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プッチーニ『修道女アンジェリカ』① 伏線回収
大ヒットドラマvivantの中で堺雅人演じる乃木憂助は、手に持った重さを誤差10gの範囲で当てることができる、という特技を第1話で見せていました。これが後の銃に弾が入っていないことや、養護施設での食事の分量のうそをあばくことに繋がっていきました。「伏線回収」というやつですね。
「伏線」とは「小説、戯曲、詩などで、後の方で述べる事柄を予め前の方でほのめかしておくもの」と「後の事の準備として、前もってひそかに設けておくもの」といった意味を持ちます。
プッチーニのオペラ「修道女アンジェリカ」にもこのような伏線回収があります。シスターキアーラが蜂に刺された!と看護係修道女が飛び込んでくる場面があります。アンジェリカは草花から薬を作る方法をよく知っていましたので、調合して渡します。その際看護係修道女は
「シスターアンジェリカは花々でよく効くお薬を作る方法をご存知です。」
と歌います。
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その後アンジェリカは公爵夫人との面会で、自分の子供がすでに死亡していることを知ります。絶望の縁に立たされたアンジェリカは、先ほどの看護係修道女が言った言葉を繰り返し、息子のもとへ急ごうと草花を摘み毒薬を調合して飲むのです。
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同じテキストが繰り返されることにより、アンジェリカの得意なこと(薬の調合)が自死のために使われることを印象付けるのです。両者ともフリギア旋法(短音階の2番目の音が半音下がる)で和声付けされているのも共通しており、音楽的にも「伏線回収」がなされている、というわけです。
伏線とは回収されて初めて「伏線」と呼べるものなので、最初の歌だけでは伏線回収とはなりません。実は『修道女アンジェリカ』の初版ではアンジェリカが繰り返す歌をプッチーニは書きませんでした。その後の改訂で看護係修道女の同じ歌詞を繰り返す、ということになったのです。改訂のおかげで「伏線回収」が成され、ドラマとしてもより理解しやすくなったわけです。