奏心声音㉒
にっこりと太陽がほほ笑む朝
今日も笑顔の一日が始まる
1日がこんなふうにすがすがしく感じるのも
秋の訪れを伝える爽籟(そうらい)のせいかもしれない
※爽籟・・・秋風の風の音を笛にたとえたもの
こんがり焼けたパンの香りに重い体を起こし
ぼくは歩き出す 一歩・・・・また一歩
少女はバターと砂糖を抱えてあわただしく走っている
『今朝はシュガーパンなのかな?』
今朝だけではなく いつもの朝食風景 この風景にほっとしながら
ぼくはコーヒーを一口
そして笑顔で出かけていく少女を見送りながら
じぶんの存在価値について考える
ふと仕事を始める前に少女の部屋に立ち寄る
そこには 何か記念なことがあるたびに買い揃えた色鉛筆が
おおよその色彩をそろえ かわいい瓶の中に整列している
そうか
何も書かれていない真っ白な画用紙に
君の色彩とぼくの色彩で色を付けていこう
君はいつだって君だったし
僕も僕だったけれど
今は僕たちになって これから楽しい思い出になるであろう絵を
二人で描いていけるなんて
ドキドキうっとりする
そうやってお互いの心にいろんな色をしみこませて
僕らの前に広がる人生に 2人で立ち向かっていく
お互いを癒し 応援しながら相手の喜びになってあげれるような
きれいな絵を描いていこう
この画用紙が最後の一枚だと思って
最善を尽くした愛の絵を
この先 だれにも頼れずつらい日があったとしても
愛する一人の人として慰めてあげれる人になってほしい
うれしいことがあると嫉妬されるこの世界から
唯一心から本当に喜んであげれる人になってほしい
少女が僕の手を握り 僕の目をまっすぐ見つめて
頑張ろう 私がいるよ 乗り切ろうよ と
心から愛して大切にしてくれる時
この真っ白な画用紙にはどんな絵が描かれているんだろう
互いに枯れることのない永遠の緑
そこに差し込む光の筋 涙という名の潤いの雫
その雫から生まれる 色とりどりの希望の花
こうやって僕たちは一生 枯れることのないエバーグリーンであるように
僕は 君のゆらめくうるんだ瞳の中で魚になって泳ぎたい
君が描く絵の中には僕がいつだっていてほしい
僕の 言の葉で君はいつも踊ってほしい
僕が描く絵の中で 楽しげに踊る君でいてほしい
この画用紙はいったい何枚目なんだろう
これから先も増え続けるだろうこの画用紙に
二人だけの絵を描き続けていこう
永遠に
昨日よりも今日 もっと
今日よりも明日に もっと
僕は 君とこれからの人生を彩っていきたい
通知音が鳴る
そして僕は現実に戻される
庭に咲く黄色と赤の彼岸花が 僕に意地悪なほほえみを浮かべながら