COURTのはじまり②
COURTは2016年にデビューします。現在のCOURTアートディレクターであるドロワーの池田さんが最初のプレゼンをしてくれたのが2014年初夏。ローンチまで2年ほどかかったことになります。その間僕が何を考え、どんな紆余曲折を経て今のCOURTに至ったか、ここからはローンチまでの2年間のことをお話ししたいと思います。
本当の強みは何か?
当時の僕は、かなり焦っていました。2012年に啓蒙ブランドのcarpetroomを立ち上げたもののなかなか手応えを掴めず、とにかくプロダクトブランドを作って販売して、早く目に見える形の成果を出したいという一心でした。
池田さんがラフの提案をあげてくれた段階で、すぐに試作に入りました。しかし何度サンプルを作ってみても、なかなかしっくりきません。コンセプトなどの建て付けも詰めないままアイテムを作ろうとしていたので、当然といえば当然ですが、それだけ焦っていたのだと思います。ついに池田さんの方から、「本当にこのまま進めていいの?」と声をかけてくれました。
(当時進めていたラグ)
僕らが進めようとしていたのは、ハンドタフテッドという技法で作るラグ。基布に繊維を植毛していくタイプで、弊社の協力工場でつくっています。在庫リスクが少なく、ラグ1本からつくれるのがメリットです。
ですが堀田カーペットの本来の強みは、ウィルトンカーペットという、たて糸とよこ糸で高密度に織り上げていく織物カーペット。丈夫で独特の上質感があり、高級ホテルのロビーや部屋に敷き込まれているのは、ほぼ間違いなくウィルトンカーペットです。
堀田カーペットとしてラグブランドを出すなら、これを生かさない手はない。国内でもつくれるメーカーは限られています。それでもウィルトンに踏み出せずにいたのは、その在庫リスクが理由でした。織物カーペットは幅約10m、長さ20mほどの大きな織機で、一回に10,000本ほどの糸を使って織りあげます。一度つくれば、糸も生地も、大きな在庫を抱えることになる。結果を出そうと焦る中、大事な視点が抜け落ちていました。
「在庫リスクに関係なく、本当に自分たちのやりたいことは何か?」
答えは明白でした。やりたいことをやった上で、在庫リスクはビジネスとして成立する道を考えればいい(このことは、次回後述します)。もう一度基本に立ち返って、ウィルトンカーペットでブランドを考え直すことにしました。
「ファブリックのようなカーペット」を目指す
次に僕らが目指したのが「ファブリックのようなカーペット」です。ウィルトンカーペットは、織り方次第で多彩な色柄を生み出すことができます。しかし同じ織物でもネクタイやスーツに使うファブリックとは大きな違いがあります。柄の緻密さです。
そもそもアイテムのスケールが大きいので、カーペットの柄は1ドット(たて糸とよこ糸がクロスするひと目)3mm。ファブリックに比べると柄がざっくりしているのです。
「もし織り方を変えて柄を緻密に表現することができたら、仕立てのいいファブリックのような、従来にないカーペットが作れるんじゃないか?」
建材でなくインテリアとしてカーペットを暮らしに取り入れてもらうために、僕らが目指したのがアパレルっぽさのあるラグでした。中でも同じ織りで柄を出すファブリックなら近づけられるかもと、すぐに試作を再スタートさせますが、ここでも行き詰まります。どれだけ柄を細かくしても、やはりファブリックにはならない。「カーペットはカーペット」なのです。
この結論にたどり着いたのが、2015年の年明けごろ。池田さんのプレゼンがあった2014年夏から、あっという間に半年が経っていました。
ロンドンで出会った「S.E.H KELLY」の衝撃
転機が訪れたのは、2015年の2月、出張でロンドンへ行った時です。何か現状打破するヒントがないかと、現地に詳しい知人におすすめのお店を教えてもらい、リストアップされた50軒すべてを訪ねました。その中の一軒、「S.E.H KELLY」というテーラーに、僕が思い描いていた「なりたいブランド」の理想像がすべて詰まっていたのです。
夫婦ふたりでやっているテーラーで、決してスーパーブランドではありません。トレンドを追いかけず、作るものにファクトリー感があって、それがお店やサイトにもにじみ出ています。
仕立ての良さ、品物の素晴らしさが支持を集めて、路地裏の小さなお店に世界中からファンやバイヤーが訪れます。ものづくりの姿勢がそのままブランドの顔になっている。COURTの目指すべきブランド像はこれだ、と思いました。
こうしてCOURTのトーン&マナー(らしさ)の軸が見つかったころ、時を同じくして池田さんから、ものづくりの突破口となる新しい提案がありました。
目指すのは緻密なファブリックでなく、ざっくりしたニットだ!
「もっとざっくり織る方が、従来のカーペットっぽさを無くせるんじゃないか」
僕らがCOURTでチャレンジしたかったのは、暮らしに身近なアパレルっぽさのあるラグでした。そこで同じ織物であるファブリックの緻密さを再現しようとしましたが、これはうまくいきませんでした。でも、服地には織物の他に、編物の生地もあります。
「むしろニットのようにざっくりと織った方が、品のいいセーターのような雰囲気の、新しいカーペットの提案になるかもしれない。目指すべきはニットだ!」
こうして、ブランドのトーン&マナーと、ものづくりの方向性が一気に決まっていきました。COURTの第一弾シリーズ「フィッシャーマンズ 」がデビューする、ちょうど1年ほど前のことです。
次回は、いよいよデビューまでの1年間の取り組み、理想像からどうものづくりにつなげていったか?について書きたいと思います。
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