『いのちの停車場』
ラスト、ドキッとした。
『いのちの停車場』南杏子
東京の救命救急センターで働いていた、62歳の医師・咲和子は、故郷の金沢に戻り「まほろば診療所」で訪問診療医になる。「命を助ける」現場で戦ってきた咲和子にとって、「命を送る」現場は戸惑う事ばかり。老老介護、四肢麻痺のIT社長、6歳の小児癌の少女…現場での様々な涙や喜びを通して咲和子は在宅医療を学んでいく。一方、家庭では、骨折から瞬く間に体調を悪化させ、自宅で死を待つだけとなった父親から「積極的安楽死」を強く望まれる…。(Amazonより)
終末期医療や緩和ケア、ステージドクターなど、作者が描く様々な医師像を体験してきたけど、今回はそれとはまたちょっと違う「在宅医療」が舞台。
命の明滅にとても近いところであることに変わりはないけど、どうやって家という自分を包み込んでくれる空間で病と向き合っていくか、または死への準備を行っていくかというところにスポットが当てられている。
それは決して物語の出来事だけに収まるのではなく、看病したり看取る側にも降り注ぐ、いずれ必ず自分の親や自身にも訪れる問題なんだなとリアリティを感じながら楽しめた。
各登場人物が一人で派手で目立つわけではなく、各々が支え合いながら少しずつ進んでいっている感じが、金沢の落ち着いた風景描写と合わさりじんわり来るし、各章の病人たちが困難な状況にありながらもエネルギッシュで小さいながらもしっかり火を灯していることを感じる。
そしてなにより驚いたのがラスト。今までの作風とは違っていて、悲しいけれど毅然とした決意を感じる。それは決してフィクションの中だけではなく、現代社会や読み手への投げかけなのではないかと思った。
積極的安楽死を含む終末期の医療のあり方、苦しんでいる張本人の意思の尊重の仕方など難しい問題はたくさんあるのだろうけど、読み終わった後には満足感だけではなくしっかり心に「自分だったら、親だったらどうするか」という引っかかりを残してくれる素晴らしい作品だった。
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