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【白の手帖】〜僕達が辿ることの出来ない、いつかの誰かの話〜

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詩でも小説でもない、ただ自由にいつかの誰かの何かのお話を書いた「白の手帖」シリーズをまとめたものになります。中には私、白散歩の要素を含む頁もございます。(4頁「百合の色、白とそれ…
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2018年12月の記事一覧

【白の手帖】3頁「囁かな窓際」

【白の手帖】3頁「囁かな窓際」

指先だけで撫でるような
癖のないその声が好きだった。

ただいま。
ブラウンの扉。

窓際の観葉植物を抱えた土は湿っていて、
薄いカーテンから綻んだ光を浴びている。
ささやかな霧吹きの音が響く。
鼻歌はまた変わったのに
あなたは変わらない。

指先だけで撫でるような
癖のないその声がずっと好きだった。

おはよう。

ブラウンの扉。

けれど
あなたはもう居ないのかもしれない。

私はいつの間にか

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【白の手帖】2頁「ただ広くて、とても狭い夢」

【白の手帖】2頁「ただ広くて、とても狭い夢」

この人が私を殺そうとしていることは、会話の最中で察知した。

砂のようで無機質な何かが敷き詰められた、
外なのに室内のような場所を二人で歩きながら、その人は気づかれないように慎重に私に間合いを詰めていた。

しかし私は怖れと同時に、その思考ごと呑み込んでしまおうと煙に巻く支度を始めていた。

会話で時間を稼いだ。

「空と海の境界が
だんだん無くなっていくんです」
「聞こえますか?この音」

水が

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