飲食店のオープントレーニング①/食とまなびのブログ
飲食店の新規開業をサポートする仕事として、オープントレーニング業務がある。
簡単に言うと、お客様のご入店からお帰りまでのオペレーションと接客のトレーニングということになる。
たくさんの開店に携わらせていただいている中で、私が実施しているオープン時の教育のポイントを書こうと思う。
飲食店の開業のタイミングは非常に重要で、近隣の方々からの第一印象が決まる時であり、厳しい評価をされるタイミングとも言える。いわば、そのお店がスタートダッシュを決められるかどうか、もっと言えばそのお店の成功失敗を決めるとまで言っても過言ではない。
教育に一分一秒を争うことも多く、本当に毎回全身全霊をかけて取り組んでいる。
普段全く体調を崩さないのに、オープントレーニングの途中や後に体調を崩すことは多々ある。それくらい命を注いでいると言える。
この業務は責任重大で難しい反面、心地よく自分の命を使ってる感じのする素晴らしい業務だと考えている。
飲食店の開業に際しての教育というものは、ある意味特殊な教育環境であることを記す。
1:教育は一斉スタートであり、全員がほぼゼロからのスタートとなる
2:明確に決められた教育期限(オープン日)がある。そして、大概その期間は非常に短い。3日とか5日とか7日とか。
3:教育機会がバラバラになる(全日程出勤できる人もいれば、1日だけしかトレーニング出来ない人もいる)
4:教育対象者が大概非常に幅広い(高齢者から高校生まで・主婦学生フリーター)
5:教育を開始してからも、そして期限(オープン日)ギリギリであっても、変更事項が多々発生する。なぜか必ずトラブルが起こる。
6:大概の場合、教育環境は悪い。(ツールが揃っていない、騒音がする、暑い寒い埃っぽい、ピリピリしている等)
以上のようなオープントレーニング業務の特性を踏まえた上で、私がどのように考え、教育を設計し、進行させ、調整しているのか?
改めて言語化しておこうと思う。
非常に感覚的な話で申し訳ないのだが、大きく分けて二つのイメージがある。
ひとつめは、円形の回転、教育(インプットとアウトプット)のサイクル。
ふたつめは、波形の流れ、緊張と緩和、不安と自信の揺れ動きだ。
まずは、円形の回転の話。
〇教育の基本1:人はアウトプットで成長する。
人はインプットしたときに成長したように勘違いしがちだが、インプットは気付きであったり理解であるだけで、成長ではない。成長はアウトプットにしかない。特に技術習得の場合はアウトプットを繰り返し自分のものにしていかなくてはスキルにならない。
従って、ポイント、コツ、注意点をインプットさせ、それをすぐにアウトプットさせる。
このインプットとアウトプットを繰り返し繰り返し、回転させていくこと。
回転の大きさ(インプットとアウトプットの量や範囲)と回転の速度の2つを設計し、調整していくことをしている。
・回転の大きさについて
回転の大きさとは要するに、教育(回転)単位を設計することだ。
店舗オペレーションをどの程度の大きさで分割するかを設計するわけ。
例えば、お出迎えだけで教える(回転させる)のか。お出迎えから料理提供までを一気に教える(回転させる)のかということ。
もちろん細かく分割した方が丁寧な進行となり、幅広い対象者にとって(飲食未経験者や高齢者は特に)分かりやすくなり、バラツキなく成長させることが出来るようになるわけだが、デメリットとしては、もちろん時間がかかることだ。
教育のクオリティとスピードのバランスをどこでどのように取っていくか?
これが非常に微妙だ。
このバランスはトレーニング開始前に設計し、トレーニング進行中に随時調整をしている。
・開始前の設計:理念や大事にしたいことは企業や店によって違うので、その部分をヒアリングして、丁寧に(細かく分割)実施する部分を決める。そして、オープン日となる期限までの教育可能時間を考慮して、スピーディーに進める(大きく分割する)部分とのバランスを取って設計している。
・トレーニング進行中の調整:さまざまな状況や状態を考慮しながら、その場その場で判断し回転の大きさを調整かけていくことをしている。
特に、スタッフの事前能力と習得力と精神状態をよくよく注意して観察し、全体最適を導き出すようにしている。
・回転の速度について
飲食店のスタッフトレーニングにおいて、教育項目は大きく分ければ2つある。
作業スキルとホスピタリティマインドから発せられるホスピタリティ言動だ。
オペレーションが間違いなく、かつ効率的に進められるようになるための作業スキルと、お客様により快適で心地よく飲食していただくためのホスピタリティ言動。
どちらも非常に大事でどちらかが欠けるとお店の存続が難しくなる。
しかし、この2つ、習得するためのステップに大きな違いがある。
その違いに合わせて、(インプットとアウトプットの)回転の速度を調整している。
ひとつめの作業スキルは、繰り返し実施することによって習熟度が上がっていく。
言い換えれば、作業スキルは慣れで向上していく。最初にコツやポイントをインプットし、後は繰り返しアウトプットを重ねていくこと。
限りある時間の中でなるべく多く実施すること。
要するに、回転速度を上げることで作業スキルは向上する。
一方、ホスピタリティマインドは作業を繰り返しても向上していかない。
むしろ作業を覚えよう、間違いないようにしようと思えば思うほど、手元を見て、お客様の顔を見なくなる。イコールホスピタリティマインドは減退していく。
作業スキルを向上させるためのインプットとアウトプットの回転を少し緩めて考える時間が必要になるのだ。
どう考えるのか。
それは自分思考や店側思考で考えるのではなく、顧客側の思考になって考えてもらうことでホスピタリティマインドを高め、マインドを言動に繋げていく。
顧客の思考になるために効果的なのが、ロールプレイングという教育手法。
ロールプレイングとは、現実の場面を想定して疑似体験する学習方法で、スタッフの立場を体験するだけでなく、お客様の立場も疑似体験させることができる。
お分かりの通り、お客様の立場を疑似体験したとて、スタッフとしての作業スキルは全く向上しないのだ。
しかし、接待をしたことも受けたこともない若いスタッフでも接待の場面を疑似体験することが出来る。子供がいない親を疑似体験できる。まだオープンしていない自店舗にお客様として入店して体験することが出来るのだ。
疑似であったとしても体験(インプット)することで、想像力と共感力が向上していく。
なるべく詳細に設定をした顧客の立場になり疑似体験することで顧客の思考に近づけていく。
そしてまた、ここが重要なのだが。
店や会社が掲げた行動指針のようなこだわり項目を顧客の立場で疑似体験したときに、その人が“心地よい”と実感できると、スタッフ自身が行動指針に対し本当の意味で共感が生まれ、自発的な行動に繋げることが出来るようになる。
トレーニングにおいて、顧客の立場のロールプレイングをやる時間や、褒めたり感謝したりする時間を作るということは作業スキルの向上は一旦お休みとなるが非常に重要な時間となる。
しかし、これはまた時間のかかる話なので、全体のスケジュール進捗とスタッフの共感度によって随時調整をかけていくことになる。
ちょっと長くなったので、もうひとつのイメージである波形の流れの話は別に書きます。
感謝します。