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2010年新国立劇場「影のない女」稽古日誌

先ごろ終演した二期会「影のない女」について記事を書くために過去の資料を見返していました。するとmixiに2010年の新国立劇場上演について、稽古初日から千穐楽までの詳細な稽古日誌をつけていたことを思い出したのです!14年前に私自身が書いたものですが、今見るととても面白いですし当時の貴重な記録かとも思いましたので、mixiから引っ張り出してきてnoteにまとめようと思い立ちました。音楽スタッフの仕事ぶり、私自身が感じたことなど、当時のまま一字一句変更なしに載せますので、是非楽しんで読んで頂ければ!

ちなみにFroschとは
Die Frau ohne Schatten
の頭文字をとったものです。

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・Frosch
2010年04月22日09:20

欧州の空の便の混乱でスタッフキャストの来日が危ぶまれていたが、なんと!みんな無事に着いたそうだ。稽古が遅れるんじゃないかと期待してた我々にはぬかよろこびとなった…

ついに、影のない女スタートです!今回は演出家の希望なんだろうけど、10時~14時、15時~19時の稽古枠。朝10時ですよ!はあ、通勤に一時間かかる身としてはなかなかつらい

たま~にあることはあるが、最近なかったのでこれから朝型に切り替えないといけない。

昨日は今回初めて新国立劇場のプロダクションでピアノを弾くYさんと練習。いつもの4人だけでなく、たまにこうして新たな人が入るのです。新国は二期会や他のプロダクションと違い事前の音楽稽古というのがありません。普通は音楽稽古を弾きながら慣れていけるのですが、ここではそれができないのです。初の職場で「影」のような難曲をいきなりレパートリーでもってる歌手達の前で弾けといわれるプレッシャーはいかばかりでしょう。想像するだに恐ろしい!というわけでピアニストと事前に合わせをやるわけです。私も振りながら歌うので勉強になります。しかしこの曲、ほんと覚えられんわい…

さてさて一体どんな稽古になるんでしょうか。私自身もリングの時と違い不安をかかえながらの参加です。きっと本番を迎えるころには楽しめるようになってる…はず?!

・Frosch 初日
2010年04月23日12:44

昨日は10時の顔合わせのあと、4時間2コマの濃密な稽古。
演出家のクリエフ氏はこの演出のために3年ほどかけたという。そのためか何をやるにしてもすべて自信に溢れてる感じ。初めての場面をやるときはまず読み合わせをして理解をはかる。動いても細かいとこまでどんどん注文をつける。稽古の最後には今日やったとこの復習。
途中でハタと気づいた。この人のやり方といい、時折見せる笑顔といい、しゃべりずきなとこといい、キースウォーナーにそっくりなのである!思わず当時を知る歌手に「似てるね~」と言いにいったよ。なんだかなつかしいテイストなのさ。こりゃきっといいものができるんじゃないかという勝手な予感

しかし一日やっただけでこの作品世界に取り憑かれてしまった!なんだかんだいってもすごい作品だよ。昨日はコレペティもしたが弾いてて楽しいんだな、これが。歌手もよいしいい感じですよ。

しかし最近の私はトリスタンやったと思えば影をやり愛妙も振りながら明日から最重要なリングだ。よく飽和状態にならないと自分でも感心するよ。頭のスイッチの切り替えが苦もなくできるようになってきたってことだろうか。さて今日も稽古と本番である。

・Frosch2日目&愛妙#4
2010年04月24日11:30

影は頭から順番にやっている。午後にはバラクの妻役のフリーデさんも到着、一年ぶりの再開で向こうも覚えててくれたよ。
我々音楽スタッフは今回私、石ちゃんに加えトミーがいる。ピアニストはシュトラウス経験豊富な女性二人。舞台に入ればネモーンもフランスからやってくる。かなり手厚い布陣だ。バンダや舞台裏がかなり大変になることを想定してのこと。まだマエストロが来日していないので指揮陣は二人ずつでシフトを組んでいく。私は本来プロンプターだが昨日は指揮。一幕二場のバラクの家のシーン。登場時間は短いが三人の兄弟のアンサンブルは難しい。その後二人のシーンを少しだけやった。

18時すぎに中座して劇場の本番に。影から愛妙へ、驚異的な違いだ

幕間には東フィルのコンマス氏と話す。バンダの入りが一瞬遅いそうだ。これほんとコンマ何秒のさじ加減。裏でやってると完璧にいっているのだが、表へのきこえかたが勝負だからね。こうして言ってもらえると助かる。この緊張し難しい作業を最終日だけ上司にお任せしなければならないのは心が痛い。

