MASATO ZAITSU

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「本のある暮らしーその11」―本屋が本を売らないで何をどうするつもりだ?―と言わんばかりのまっすぐさである。|MASATO ZAITSU @BookHiroshima #note|MASATO ZAITSU @BookHiroshima #note

尾道に本社を置く啓文社という新刊書店がある。広島県の地場書店チェーンであるが、そこに私より一歳年上の児玉憲宗(けんそう)さんという方がおられた。 児玉さんはすでにご病気で亡くなっておられるが、私が知り合った時は車椅子で書店員業務をバリバリこなす全国的に有名な方であった。   『尾道坂道書店事件簿』(発行本の雑誌社)の著者でもある児玉さんは典型的な書店員である半面、書店員にあまりいないタイプの方であったと思う。この相反する二つであるが、まず、本屋は本を売って何ぼ、であるという当

    • 「本のある暮らしーその10」中国短編文学賞について|MASATO ZAITSU @BookHiroshima #note

      少年時代を過ごした団地の中の派出所に、大きなブルーシートで覆った「何か」があった。丸1日置かれていたように思うけれど、実際はほんの十分程度だったような気もする。 人は死ぬ瞬間に記憶の蓋がすべて開けられて、それまでの経験がひとつ残らず甦るという話もあるがそれを証明する術は私たちには永遠にない。でも、このブルーシートだけはリアルタイムで映像の記憶が随時再生される。 「第53回中国短編文学賞」(中国新聞社主催)の総評でもゆっくりと蘇ってきた。 ~小説で扱う時にはどうか注意深く

      • 「本のある暮らしーその9」古本屋の使命とは何か。|MASATO ZAITSU @BookHiroshima #note

        今回は古本の値段について考えてみる。古本屋の仕入れは大半が一般の方から依頼される買取である。買取は古物商の免許が必要になるが、お宅に伺ったり送ってもらったりした本を査定する。査定とは「この本は一体いくらで売れるか」と見極めて、仕入れ値を決めることを意味する。 土地や家屋などのような一般評価額はない。いわば査定する人間の心ひとつであるが、古本屋に共通する認識みたいなものはいくつかある。ここが一般の方と古本屋が大きく異なる点でもある。 まず、査定する本の元々の価格はあまり関係

        • 「本のある暮らしーその8」新刊書店の流通

          本を創るお金は主に、校正校閲を含む編集費、取材費、デザイン費、印刷ができるデータをつくる「組版」と呼ばれるDTP費、その他営業費などの雑費がある。仮にこれらをA郡としよう。一方、B郡には印刷費、製本費、輸送費などが含まれる。物にかかる金額は大抵の場合、扱う物量が多ければ多いほど価格が下がっていく。「スケールメリット」と呼ばれるが、出版物の場合B郡がそれに該当する。中で最もスケールメリットが顕著な例である印刷費などは、1000部の印刷代金と1500部の印刷代金は、特殊な印刷を除

        • 「本のある暮らしーその11」―本屋が本を売らないで何をどうするつもりだ?―と言わんばかりのまっすぐさである。|MASATO ZAITSU @BookHiroshima #note|MASATO ZAITSU @BookHiroshima #note

        • 「本のある暮らしーその10」中国短編文学賞について|MASATO ZAITSU @BookHiroshima #note

        • 「本のある暮らしーその9」古本屋の使命とは何か。|MASATO ZAITSU @BookHiroshima #note

        • 「本のある暮らしーその8」新刊書店の流通

          「本のある暮らしーその7」猫の書店@BookHiroshima #note

          とても美しい猫がいた。確か東北地方だったと思うが、小さな新刊書店に営業で訪れた。随分と前のことだけれど、すでに出版不況と呼ばれて久しい時期であった。店を入ると出迎えてくれたのは、小さくてきれいな猫の大きな鳴き声だった。店内があまり明るくなくて音楽もラジオも流れていなかったので、余計に猫の声が響いたような気がしたのかもしれない。   新刊書店の流通システムが優れているのは、どの場所にあってもきちんと雑誌や書籍が届く点である。もちろん、雑誌は1日遅れであったり新刊もごく一部の

          「本のある暮らしーその7」猫の書店@BookHiroshima #note

          「本のある暮らしーその6」歴史が持つ使命感と、プロ野球新人選手が放つような貪欲さが、より深く地域を「本」で結ぶプロジェクトが結実させていくことになる。@BookHiroshima #note

