「本のある暮らしーその15」―本屋を自画自賛する|MASATO ZAITSU @BookHiroshima #note|
本を売る人が読書家である必要は全くない。
これは新刊書店であっても古本屋でも変わらない。必要なのは、本を売る力と「本」そのものが少なくとも嫌いではないということだけである。その観点でいえば、本を全く読まないのは問題があるかもしれないが、本を売る人が多読であることにもほぼ意味がないといってもいい。
しかしながら昨今の書店員に見られる書評家然たる風潮が、新刊書店の成長にブレーキをかけているように感じる。それはなぜか、今回のテーマはそれである。
古書店で見てみると、特定の本をお勧め本として売り出すことはほぼない。理由はいくつかあるが、そもそも同じ本が2冊以上ある場合、数年も前にベストセラーになった本が多く、それは古書店としてみれば魅力のない分類に入れてしまう。
古本の価格基準で最も大きいのは希少価値である。そこに需要があればあるほど当然価格があがり、時に数百万円になる。
次に、古本屋の仕入れは基本的にすでに支払いを済ませた本であり、新刊書店でいう「買い切り」のみで店が作られている。よって正真正銘すべてが購入して欲しい対象となる。
古本屋には1年に1,2冊しか読まないけれど、本を売るのがとてもうまい方が多くいる。それは言い換えれば、売れる本を見つける力と、探してくる力があるということだ。さらに売り方、売れる範囲内でできる限りの高値をつけることができれば古本屋として十二分に成立する。
次に新刊書店の場合、出版される本は現在年間約7万点ある。近年急激に出版点数が増えてきたことを踏まえても、例えば、過去30年間で年間平均3万点、30年で約100万点が本として世に出ているとする。巷間,知の巨人と評される方でも、生涯読破する本が1万冊を超える方はまれであろう。そのバランスで見ても、人ひとりで考えれば世に出ている本のほとんどは「読んでいない」のである。読んでいない本を売るのが、本を売る仕事なのだ。
そう考えると特定の本をすすめるのではなく本屋そのものをアピールすることが、本屋に足を運んでみようかと思わせる一歩目になりはしないか。書店員は書評家ではなく、店舗で本を売る人なのである。そのような思考に切り替えることで、これまで本屋にあまり足を運んでいない人を惹きつけることに結びつくだろう。