家に帰るとかなり疲れていたが、ばらの騎士の三重唱とクレンペラーのブラ1を聴いたら癒えた

荷造りをして今日は今から名古屋である。劇場のみんな、この二日間よろしく頼みます

・通常業務へ
2010年04月26日13:49

名古屋ワーグナー管弦楽団の演奏会が終了。昨夜は疲労と酒の力で死んだように眠った。今朝起きたら体が重く筋肉痛も出て動きたくないかんじ。しかし東京に戻って通常業務が待っている。私が穴を空けていた二日間に影は一幕を通してしまったみたい。プチ浦島状態に陥りそう…
今日は二幕を振る。まだまだリヒャルトの嵐は続くのである…

演奏会のことはまた書こうと思う。

・Frosch 7日目
2010年04月28日21:31

今日から東響のオケ練もはじまった。つまりマエストロは立ち稽古にいないってわけで、私が8時間の立ち稽古担当だった

朝は2幕4場、皇后の歌のシーン。一通りついたら3場から流す予定だったが、とまりとまりになってしまった。午後は5場、ここは音楽的にも一番やっかいな場面。演出家の説明、音楽稽古をしてから動く。それにしても各人の歌を全部聞き分けることは不可能なシーンだ。頭をフル回転させて聞いても把握しきれない。外人勢はプロンプがあることで安心していたよ!これで一通り二幕は全部ついたってことだ。
いや~、とにかく疲れたよ

でもだんだんこの作品いやじゃなくなってきたよ

やるたびに馴染んでくるのがわかる。

明日は休みであさっては一二幕の通し稽古だとさ

まだまだ忙しい日々は続く!

・Frosch 8日目
2010年04月30日19:25

今日は朝10時!から2幕通し。私の体はまだ眠ってるのに強制的に起こされた感じ。2幕を振るには相当集中力を要求されるのだ。1時間かけて通し、休憩後は2時間半ぶっ通しで直し稽古、最初っから全部やった

こりゃかなり限界に近いでっせ!

15時からは今度は1幕の通し、石ちゃんが振って私は本職のプロンプター。前に通したのが名古屋にいた日曜日なので、私は初めて見た。

その後はオケ練に立ち会う。そう、マエストロは昼からずっとオケ練してたのだ。おとといの初回の練習では全部通したので、今日から細かくやる。何度も止めながらやるので、オケには様子がわかっていいかもしれない。しかし難しい曲だ!作品番号としてはアルプス交響曲の次に書いた作品だが、アルペン以上にやりたい放題書いている。特に弦楽器!細かい音書きすぎです、リヒャルト先生!最後のコマは弦楽器だけで分奏したが、こういう練習は必要だ。

というわけで今日も超濃密な稽古が行われたのでした

明日はマエストロ音楽稽古もあるし、立ちはいよいよ3幕に突入するし、またまた大変な日になることは間違いない。十分休もう

・Frosch 9日目
2010年05月01日19:39

今日から3幕に突入。最初はバラクとその妻の二重唱。シュトラウスが書いたなかで最も美しい音楽、と評する向きもあるそうだが、私に言わせればシュトラウスの類型的な音楽にみえる。美しいに違いないが、何故ここでこれがでてこなきゃならないのか今一理解できないのだ。

今朝はマエストロが途中まで振った。いかにも職人っぽくちょっとしたことには動じないという感じが安心感を与える。あんなふうに飄々と振ってみたいものだが…私にはまだ無理だ。

マエストロは13時前に音楽稽古のために抜けてしまったので、そのあとからはバトンタッチ。昼を挟み18時まで皇后と乳母のシーンをやる。この辺の音楽は全曲中でももっとも捕え所のないところかもしれない。しかも場面は「霊界」とあって、場の雰囲気も昨日までとちょっと違う。演出家は霊界の王カイコバートを「ケイコバ」って発音するもんだから、「それ日本語で稽古場のことですよ」って演助が説明していた

月曜からは「全曲通し稽古」があるらしい。一コマ4時間あれば通るんだけど、物凄い集中力が必要とされるだろう。山場が迫っているが、日曜日の公演の疲れをとらないうちに今日まで突っ走ってきたので体はガタガタ

