天狼院書店プレイアトレ土浦店で小説『ジミー』ハイブリッド対話会をやって見えてきたこと
2022年9月17日、茨城県の土浦駅の駅ビルの中にある天狼院書店プレイアトレ土浦店で、『ジミー』発売以来、はじめての書店イベントを実施しました。
マレーシアから日本へ帰国して、「リアルとオンラインを融合させる活動」を模索してきた私にとっては、今回のハイブリッド読書会は、記念碑的なイベントになりました。
そもそものきっかけ
参加型出版『ジミー』プロジェクトの発起人の一人として、書店でのイベントをやるにはどうしたらよいか?と、あれこれ考えていました。
『ジミー』とは、マレーシアでヨガティーチャーをやっていた青海エイミーが、コロナの中で初めて書いた小説。それが、メタ・ブレーン社の太田順子、デジタルメディア研究所の橘川幸夫、メディアクリエイターの平野友康らの目にとまり、クラウドファンディングを経て出版に至った小説だ。
『ジミー』のクラウドファンディングのページはこちら
大型書店が行き詰っている一方で、独立系の書店、キュレーション型の書店、シェア型書店、など、特色のある書店が増えてきている状況の中で、独自の取り組みをしていて興味を持ったのが天狼院書店でした。
土浦駅ビルに天狼院書店があることを知って、まずは、立ち寄ってみることに。秘本という企画があったり、ライティング講座があったり、書店企画の読書会があったりして、「書店を文化の発信地にしていきたい」という意図を感じることができました。
店舗をぶらぶらと歩きまわった後、レジの左側の椅子に座っている方に、思い切って話しかけてみることにしました。それが、スタッフの湯浅さんとの出会いでした。
参加型メディアの可能性を模索してきた橘川幸夫氏と一緒に参加型社会学会を立ち上げて、参加型社会の実現に取り組んでいることや、その中で、出版の本来の形とは何かを模索していること。『参加型社会宣言』『出現する参加型社会』という理論書だけでなく、『ジミー』という小説も参加型出版の流れの中から出てきたこと、10年ぶりに日本へ帰国して参加型社会の実現に向けて動いていること。。などなど、30分ほど話しました。
湯浅さんは、机の上のパソコンで検索し、「これですね!」などと相槌を打ちながら、話を聴いてくれました。
それから、何度か、書店に足を運び、具体的に何かを企画しましょうということで実現したのが、今回の小説『ジミー』ハイブリッド対話会だったのです。
事前に告知の動画を作ってくださったり、看板にチラシを貼ってくださったりして、読書会の実施をサポートしてくださいました。
読書会の新しいカタチ
2013年から、Web会議室での対話に可能性を感じて活動してきました。『Zoomオンライン革命!』を執筆後は、Zoomを活用したオンラインワークショップの開発を行い、ブレークアウトルームや録画機能を活用した、さまざまなオンラインファシリテーションの手法を開発しました。国際ファシリテーターズ協会日本支部の理事に就任し、台湾、韓国、マレーシアなどで、対面とオンラインのハイブリッド対話会に、世界に先駆けて取り組んできました。
オンライン読書会についても、継続的にやるもの、イベント的に単発でやるもの、反転授業形式のもの、ABD(アクティブブックダイアログ)形式のもの、など、本当に様々なケースについて実施してきました。読書会のファシリテーションについても、実践を通して手法を研究してきました。
また、社会変革ファシリテーターとして、現在の社会構造のシステム的な課題に取り組み、レバレッジポイントに働きかける取り組みをしてきました。
このような活動をしてきたファシリテーターとして、今回のハイブリッド読書会でテーマにしたのは、「地域の書店を文化の発祥地にするにはどうしたらよいか?」でした。
その書店に行けば、何か面白いことや人と出会うことができるという期待が生まれ、感度が高い多様な人たちが集まってくる。書店員がそれらの人たちを相互に繋ぐ機会を作る。書店をハブにして、その土地だからこその面白いことが生まれてくる。その地域から新しい本が出版されてくる。その本が、書店ネットワークを通して、口コミで売れていく。。。
そういう動きを生み出していくための方法の一つとして、「ハイブリッド読書会」が使えるのではないかと思ったのです。
敷地面積に限りがあり、収益も上げなくてはならないという制約の中で、ベストセラーではない尖った本をたくさん並べることは難しいし、書店企画のイベントに人をたくさん集めるのは難しいけれど、書店ネットワークで協力して、オンラインからも参加者を募ることができれば、文化の発祥地になるような「面白い企画」をすることができ、遠くに住んでいる人の多様な視点から学び合う深い体験を提供することができます。
今回は、それが、実際に可能なのだということを示すプロトタイプを作ろうという意図で実施しました。
イベントの告知ページはこちら
具体的なやり方
文庫本のスペースにスクリーンを置いてZoomの画面を投影し、机といすを置いて参加者が座れるようにしました。
オンライン側にもファシリテーターを配置し、会場のファシリテーターの私と連携しながら実施しました。今回は、広島から経験豊富な山口沙也加さんがオンラインファシリテーターを担当してくれました。会場のパソコンにスピーカーフォンを繋ぎ、オンラインの音声が会場にも届くようにしたり、スマホを移動カメラとして使い、会場の参加者が話している様子がオンラインに届くようにしました。
