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『ばにらさま』

これからもずっと作品を読みたかった。

『ばにらさま』山本文緒

冴えない僕の初めての恋人は、バニラアイスみたいに白くて冷たい

日常の風景が一転! 思わず二度読み!
痛くて、切なくて、引きずり込まれる……。
6つの物語が照らしだす光と闇

島清恋愛文学賞、本屋大賞ノミネート『自転しながら公転する』の山本文緒最新作!
伝説の直木賞受賞作『プラナリア』に匹敵るす吸引力! これぞ短編の醍醐味!(Amazonより)



大好きな『自転しながら公転する』では、地方在住アラサーのリアルな人生の迷い方に共感を覚えたけど、今作は著者の仕掛けや展開にまんまと錯覚させられ驚くことばかりだった。

表題作の『ばにらさま』も予想していなかったオチで、立ち込めていた虚しさが倍増していて面白いんだけど、なんと言っても『わたしは大丈夫』が格別に好きだった。

ちょっとずつ感じる、でも立ち止まって読み返すほどではないかすかな違和感が一気に繋がってぶわって回収されていくあの快感と一種の悔しさは最高の読後感だった。またそれによって哀れみみたいなものも更に濃くなっていく。

その後もその回収の見事さやゾクッとする感じは楽しめるんだけど、個人的には最後の『子供おばさん』は他人事ではないリアルさがあった。

私は週に五日仕事にゆき、休日は犬の散歩と買いだしをし、夜は友人や家族と食事をしたり、風呂の中で推理小説を読んだりする。日常に倦むこはない。

何も成し遂げた実感のないまま、何もかも中途半端のまま、大人になりきれず、幼稚さと身勝手さが抜けることのないまま。確実に死ぬ日まで。

それまで短編らしい展開とスパッとした切れ味を楽しんでいたのに、ラストでこれでもかと現実的な重みを突きつけられた感じがした。

ふたつの面白さを感じられる快作で、これからもずっと著作を読みたかった。過去の作品も辿って読んでいきたい。


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