稽古場ではあくび連発!整体にいける時間ができるのを夢みています

・Froschの思い出
2010年05月03日09:42

今回の「影のない女」新国立劇場公演は、1992年に愛知の芸文のこけらおとしで行われたバイエルン国立歌劇場の公演以来だ。私はこの公演を見に名古屋に行っている。当時作曲科を卒業して指揮科の一年生だった私は、作曲科の後輩と共にこの珍しいオペラを見にいくことにしたのだ。まだオペラで食うなんて考えもしなかった時代、オペラのおの字も知らなかった時でただただすごいものやるぞという興味本位なのであった。この公演NHKホールでもあったようだが、劇場機構の違いでカットも変わると聞きどうしても名古屋のを見てみたいと思ったようだ。

公演日の午前中に東京を出発し車で名古屋に向かう。1時間くらい前には会場についた気がするなあ。そして初めて見る、我が国のオペラハウス!なんとすごいのだろう。まだ新国立劇場のことなど考えもしない時代だ。日本にこんなすごい劇場ができたなんて驚きだった。

公演の指揮はザバリッシュ、演出は市川猿之助の壮麗なる歌舞伎様式。オケもすごかったが舞台の美しさにあっけにとられた。正直いうと話しの内容についてはそれほど知識があるわけではなかったし、難しい音楽、長時間ドライブのせいもありうとうとしてた時間が長かった。それでも3幕最後の二組のカップルが橋の上で4重唱を歌う場面などは印象的だった。

終演後は直ちに東京に向かう。翌日の朝一の授業にどうしても出ないといけないのだ。もう夜10時をとっくに回っていたが、夜通し東名を走る。今なら考えられないけどね、当時は22歳こんな無茶も平気でやっていたんだ。途中足柄だったかな?お風呂に入れるSAがあり疲れをとる。確か朝6時には芸大について仮眠していたようだ。

その時勉強のために買ったフルスコアが今になって役立つとは思わなかったよ(実際今劇場で使ってるのはドーバー版なので、ハードカバーは家用)。そして新しい日本語字幕つきDVDも発売された。まさに私が見たその名古屋公演の映像である。日本語字幕つきっていうのが画期的。いままでこのオペラには難解な渡辺護訳しかなかったのだから。もちろん字幕ゆえ細かいところははしょっているが、作品の内容を追うには充分だ。今度の新国立劇場公演をご覧になる方の予習用として推奨したい。

しかし今直接公演に関わっていながら、それでもこのオペラは難解である。ちょっとやそっとで理解することは不可能だ。テキストの解釈もだし音楽も。私は毎日毎日こんだけやってやっと少しわかってきた程度。とくにシュトラウスの音楽を味わい尽くすには、聞き手にも猛烈な教養が要求されるだろう。

とまれこの作品を味わう下地は揃ってきた。今回の公演がこの作品の真価を見直すきっかけになればうれしいことだ。

・Frosch いよいよ佳境
2010年05月03日19:50

今日は我々のカーポがお休みでマエストロはオケ練ということで、また私の出番。朝10時から始まるはずが出演者一人が遅刻したために1045からに。いよいよ最後の4重唱だ。ここをつけおわり、3幕を頭っからすべて通す。マエストロに倣って超省エネで振ってみた。そしたらぜんぜん疲れなかった

大曲を振るにはペース配分も大事ですよね。

さて午後は最も複雑な2幕の通し。快調に力抜いて振っていたが、バラクの妻が出てくると途端に緊張が走る。いろいろ危なっかしくてこちらも肩に力が入ってしまう。でも疲れることなく2幕も終わった。

これで明日はいよいよマエストロと全曲通し稽古だ。初めて全貌が明らかになるだろう。立ちがついた一方で音楽的には明日からが勝負だ。マエストロのテンポ感を察知し私も完璧に歌手をサポートしないといけない。頑張ろう!

・Frosch 通し稽古終了
2010年05月05日21:08

稽古場での練習も今日が最後。昨日今日と全幕通しをしました。
昨日は初めてマエストロヴェヒターが全曲を振りました。ほとんど私が振ってた解釈と一緒でした。ただ全体に早いテンポ指定のところがだいたいゆっくりめ。まあ、もともとシュトラウスのメトロノームは早過ぎることが多いので実演向きのテンポといえるでしょう。初めてやる部分も多かったわけでうまく一発で合わないとこもありましたが、大した問題にはなりません。
今朝はまたマエストロがオケ練なので、カーポ石ちゃんの指揮。昨日のマエストロのテンポを踏襲してやりました。こうしてマエストロのやり方を見て一回で記憶する能力が私たちの仕事には必要なのです。昨日に引き続きやったおかげで昨日の問題点もほとんど解決されよい通し稽古となりました。