ハイブリッド読書会では、オンライン側が置き去りにならないように配慮することが必要で、両方の参加者が満足できるようなデザインにすることが必須です。
まずは、オンライン参加者、会場参加者の順で、一人ずつ自己紹介を行いました。年代も住んでいる地域もバラバラな人たちが集まってくるのも、ハイブリッド読書会の醍醐味です。その後、本を読んでいない人もいたので、10分で名著のような形で、ストーリーを解説しました。
次に、『ジミー』のイメージに合わせたボカロの曲を提供してくれた24歳のアーティストYoxtellarさんがアバターで登場して、どんな想いで曲を作ったのかを話してくれました。
今回のテーマは「自己変容」。
Yoxtellarさんが、読書会にゲスト出現してくれることが決まったので、彼の自己変容の物語、「ジミー」の主人公のマイの自己変容の物語、そして、新しい文化が地域から生まれていく地域の変容の物語が重なり合うことをイメージしながら、読書会をデザインしました。
Yoxtellarさんのゲストトークの後、「自己変容」に関わりの深い章を15分間で読み直す時間を取りました。この時間を取ることによって、まだ読んでいない人も、対話に参加しやすくなります。また、オンライン参加で手元に本がない人がいたので、Yoxtellarさんの制作秘話をインタビューする役を割り当て、15分間を過ごしてもらいました。ファシリテーターは、多様な参加状況を認識し、それぞれが充実した時間を過ごせるように工夫することが重要です。
15分間の読書時間が終わると、3-4人のグループに分かれての対話です。オンラインで2グループ、対面で1グループの合計3グループで20分間、対話しました。小さなグループで話すことで、一人ひとりが自分の感じたことを言いやすくなります。
その後、全体に戻って、参加者が気付きを共有していく時間となりました。
NVCやプロセスワークの手法を手がかりに、個人の変容、組織の変容、社会の変容を支援している私にとっては、このテーマは、大変なじみのあるものです。
参加者が、テーマである「自己変容」に沿って、話を深めるられるように、対話の場に問いを投げ込んでいき、場がどんどん深まっていきました。
最後は、会場参加者、オンライン参加者の順に一人ずつ感想を述べていきました。心の深いところに触れたときに見られる表情が、会場にも、オンラインにも溢れていました。
最後は、会場とオンラインとが一緒になって記念写真。
見えてきた可能性
オンラインだけでも、会場だけでも、回を繰り返すうちに「いつものメンバー」になってしまいがちなんです。でも、ハイブリッドにすることで、新しい人と出会い続けることができる、新しい視点と出会い続けることができる、という手ごたえを感じました。
常に、新しいことが生まれ続けているというのが、文化発祥の地になる上で大事だと思うのですが、ハイブリッド読書会は、そのための仕掛けとして有効なのです。
また、ハイブリッド環境の2時間の読書会で、かなり深いところまで到達できるという実感も生まれました。
店舗側へハイブリッド対話会のテクニカルな部分のノウハウ移転がうまくいけば、ファシリテーターがオンラインから参加し、複数の店舗を繋いだハイブリッド読書会というものも実現可能になります。そうなれば、さらに、さまざまなことを仕掛けやすくなりそうです。
『ジミー』は、多層的な内容の小説なので、テーマを変えたり、読みなおす個所を変えたりすることで、様々な切り口で読書会をやることができます。
書店での読書会第2弾は、福岡県糸島市の「糸島の顔が見える本屋さん」で、9月25日(日)18-20時で行います。こちらも、ハイブリッド読書会ですので、会場参加、オンライン参加の両方が可能です。テーマは、「社会を非暴力化するために大切なこと」です。
この記事を読んで、ハイブリッド読書会に参加してみたいという方は、こちらからお申し込みできます。
書店を文化発祥の地にしたい店主の皆さんへ
出版や書店の新しいカタチを一緒に考えませんか?
ジミープロジェクトの発起人として、新しい出版や書店のカタチを模索中なので、『ジミー』のハイブリッド読書会であれば、プロモーション活動の一つとして、ファシリテーションをやりますので、一緒に企画しましょう。
それ以外の書籍やテーマの場合は、プロファシリテーターとして有料の対応となりますが、内容や条件次第でお引き受けしますので、まずは、気軽にお声がけください。
田原真人プロフィール
参加型社会の実現に向け、教育、組織、社会の新しいデザインを探究する独立研究者。「反転授業の研究」でオンラインコミュニティ運営、「トオラス」で自律分散型オンライン組織経営を行う。2021年から、参加型社会学会を立ち上げ、社会のパラダイムシフトに取り組む。『Zoomオンライン革命!』『出現する参加型社会』『Miro革命』など著書12冊。株式会社デジタルファシリテーション研究所代表取締役。参加型社会学会理事。IAF Japan理事。一般社団法人SD&I(サプライヤーダイバーシティ&インクルージョン)研究所理事、有限会社人事・労務顧問、社会変革デジタルファシリテーター。非暴力アナキスト。マレーシア在住10年を経て2022年6月に帰国。