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夢見モグラは空を待ち侘びて 40日目

歌声が鳴りやむと、
今度は細い絹のような、
柔らかく、それでいてよく通る声が聞こえてきた。

「どこかでお会いしましたか?」

地下でその歌声に出会った日のことが、
鮮明に、一瞬にして蘇った。
モグラは頭の中で浮かんだたくさんの言葉たちが、
口先のところでつっかえてしまって、うまく喋ることができなかったが、
今度は大きく深呼吸しながら、順に整理して、
丁寧に紡ぎ出していった。

するとドン!と大きく壁を叩く音が、歌声とは逆の方向から聞こえてきた。
またモグラが大きな声で喋ろうとすると、ドン!と壁が鳴る。
モグラはムッとして、ドン!とやり返すか迷ったが、
ドン!がもっと鳴ったら嫌な気持ちになるので、しばらく黙ることにした。


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声を出しちゃいけない話。

声を出しちゃいけない、
人と人と距離を離した2020年のライブ、
あれって一体どうだったんだろうな、と考える。

やっぱりライブはいいな、とか、
耳鳴りするほどのデカい音で思いっきり演奏するのって気持ち良いな、
的な、こっちの都合や気持ちは、さて置いといて。

あくまで応急処置的に受けて入れてもらえたのか、
それとも、こう言うのならもういいかな、と思われたのか、
これはこれでじっくり見れて良いじゃんと思う人もいるのか、
また、初めて来てくれた人がいたとして、
一体何割の人が、また来たいと思ってくれたんだろう。
それぞれの事情で、行きたい気持ちをぐっと堪えた人の気持ちは?

というのは大体、次回の公演の応募数とかで通常なら測れたりもするのだけれど、
それも踏まえても、
単純にやって良かったね、で済ませていいのか、
もっとこうすべきだったね、なのか、
積み重なってきた愛情で、やっと繋がっていられるものだったのか。
最後の1音を鳴らし終えて、手応えは正直言ってあやしい。
今もわからないし、手探りのままである。
(もちろんこちらは愛情を込めてフルコースを用意した前提での話。改めて、ルールを守って来てくださったみなさんに感謝しています。)

そんな中でも音を止めない、みたいな選択をする人たちの心意気はとても素晴らしいし、正しいと思う。
ただ、そうでなく、自分たちの価値を下げない、と言う意味でも、
今はじっと牙を研ぎ澄ますみたいな人たちの、勝負としての正しさも勿論あると思う。

ただ自分にとって、
自分の書いた歌詞を一緒になって歌ってくれていたことが、
どれだけ自分の宝物であったか、
喜びであったのかを、思い知らされる瞬間の連続に、
気付かされることが多々あった。

それでもやりたいかと、言われればやるし、試行錯誤は続く。
マスクの奥を想像力で勝手に補え、と言う話だし、
不要不急の叫ばれる世界で、
新しい世界への順応を、
必要だと言ってもらえるだけの存在証明をしてご覧なさいな、というところ。
(春にはもうちょっと状況が良くなってることを願って。)

また、別枠でナタリーさんが企画を提案してくださって、
こちらは気心知れた芦沢ムネトくんと、親愛なるアーティストや恩人、他の仲間にもご協力を請うて別角度からお届けする予定。
(上記のZeppツアーとは違うものになるのはお約束します。)


世の中がそんなにすぐに、はい、もと通り!どうぞ!
となるとは少々考え難いし、人の気持ちもきっとすぐには変わらない。
元々再出発、ゼロからはじめるくらいの気持ちだったので、
困難が一枚の木の葉なら、森の中でどこにあったかもうわからないのは、
ちょうど良いと言って仕舞えばちょうど良いところもある(その点はラッキーだと思っている)。


よくよく考えれば音楽家なんて、
本来必要のないものを必要と思わせる、
詐欺師みたいな仕事なのかもしれない。

グラグラと大きく揺れて、本当に避難しなきゃって時に、
楽器持って逃げるとかしないと思うので。
暖かい毛布や、飲み水の代わりにはならないと思うので。

いや詐欺師って言うと言い方が悪いな、
魔法使いぐらいにしとくか。うん、そうしよう。

でも、それがわかっているのならば、
死ぬまで上手く騙しているべきだし、
夢なら醒さないまでの覚悟を持って挑め、という独り言。
のような話。


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本日の表紙はtravel_aoipoさんの写真を使用させていただいております。

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MasatoKanai
褒められても、貶されても、どのみち良く伸びるタイプです。