何より称賛したいのは二人のピアニスト、かなちんとしずちゃん。今回は幕ごとに分担したわけでなく一日一人!つまり一人で最初の音から最後の音まで弾かなくてはいけないわけです。二人は見事に重責を果たしてくれました。こういうことのできるピアニストは日本広しといえどなかなかいないと思いますよ。新国立劇場はすごいスタッフでやっているのですよ。

さて明日は休みをもらいました。あさってはオケ合わせ、日曜日から舞台稽古へと進みます。テンションの高い時間がまだまだ続きそうです。

・Frosch Sitzprobe
2010年05月08日00:52

今日はSitzprobe。二日間あるうちの一日目です。今日は4時間かかるこの曲をほとんど止めずに通します。声だけの歌手は今日初めての参加。全体の様子をつかむための日といった感じになりました。明日はもっと細かくやるのでしょう。

さて、「影のない女」に登場する珍しい楽器があります。なんでしょう?

もちろんワーグナーチューバやバセットホルンも珍しいのですが、

正解は「グラスハーモニカ」!!

3幕の「門衛の守護者」の場面や「飲みません!!」と皇后が言ったあとにカイコバートの意志が変化する時などに登場します。グラスハーモニカといえばたくさん並んだグラスの淵を濡れた指でこすって発音する楽器です。Youtubeなどでこの楽器をすばらしく演奏する映像がたくさん見られます。えも言われぬ美しい音色は通常のオーケストラにはない音色で必ずや耳を奪われることでしょう。しかし今回は残念ながらその本物を使うという話しにはならず、バイブラフォーンをコントラバスの弓でこするという現代音楽に出てきそうな奏法で代用します。シュトラウスはスコアに同時に6つの和音を鳴らすように書いているので、これを実現するには3人の奏者が2本づつ弓を持って楽器を囲むように弾くという荒技です。しかも奏法の特性上、発音が遅れ気味になるので少しずつ早めに弾きださないといけないのです。本番はこの楽器が目立つ位置で演奏される予定、果たしてどんな効果が出るのか楽しみにしていてください。

いやしかし、登場する楽器が一同に初めて会したのですが、とにかく圧巻です!編成をあげておきます。

Fl.2 Pic.2(3,4Fl.) Ob.2 E.Hr.(3Ob.) Es-Cl. B-Cl.2 Bassethorn(C-Cl.) BassCl. (C-Cl.) 3Fag. C.Fag.(4Fag.)
Hr.8(1-4Tenortuben) Trp.4 Pos.4 Basstuba
4Pauken Becken KleineTrommmel Rute Xylophon Schellen GrosseTrommel GrosseRuhrtrommel Triangle Tamburin 2PaarCastagnetten Tamtam
Celesta2 Glockenspiel 5ChinesischeGongs
Glasharmonika Harfe2
16 Vn.1 16 Vn.2 12 Va. 12 Vc. 8 CB.
<Banda>
Trp.6(そのうち2人は5,6Trp.としてピットで演奏) Pos.6 Tamtam4 Orgel Windmaschine Donnermaschine

どうです!リングを遥かに凌駕する大編成! さすがにBandaの人数は少なくしてますがこれらがピットに所狭しと収まるのです。ほんとバブリーな曲です!余談ですが…シュトラウスはシェーンベルグの「グレの歌」の第一部を見て続きを書くように援助したということですが、その編成はバブリーの極致といえるでしょう。編成は 8-5-7-5 10-7-7-1 Str.20-20-16-16-10 ワーグナーテューバやバストランペット、コントラバストロンボーンも入ってる!こういう作品にはさすがのシュトラウス先生も刺激を受けてたんじゃないでしょうかね~。

あさってからは舞台稽古にカヴァー稽古も始まります。忙しい追い込みの日々がやってきます!!

・Sitzprobe 2日目
2010年05月09日00:25

今日はマエストロヴェヒターのすばらしさについて書きたい。今日も全体を流していく稽古、昨日予想した細かくとめて返すというのはまったくなかった。しかし昨日に続いて2回目ともなると、オケも歌手も指揮者も、昨日とは比べ物にならないくらいよくなっている。みんなプロだから昨日起こった不具合は自主的に解決できるのだ。それをマエストロはわかっててこのようなやり方をしている。

まったくストレスフリーの稽古方法!歌手はただでさえ疲れる曲を何度も歌わされないし、流れで感じていける。問題があった箇所は歌手を帰したのちにオーケストラだけで行う。そして東響は見違えるほど完成度の高い音色を奏でるようになってきた。こういう難しい曲は経験がものをいうのだ。何度かやっているうちに言葉でいわずともみなで理解しあえるものだ。声だけの歌手も昨日に続いてやってもらえてるので、これで舞台に行っても安心だろう。

マエストロは必要以外のことは全くしゃべらない。オケ練の時はしつこいぐらい細かくとめて説明し一日一幕づつ丁寧にやったが、ある程度まできたら口でいちいち言わないのだ。抑制された身ぶりでもやりたいことがはっきりとわかる。プロフェッショナルな演奏家を信頼しているのがとてもよくわかる。Sitzprobeの段階でここまで出来ていたら今後舞台に行っておおきく成熟できるだろう。シュナイダーの時のばらのように、ピットに入ったらとてつもなくよい音がするという事が現実として起こるかもしれないぞ!

