失われた30年を振り返って、コロナ後を展望したい
『出現する参加型社会』が発売になって2カ月が過ぎました。
本を出版したことをきっかけに、多くの人と対談する機会に恵まれ、執筆当時には持っていなかった観点を数多くいただいています。
この本は、読んでくださる一人ひとりへの手紙として書いたので、書いた後は、お返事の手紙を受け取って回っている状況が生まれています。
今日は、出版後の様々なやり取りからの気づきをまとめたいと思います。
失われた30年間で何が起こったのか?
コロナ状況で何が起こっていて、これから何が出現するのかを感じ取るためには、現在がどんなプロセスの途上にあるかを見通す必要があります。
プロセスを理解するために、書籍を読んだり、当事者の話を聴いて回ったりした結果、失われた30年で繰り返されたパターンが見えてきました。
それは、以下のようなものです。
不景気→外部に正解を探す→短期利益優先へ構造改革
最初にこのパターンが発動したのが、バブル破裂後に起こった不景気と、1997年から始まった構造改革です。
必要だったのは、「日本という構造」と外部環境を深く洞察することだったと思います。
1970年代に、モノづくり大国として繁栄していたのはなぜか?
1980年代のバブルはなぜ起こったのか?
1990年代の不景気の原因は何か?
これらを、外国との関係(アメリカや中国など)、テクノロジーの発展(デジタル化、情報化)と、「日本という構造」とを重ね合わせて、強みを生かしつつ、改変していくことが必要なのだと思います。
1970年代の繁栄を支えたのは、トヨタのカイゼンに象徴される現場の暗黙知から立ち上がるイノベーションだったのではないかと思います。当時の話を聞くと、現場の人たちの組織横断的な勉強会が活発で、社員が自分たちで考えて、何かを発見し、それが生かされていく組織文化があり、それが働くモチベーションになって高度経済成長が成し遂げられたのでしょう。
1980年代のバブルは、真剣に考えて何かを発見し、イノベーションを起こしていくよりも、金融のほうが利益が上がる事態をもたらしました。プラザ合意によって円高ドル安になり、内需拡大のために公定歩合が大幅に引き下げられた結果、民間投資が活発になり、株価と不動産の高騰を招いたのです。バブル破裂後の不景気は、政治要因によって起こったバブルの反動と考えるのが自然で、「日本という構造」が主原因ではなかったと思います。
しかし、1997年から始まった橋本内閣の構造改革は、アメリカやイギリスの構造改革の流れを引き継ぐもので、規制を緩和し、グローバル市場へ門戸を開いていくものでした。「不景気から脱出するためには、構造改革をしなければならない」というスローガンのもと、グローバル市場で規格化されたルールを導入していきました。
このとき必要だったのは、グローバル化していく状況の中で、「日本という構造」が持っていた強みを生かす方法を考えることだったのではないかと思いますが、政治主導で行われたことは、アメリカをお手本にして構造改革を行い、短期的な利益が上がる方向への、国を挙げた選択と集中でした。
取材を重ねていくうちに、民間では、違う流れも起こっていたことを知りました。たとえば、野中郁次郎氏の知識創造経営の勉強会では、現場の暗黙知から立ち上がってくるイノベーションを、情報化の波の中でどのように生かしていくのかという視点があったそうです。おそらく、私が知らないだけで、同様の動きは、日本各地で起こっていたのでしょう。そこでは、1970年代に現場の暗黙知を活用して活躍した団塊の世代の現場の知恵が、バブル以降の世代へ継承されていたかもしれません。
その動きが断ち切られたのが2007年でした。団塊の世代が引退する「2007年問題」とリーマンショックによる不景気とが重なったのです。
2007年以降、現場主導のイノベーションの文化は衰退し、データをもとに利益率を計算し、選択と集中によって短期的な利益に繋がらない事業を切り離していく動きが活発になりました。現場の暗黙知を吸い上げることよりも、データによって社員を上から管理してコストをカットし、業務を効率化することが優先されるようになり、株主資本主義が一気に進みました。
失われた30年間で、GDPと企業の売り上げは横ばい。給与所得が下がり、非正規雇用が増え、消費税が上がりました。その結果、一般の人たちの生活は苦しくなりました。一方で、人件費コストを削減し、法人税率が下がったことで大企業の利益は右肩上がりとなり、内部留保が増え、株価が上がり、株主配当が増えました。
これが、失われた30年間で改革されてきた日本の構造です。
コロナパンデミックによって引き起こされる世界的な大不況の中で、私たちは、何を考えるべきなのでしょうか?
不景気の苦しさからの短期的な脱出に活路を見出そうとして、外側に正解を求めようとすると、さらなる搾取構造のなかにはまり込んでしまうでしょう。それが、失われた30年間で起こってきたことだと思います。
失われた30年間を振り返って学びに変え、長期的な視点で、ここから先をどう進んでいけばいいのかを一緒に考える、本質的な議論を始めませんか?
7月7日の20時から、1970年代にロッキング・オンを創刊した後、参加型社会一筋50年の橘川幸夫さんと一緒に、本質的な議論を始めるためのキックオフイベントを行います。
志のある皆さんの参加をお待ちしています。
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