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可惜夜(あたらよ)
明けてしまうのが 惜しい夜
記憶の残り香を探して
私はしばらくの間 可惜夜の街をさまよい続ける
彼女と出会ったのは 教会のクリスマスイベント
物静かな彼女の心に 土足で踏み込んで友達になったあの日が懐かしい
ちょっと迷惑そうにはにかむ彼女
でも、それから20年ずっと私のそばにいてくれた彼女
高校・大学の9年間離れ離れになってからも
つかず離れずの関係はずっと続いていた
恋にななんだあの日も、結婚に失敗したあの日も
仕事がうまくいかないあの日も、
辛いなと泣いた夜に不思議と連絡が来る
『急にどうしたの?』と聞くと
『なんとなく今連絡しないとって思った』と返してくる
タイミングがいい
彼女との思い出を語ればいくらでも出てくる
ケルト音楽が好きな子 京都まで楽器を買いに行った
几帳面な子 1円の使途不明金も許さない・・・怖かったな
dollを愛してた子 私の作る人形をずっと車に乗せてくれていた
読書が好きな子 たくさんの本を私に無理やり勧めてくる ちょっと迷惑
皮膚科に常に通ってた子 アトピーに悩んでたな
自衛隊員オタクな子 自衛隊員とのお見合い企画に二人で参加したね
大橋トリオが好き 私が無理やり押し付けたねこの趣味
陸自の追っかけ ブルーインパルスをこよなく愛してたね
不器用な子 ボタン付けすらできなかったね、びっくりだよ
あのね まだまだある 思い出はどんどんあふれてくる
とめどなくあふれ出す涙のように
携帯に残った彼女とのやり取りの履歴
ずっと読み返してる
おいていかないでほしかった
私が一年近く入院していた時も 励ましてくれたし 泣いてくれた人
退院した時は仕事を休んで迎えに来てくれた人
再発したときは 旅行の計画をしてくれた人
でも 彼女に事故を知って 会いに行った時にはもう
貴方の記憶の中に私がいなくて
必死に話しかけたら やっと思い出してくれたけど
大切にしていたペットの犬と勘違いされてたね でもそれでもよかったんだ
会いに行くと
『なに? 朝餌食べたでしょ。おとなしくしてなさい』って言われた
これもいい思い出だよ
事故の後遺症で記憶障害になって
視神経スペクトラム障害の診断が出て
すべての治療を試しても 炎症が収まらず
2024年8月23日
彼女との連絡の最後の日
『京都いかない?』そんな誘いの連絡の次の日に
返信をしたけれど その返事は全くもう返ってこなかった
2025年2月1日
やっと自由に動けるようになったんだね
今頃 雪の上を走り回ってるんだろうな
そこに私はいないけれど 笑えてますか?
半年間何も食べることが出来なかったけれど
今日はたくさんおいしいもの食べれるね
退院の日のために私がプレゼントしたお洋服を着てくれてる
その服を着て 素敵な人に出会ってね
第二の人生を歩むあなたに
笑顔で 行ってらっしゃいの言葉を送ります
26年間のあなたの人生の中に私はどれほどの記憶を残せただろう
お引っ越しの準備はできたか?
新たな場所で 苦痛や障害のない世界で次の人生を楽しんで
忘れ物はない?行ってらっしゃい
私はもう少しだけ思い出から目覚めるの時間がかかりそうだよ
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