すべて経験豊かなマエストロの冷静な練習運びのおかげだ。何が起きても決して慌てず騒がず、淡々と進めるその姿は「職人」そのものだ。私も今までに様々な指揮者を見てきたが今回ほど感銘をうけたマエストロは他にいない。私の理想とするところである。

明日からは舞台稽古、なんと!朝10時から!!劇場始まって以来じゃないだろうか、こんな早くからやるのは。私は久々に箱入りする。棒に合わせられない歌手が若干いるので…、私の仕事も重要になってくるだろう。

舞台稽古3日目
2010年05月11日19:47

もうすごい体の凝りだったのでいきつけのマンボウ整体に行ってきた。プロンプターボックスで仕事してるとかなり無理な体勢になってるのかも、すごく疲れる。
今日は3幕の舞台稽古。これで全部やったことになる。明日はサウンドチェックがなくなったので思わぬ休みが舞い込んだ

毎日朝10時からだったので明日は寝るぞ!

あさっては全幕通し稽古。やっとここまでたどりついたよ

終わったあとの音楽スタッフお疲れ様会は名古屋めしに決定!楽しく飲めるよう頑張ろう

・やすみだ~
2010年05月13日01:20

今日は予定されていた稽古がトリになり思わぬ休暇となった。

朝はうちのピアノ(NYスタインウェイK132 1909年製)の調律が入っていた。調律が終わって試し弾きをしていると、調律師東さん(彼の仕事にはいつも満足だ)が「最近リヒャルトシュトラウスを聴いてるんですけど、シェーンさんのカンパニーでシュトラウスやったりしますか?」と言ってきた。前触れもなく言われたので本当にびっくりしたよ。来週から「影」があると言ったら是非行きたいですって。

午後はマッサージ椅子に座ってビデオを見る。途中うとうとして昼寝をしてしまったよ。仕事のある時には絶対できないゆる~い時間が流れていく。子供が3時に帰って来ると友達が家にやってきたので寝てられない。娘の友達はDSをもってきて娘とDQ9の通信で遊んでいた。は~、嘆かわしい!妻がフルートを吹いていたので合わせをしにいく。いつも適当にその日の気分で曲を選んでアンサンブルをするのは昔から二人でやっていることだ。今日はクーラウの大ソナタとプロコフィエフのソナタ。きのうのマンボウもの凄い勢いでやってもらって肩と腕のもみ返しがきつく、プロコをちゃんとひくだけの集中力はなかった。4楽章でボロボロになる。しかし調律したてのピアノは気持ちいい!

夕方からはほんとはディズニーシーに行く予定だったが、子供の宿題がおわらず時間がなくなってしまった。変更して夕食だけ外に食べにいくことに。朝ワイドショーでやっていた話題のステーキハンバーグの店「けん」が船橋にもあることを知りそこにいこうと私が提案すると妻が、「その店口コミヒドいよ」とのこと。チェックしてみると全部が「最低」とか「2度といきません」とか「店員の態度がヒドい」といったもの。他がすべてそうだとは思わないが、ここまでひどく書かれていたらなんだか行く気をなくして、いつもの回転寿司「銚子丸」に変更。

風呂に入り、子供が寝たあとは「トリスタン」をさらう。今もっとも気になってる3幕、音楽的には一番難しい。弾くのも難しい。今の仕事ではオケだけを弾くのではなくて歌手の音も弾いてあげないといけないので、「オケを弾きつつ歌のラインも弾く練習」もしとかないといけない。複雑に変わる和声の中でこれをやるのはなかなか大変だ。2幕まではそれほど苦労しないのにな…

こうして休みの一日はあっという間に過ぎていくのでした…
さて明日は影のKHP、全幕通し。衣装もあるし初めて全貌がわかる日だ。私のプロンプター業務も歌手のクセがわかってきたのでだいぶ落ち着いてできるようになってきた。あさってから3日間のBOとGPを経てやっとプレミエを迎えるわけだ。今季最大の演目もいよいよゴールが近づいてきたぞ!!

