュニティにおいて、まずは目的や目標を決めなければ参加者も集まらない。
参加者の善意による活動を期待する上でも、参加者が自発的に行動を起こしたいと思える目的や目標の設定が重要である。
本書ではこうした課題に対して、他社のユーザーコミュニティに取材しており、富士ゼロックス、みずほフィナンシャルグループ、グーグル クラウド ジャパンの取り組みを紹介している。
こうした大手企業による先行事例があることで、社内を説得する材料になる点もありがたい。

このように社外の情報も共有することは、いわば「越境」を意識した活動につながる。
そもそもコミュニティは組織、所属、立場、場所などを越えて人が集まってくる。
本書では沢渡あまね氏の書籍「越境思考」より、「乗り越えること」を取り上げることで、コミュニティ運営に必要な思考として紹介している。

そしてコミュニティを盛り上げるために重要なのは、コミュニティマネージャーの存在である。
コミュニティマネージャーの活躍によって、参加者にとって価値を感じられる環境を提供しなければならない。
活動を活発化させて継続できる体制づくりとして、コミュニティの立ち上げ初期段階からコミュニティマネージャーの役割を意識することが重要となる。
同様に金銭面を支援するスポンサー確保についても言及しており、現実的な問題にも対処しなければならないという。

コミュニティの活発度を測るため、KPIやOKRという形で、数値化できる目標管理も必要になる。
コミュニティが盛り上がっているのを証明するには、どうしても数字でなければ伝わりにくい。
このように成果を数値化するのは、Googleの社内文化の影響もあるだろう。
コミュニティの認知→参加→数値化→分析→改善というサイクルを繰り返すことで、コミュニティは拡大していく。

KPIやOKRによる数値目標も参考となる事例があるとわかりやすい

コミュニティ運営のポイント

続く3章では、コミュニティの拡大から成熟期における運営について解説している。
人数が増えればコミュニティの方向性などで対立が発生したり、運営が複雑化するなどの問題も出てくる。
コミュニティマネージャーによる参加者の期待や要望の管理において、ROM専(見るだけの参加者)など熱量の異なる参加者の扱いなどの悩みに対して、どうやって解消するかを具体的に解説されているのは心強い
このようにコミュニティが成熟することによる熱量の停滞、コアメンバーの入れ替わりやコミュニティマネージャーの引き継ぎなどを乗り越えて、規模を大きくすることで次の段階が見えてくる。

運営体制と役割について一覧で紹介している

コミュニティをチームに変えていく

コミュニティの人数や熱量も増えると、相応に実績も求められる。
しかしコミュニティはあくまで「ゆるくつながる集団」どまりであり、4章では「コミュニティ」を「チーム」に変える重要性を解説している。
本書における「チーム」とは情報交換のみならず、学びを得て多様なニーズを伝える場にしたり、広報やマーケティングなどの実務における展開データの取得、議論によって多様なアイディアが生まれる場を作るなど、コミュニティの参加者や主催者の成長する組織を指す。
そこで昨今、話題にあがる「心理的安全性」を中心に据えて、立場や組織の壁を越えて、積極的に活動できる場作りが重要となる。
ここまで進めれば、設立前の懸念とされていた成果について結果を出せるだろう。

コミュニティにおいても心理的安全性は重要

成功事例から学ぶコミュニティ運営のベストプラクティス

本書の後半ではコミュニティ運営に取り組む企業として、ダイハツ、大日本印刷、デロイトトーマツ、アクセンチュア、KDDI、New Relic、Asana Japanの7社における事例を紹介している。
それぞれ業種業界は異なるものの、コミュニティにおける悩みを抱えるのは同じである。
そこで実際にコミュニティ立ち上げから運営拡大に至るまで、どのように問題を解決していったかを学べるメリットは大きい。
コミュニティ設立にあたって反対意見が出た場合でも、こうした他社の成功事例は説得材料になるので是非活用したい。
合わせてJagu'e'rコミュニティにおけるエヴァンジェリストによる座談会では各々の苦労や楽しさが語られており、これからコミュニティを立ち上げて運営する上でも将来のイメージがつきやすいだろう。

「成功するコミュニティ」の条件は「小宇宙」かもしれない

本書はGoogle Cloudのコミュニティ運営に基づいており、Google社では
「イノベーションは1人の天才ではなくチームから生まれる」としている。
これはイノベーションに限らず、コミュニティにおいても多くの方の情熱が集まることで、新たな変化が生まれることは本書で解説したとおりである。
こうした「人の情熱」は計り知れない可能性と広がりを秘めており、いわば「小宇宙(コスモ)」と言える。
Google Cloudに限らずコミュニティという「小宇宙(コスモ)」は自然発生的に誕生するものであり、他人に強要されて出来上がるものではない。
そしてコミュニティ運営において、会社としては広報やマーケティングなどから成果を求められるが、小宇宙(コスモ)が目指す成果は金銭的なものとは限らないが、大きな成果を出来るのも事実である。
このような「会社の成果」と「小宇宙(コスモ)」をうまく組み合わせることが、コミュニティの成功につながるのではと考える次第である。

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