『人類滅亡小説』
タイトルから感じるのとは正反対の読後感。
『人類滅亡小説』山田宗樹
空に浮かぶ雲の中に古代から存在してきた微生物。それらが変異し大量発生、周囲の酸素を吸収するようになった。その雲が自重で地面に落下。その現象が起きた地点は急激な酸欠状態になり、ほとんどの生物が死んでいくという惨状が次次と発生。だがその予測不能な事態に、人間は有効な手立てを何も見いだせないでいた。終末感が漂う時代、人々はいかに生きるのかを選び始める。普段どおりの生活を続ける者、新興宗教に救いを求める者、微かな生存に望みを託す者、いっそ鮮やかな死を望む者、そして―(Amazonより)
『百年法』で自分の読書体験の新時代を切り開いてくれた作者。
最近あんまり新作見ないなと思ったらちょっと前に出てたやつ読み漏れてた。
今回の人類の敵は「微生物」。毎度のことながら見事な設定と薄ら本当にあり得うるのではと思わせてくれる恐怖感でどんどんのめり込んでいく。
また長い時間を懸けた人類の戦いのように読んでいて思うのだけど実際には半世紀強の期間で、物語の濃縮ぶりに読んだあと驚く。
困難と強大な敵への立ち向かい方や絶望を超えた先の個を超えた希望の見出し方もさることながら、誰か特定の主人公がいるわけではない綿々と受け継がれていく生命のリレーの素晴らしさを感じる。
そこも含めてこの作品の大きな一つの要素が、リュウリがみんなの前で表明する、
『よし、おれは、お前たちの夢を全力で応援してやるっ!』
っていう他者への想いに表れているんじゃないかと思う。
決して明確な勝利があるわけではないけど、作中でもあるようにたとえゴールがわからなくても自身のリレーの区間を精一杯生き切り次のなにかにバトンを繋ぐことの素晴らしさを説いた人間讃歌の物語。