・ピアノ舞台稽古終了!
2010年05月13日22:02

今日でピアノ舞台稽古終了!頑張ってくれたピアニスト二人と私と石ちゃんで「世界の山ちゃん」へ。

銀河高原ビールが飲めるのがなんといってもいいですなあ。定番の手羽先を始め名古屋めしを食べまくりました。

帰りは酔い醒ましに花園神社でお参りして、ホテル街を散歩しました。最新のホテル事情を私が解説(?)しながら歩きました。

明日からカヴァー稽古は続きますが、ひとまず区切りです。やっとお祝いができてよかったです~

・BO 初日
2010年05月14日19:58

マエストロの本領が発揮された日だった。ピットは過去最大の人口密度。出入口にはすぐワーグナーチューバがいる!私は直前までアンサンブル稽古をして急いでピットへ駆け付けたが、たくさんの人に「すいません、すいません」って言いながらプロンプボックスまで行った。早めのスタンバイが必要だな、こりゃ。

誰にとっても慣れるまでは大変な曲。最初のいくつかのシーンはとても細かくやった。あのおとなしいマエストロが激する場面もあった。しかしこうして手綱をしめておいたお陰で、二コマ目にはもう素晴らしい音がしている。全員の学習能力はすごいものだ。

歌手に対しても細かなずれを最初は見のがさず直していく。これだけの大曲だが精緻に作る姿勢を見せることにより、以後あまり止めなくても引き締まった音楽が出来上がってくる。

まさに職人芸。劇場をよく知り、練習の方法も完璧である。流しながらも問題のある箇所は余さずチェックする。バランスも細かくやる。後ろで聴くスタッフにも意見を求めつつ直していく。おかげで初日にしてもう素晴らしい音になった。この公演今までにない高水準の演奏になるだろう、音楽的には。

こんだけたくさんのオペラやっててもなかなかすごいマエストロには出会えないものだ。しかし今回はその至芸に感服している。まさに私の理想とするマエストロだ。シュナイダーもそうだったが、ほんとにすごい人は性格は穏やかで慌てず騒がず冷静に事を運ぶ。私もそうありたいと心から思う。このマエストロと共に作り上げる喜びを感じてる。

今日はニ幕まで。明日はバンダやいろんな面倒なことの多い三幕だ。朝からカヴァー稽古もあるのでゆっくり休んで頑張ろう

・激しい一日
2010年05月15日21:45

今日も激しい一日でした。
朝はカヴァー稽古、一幕と二幕の頭。プロンプしながら振ります。疲労がとれておらず、機械的な仕事になってしまったかも。稽古中に制作から今日は乳母がお休みと連絡が入りました。毎日日替わりで誰かいない…で、今日の午後はヨコシマさんが歌うことに。カヴァーのみなさんにとっては非常事態だったけど、こういう時のためのカヴァーでもあるんです。せっかく勉強したのを披露する機会があってよかったと私は思いますよ。

さてBOは2回目。2幕を必要なとこをやり、すぐ3幕へ。こりゃ今日は早く終わるなと思ったらさにあらず。3幕はバンダや裏歌、オケのバランス等問題が多いのです。結局最大の7時近くまでやりました。でも3幕にこれだけかかるのを見越して昨日2幕までやっておいたのだとしたら、マエストロの計画性の勝利です。これは経験のない人には絶対真似ができません。練習も必要なことは必要なだけしっかりやり、無駄なことは一切しません。もう何から何まで脱帽です!オペラ指揮者の能力とは本番をうまく振ることだけではないのです。もちろんプロセスがうまい人は本番もよいことが多いし、練習がダメだと大抵本番もダメなものです。

その後は場所を移動してトリスタンの稽古へ。それまでの時間ピアニストが稽古をつけといてくれましたが、バトンタッチ。私が一人でやりましたが、ピアニストの前でピアノ弾くというのはなんとも気恥ずかしいもんです…。トリスタンの1幕全部と2幕前半をやりました。影で疲れ果てていたのにトリスタンやったら気持ちがアグレッシブになり元気になりました

これぞ、ワーグナー健康法!

