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ミロ太郎ラーメン 第8話 子どもレノン・ウォール
この物語は、『Miro革命』の第5章にも掲載します。(完全に同じではありませんが、おおよそのストーリーは同じです。)
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それでは、第8話スタートです。
第8話 子どもレノン・ウォール
翌週、三上は、六本木ヒルズのオフィスを引き払い、商店街にある1号店の2階に引っ越した。そこを住居兼オフィスにすることにしたのだ。今のやり方の延長線上の未来は行き止まりだ。初心に戻ってゼロから考え直したいと思ったのだ。
店舗の2階に住むようになってから、アルバイトの外国人留学生の2人と話す機会が増えた。一人はベトナムから、もう一人は中国から来ていた。三上は、彼らを「安い労働力」としてしか見ていなかった自分に気づいて恥ずかしくなった。ベトナム人のバオと、中国人の劉は、子ども食堂でも調理を担当するようになった。ベトナムや中国の家庭料理がMiroのメニュー表に貼られると、それを楽しみにやってくる人もいて、こども食堂は満員になった。ご飯を食べながら、バオと劉が、それぞれの故郷の話や、外国人として日本に住むときに困ることについて話してくれた。
未来会議に参加すると、直人が三上に質問した。
「三上さん、自動化は時代の流れだと思うんです。自動化を否定するんじゃなくて、自動化の上に温かみを加えられませんかね。MiroもITで自動化してくれているおかげで、時間と空間を超えて付箋で温かみのあるコミュニケーションができているんだと思うんですよね。ミロ太郎ラーメンでも、何かできませんか?」
三上は、ミロ太郎ラーメンの店舗に導入した自動調理システムと接客ロボットのことを思い浮かべた。
「子どもたちに、日常で考えている本音を書いてもらって、それを、接客ロボットにしゃべらせるというのはどうでしょうか?」
陽子は、子どもたちの小さな声を集めるためのボードをMiroに作った。子どもたちの本音がMiroのボードに溢れた。それは、まるで香港のレノン・ウォールのようだった。陽子は、付箋の言葉を、自動音声プログラムに入力する係を作って、やりたい人を募集した。
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「ITを使うメリットの一つは、小さな仕事を作ることができて、関われる人を増やすことができることなんですよ。」
陽子は、そう言って微笑んだ。
その日から、ミロ太郎ラーメンの接客ロボットは、「いらっしゃいませ」というお決まりの言葉の代わりに、学校に行きたくない小学生の気持ちとか、マインクラフトに熱中している中学生のワクワクとかを話すようになった。店頭の接客ロボットの音声は、ミロ太郎ラーメン店内だけでなく、隣の子ども食堂にも聞こえてくる。ご飯を食べながら、子どもたちの本音が話題になることが増えた。
子どもたちにとって、自分の言葉を代弁してくれる接客ロボットは、大量生産の単なるロボットではなくなった。接客ロボットには、「だいちゃん」という名前がついた。自分が言えないことを、だいちゃんが代わりに言ってくれるのだ。
ある日、子ども食堂で仕事帰りのお母さんと小学生らしき女の子が2人で食事をしていた。だいちゃんから、「お母さんは私によく怒る。でも、もしかしたら自分に怒っているのかもしれない。」という声が流れた。女の子が、「お母さん、これ、私の書いたやつだよ。」と言った。お母さんは、不意打ちを食らったように動きを止めた。お母さんの背中が小刻みに震えていた。
三上は、「だいちゃんシステム」を30店舗に展開することにした。30店舗あるミロ太郎ラーメンの店頭には、「だいちゃん」が立っていて、「子どもレノン・ウォール」に貼られた言葉を、子どもたちの代わりに、商店街を歩いている人たちに向かって語り始めた。通りがかりの人が「だいちゃん」の前に立ち止って耳を傾ける光景が、各地の商店街で見られるようになった。
編集後記
自動化の上に「温かみ」を作っていく。
接客ロボットが「だいちゃん」になっていく。
そこに、現代の「組織ーコミュニティ転換」のヒントがありそうです。
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