明日はまたカヴァー稽古をやってから、舞台は全幕通しです。いよいよ本当の意味で全貌がみえます。でも私は淋しく箱の中…ああ、影見てみたい

・Frosch GP
2010年05月18日00:57

ついに迎えたGP、4月22日の稽古開始から3週間とちょっと、今回はすごく長い道のりに感じました。3日間のBOに引き続き行われたGPなので、歌手の皆さんさすがに声の疲れは隠せない感じでした。このようなスケジューリングはなんとかならないものでしょうかねえ。

指揮者はもうすべてやってしまったと達観してるのか、いろいろ試そうとしてるのか、今日の指揮には冴えが欠けているように見受けられました。全体のテンポは遅めで、そこまで遅くしたら歌が持たないというレヴェルの箇所もあったのです。それでも歌えてしまう歌手もすごいんですがね、本番ではこのようなアブナいことはあまりしてほしくないものです。とはいえシュトラウスのサウンドは出来ているので、キチンと成立はしているのです。

プロンプターの仕事、今回はいろいろです。外人歌手が5人いるのですが、皆それぞれに対応が違うのです。誰がどうというふうには書きませんが、その特徴を洗い出してみるとこんな感じです。
・いろいろ不安が多くテクスト、入りを全部与える。しかもでかい声で。
・オケとのタイミングを掴むのがうまくない。ピアノの時はうまくいくが、オケになると響きの重さを考慮せずすべて早めに出てしまう。この人に対してはボックス内ですべて指揮してタイミングの微調整をする。
・何度もこの役を歌っていて心配ないが、時々マエストロのテンポ感にとまどっている。時に指揮をしてタイミング調整をする。
・全く問題はないが複雑なアンサンブルのキューを確実に出す。視線は私と絶対合わないが、実は感じてくれている。
・全く問題ないが私のキューをいつも感じてくれている。ちょっとしたタイミングも気にしてくれる知性派。
人により対応が異なるので気を抜けるところと緊迫するところが交互に出てくるのです。これ以外にも動きのきっかけ出しや、間奏曲のカウント、兄弟のアンサンブルの指揮なども箱の中でしています。GP見た妻に「オレの声がよく聞こえた」と言われてしまったので本番は声量は少しセーブしていきたいと思いますが…

ともあれ、公演!なんとかよい結果を残したいと思います。今回は私の責務も大きいのでいつもより気合いをいれて臨もうと思います。

・Frosch 初日
2010年05月20日22:57

初日が終わった。いろんなことがおこったなあ

フリーデにはやられっぱなしだった…落ちるは、動き違うは、とびだすは、でもあの声の馬力は物凄いや

マギーさんの音楽性には感動したし声もシュトラウスにどんぴしゃだ。ルーカスさんはほぼ完璧な出来!バーバさん…微妙だけど頑張ったね

いろいろ助けてあげてるもんだから「ドイツにつれて帰りたい」って言われたけど、まっぴらごめんです

ヘンシェルさん、安定した出来でよかった。平野さん立派な声だった。最初マエストロのテンポがいつもより遅くて少しぶれてしまったかな。高野さん、あの遅いテンポでクオリティー保って歌いきったのは立派です。三人の兄弟、いつも私の棒を見て歌ってくれてる。この難しい動きの中で素晴らしいアンサンブルだった。次回はハプニングないといいけど。生まれざる子供、難しい音程もう少しきまるといいなあ。最後の6人はとても幻想的だった。侍女今日はテンポ速くてびっくり!大隅さん、今日は動きのきっかけ聞こえたようでよかった

歌も○

指揮者はGPと変わらず。もう少しオーソリティーが欲しい。基本的には素晴らしいが、ショルティサバリッシュクラスの演奏をするにはなにかが足りないのだ。まあこの傾向は最終日まで変わることはないだろう。オケはよくまとまった演奏を聞かせてくれた。

なにはともあれ本番の幕が開き、今シーズン最大の山を越えた

私は明日から次の演目「鹿鳴館」に力を注ぐ。年明けから切れ目なしに演目が続いているのだ。ひたすら続く劇場シーズンの旅、でもあと2ヶ月を切った。ゴールは見えてきた。疲れもあるがなんとか頑張ろう

・Frosch #3
2010年05月26日22:45

今日は三回目の本番。三回目の特徴とは…プレミエでがたがたになったところを二回目に直したのが定着に向かう、一方プレミエでの変な癖はもう直らない。指揮者に余裕が出て来るが、緊張感がなくなるとオケは途端に崩れる。で、総合的にはどうかというと、プレミエのテンパリ具合がなくなりいい意味でリラックスした公演だった。歌手も指揮者のやり方を心得てくるしのびのび歌ってたよ。

あと残り二回がどのようにでるか。やはり作品が巨大なだけに指揮者の責任は大きいな。緊張感をもってやってくれたら間違いなく名演になるよ。今日みたいに一幕で振り間違えないでほしいなぁ…

さて、明日から「カルメン」「鹿鳴館」同時スタートです。パラレルでやるので音楽スタッフは総勢9人!こんなに同時に集まるのは劇場始まって以来じゃないだろうか。気楽さが全然違うから、カルメン組と鹿鳴館組で顔の表情がまるで違うんだろうな~

ま、なるべくどよ~んとならないように楽しくやりたいもんだ

・公演のあとに
2010年05月29日22:52

今日のFrosch本番のあとはマエストロと食事会。歌手も来て(乳母バラク皇帝)総勢10人で蘭々の円卓を囲んだのでした。

マエストロがしみじみ言ってたのは、この劇場の素晴らしさ。音楽スタッフは自分以上によくできてるし、ピアニストはよく弾けるし(ヨーロッパでは少しは優れた人はいるがなかなかここのようにはいかないらしい)、舞台は準備がよく出来てるし、オーケストラもよくさらってきてるし、自分の人生の中でも特別の体験だったと。またBOの時歌ったカヴァー歌手がよく歌えてたのにびっくりした様子。

これだけ素晴らしい職人マエストロにここまで言ってもらえるのは正直うれしいなあ。ヨーロッパの劇場の様子を体験してない私としては比べようがないのだが、新国立劇場がそれなりの程度の水準に達していると解釈していいのかもしれない。

しかし今日の新国はとても「劇場っぽかった」。Froschの本番と同時に鹿鳴館とカルメンの立ち稽古が行われており、私シェーン(鹿鳴館担当)とトミー(カルメン担当)はFroschの本番へ、我がヘッドコーチ石ちゃんが鹿鳴館へ、カルメンはプロンプターとピアニストに任された。大変だけど見事な役割分担だと思うよ。

さてFroschは残すはあと一回。今日はすごい盛り上がりだったのでこの勢いでいければいいんだけど。正直なとこ言うと…Froschはそろそろ飽きてきた

ワーグナーでは絶対感じることない感覚なんだよ。やはりシュトラウスの限界はここにあるのかもしれない。リングが終わるときにあんなに感慨に耽ったのに、今回は早く終わってほしいと思ってる自分がいるのだ

でも頑張ってFroschやってきたわけで、きちんとやった充実感はあるよ。もしかしたら人生最後のFroschかもしれない千秋楽(だって再演の保障はないものね)、よい公演になるよう最善を尽くしたいと思います。

・Frosch 終了!
2010年06月01日21:57

4月22日から始まった「影のない女」無事終了です!
しかし…なんとも大変な作品をやったもんです。最後の4重唱終わりのクライマックスではやはり感慨が込み上げてきました。

5回の本番を通していつも安定していたのはエミリー、彼女の舞台の取り組みかたってほんとうに世界トップクラス!バラクのラルフさんも安定していましたね。言葉のさばきが完璧で(ドイツ人だから当たり前ともいえるが)目の前で本物のディクションを勉強させていただきました。

お客様の感想を見ているとおしなべて好評でそれはうれしいのですが、ワーグナーについてはある程度聴衆の成熟を感じますが、シュトラウスについてはまだまだ理解されてないなあと思いました。よいところはよいが、もっと手厳しい意見があってしかるべき公演だったと感じています。確かに今回全体としてよい公演ではありましたが、実際問題、サヴァリッシュやショルティのようにDVDにできるだけのクオリティーかと言われると、ちょっと考えてしまいます。今日の千秋楽も事故多発のアブナい公演だったのです!

ま、なにはともあれ今シーズン最大の山をクリアしたのです!様々なことを総合するとリングより大変でしたね。今回の成功の鍵はいろいろとありますが、まずは歌手。乳母、皇后、妻、バラク、皇帝の5役に人を得たのがよかった。そしてマエストロ、堅実な職人でこの複雑な作品を手際よくまとめてくれました。オケ、東響が大健闘!東フィルだったらこの音はでなかったでしょう。バンダの金管もいつになく素晴らしかった。

我々音楽スタッフも頑張りましたよ。ピアニスト二人はほんとよく弾いたし、舞台裏担当の二人もよく働きました。バンダ指揮者の根本君は非常によいタイミングで振ってくれたのでドラマが引き締まりましたね。毎度公演前には三人の兄弟と生まれざる子供はアンサンブル稽古をして、完璧を目指しました。

これで「影のない女」の楽譜も棚に戻ることになります。いつの日か再び開く時がやってくるのでしょうか…

関係者の皆様、ほんとうにお疲れ様でした!!!!

(完)

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