          書店に限らず「地元密着」「地域に根差した」とよく表現するが、実際にはどのようなことを意味するのだろうか。   徳島県で1739年に誕生し創業280年を超える新刊書店がある。 「元文4年、紙屋として初代惣吉が富岡町で商いを始めて以来、「紙」を離れたことはありません」   こう宣言する株式会社平惣の書籍部責任者兼徳島店店長の八百原さんに伺った。 「コロナ禍以前はどうすれば人が集まるのかを考えていた」と話す。読み聞かせや作家のサイン会や講演会などに長年取り組んできたが、2019年8

          「本のある暮らしーその6」歴史が持つ使命感と、プロ野球新人選手が放つような貪欲さが、より深く地域を「本」で結ぶプロジェクトが結実させていくことになる。@BookHiroshima #note

          「本のある暮らしーその5」委託制度と伴う返品問題。このシステムを念頭に置かずして、新刊書店の行く末を論ずることがあってはならない。

          地方都市の地場新刊書店チェーン店、大手新刊書店チェーンのFC店などの店内の活気、空気、今しっかりと見ておかなければ損をすると思わせるような、明日来たらすっかり変わっているかもしれない緊張感のある店内。それが今、各地の新刊書店で始まってきているのではないか。   一方、新刊書店の未来に触れる時、避けてはならないことがある。出版制度の核の1つである委託販売、またそれに伴う返品問題である。このコラムでも折に触れてきたが、新刊書店を論ずる際の根底にこの二つを置いておかねば従来の型通り

          「本のある暮らしーその5」委託制度と伴う返品問題。このシステムを念頭に置かずして、新刊書店の行く末を論ずることがあってはならない。

          「本のある暮らしーその4」|MASATO ZAITSU @BookHiroshima #note

          文字が生まれる前に言葉があった。そして、対話がされていた。文字はそれらの言葉を伝えるため、残すために誕生し、紙が生まれて印刷が進化し本となって今も存在し続けている。音楽もそうだ。音があり、音楽が生まれ、音符が生まれて楽譜が誕生した。音が先である。言葉が先である。新刊書店で扱われている本、古本屋でしか見かけない本、希少本と呼ばれるめったに目の当たりにできない本、そのどれもが残したい、伝えたいという気持ちで形にされてきたはずである。側面から見れば、残すべきか伝えるべき本なのか、常

          「本のある暮らしーその4」|MASATO ZAITSU @BookHiroshima #note

          「本のある暮らしーその3」中国新聞セレクト「本のある暮らし」を追記修正しました。 よろしければお読みください。

          ほぼ全ての本は編集者がついて編集されている。では本の編集とは何をするのか?もともとこの連載は「本のある暮らしがより興味深くなるようにわかりやすく書いてみませんか」というご依頼があり、ありがたくお受けした。幸いにも原稿執筆時現在では大きな手直しはないが、もしあればその指示やアドバイスもくる。新聞掲載時には写真やイラストなども入るだろうし、連載初回には私が何者なのかも紹介されたはずだ。これらも編集の仕事の一環である。   媒体の種類やその目的などにより違いはでてくるが、題材と

          「本のある暮らしーその3」中国新聞セレクト「本のある暮らし」を追記修正しました。 よろしければお読みください。

          「本のある暮らしーその2」中国新聞セレクト「本のある暮らし」を追記修正しました。 よろしければお読みください。

           「どんな本を読めば賢くなりますか?」子どもさんに対する愛情の深さゆえ、ごくたまにこのようなご質問を頂く。残念ながら賢くなるなどの本はほぼ存在しない。本を読めば賢くなるのではなく、賢い子が本を読むからだ。もちろん、ここでいう賢いはテストの点数が高い子どもではない。あくまで私の定義であることをお断りしておくけれど、―物事に対して出来得る限り多角的に考えることができ、その考え方を言葉で伝えることのできる人、となる。自分自身が書いた文章が大好きで仕方がないという方は別にして、おそら

          「本のある暮らしーその2」中国新聞セレクト「本のある暮らし」を追記修正しました。 よろしければお読みください。

          本のある暮らしーその生業としての推敲

          その1 何故あんなにも小学校の給食が食べられなかったのか、答えは明白である。自分に合わなかったのだ。給食の時間が終わり掃除の時間が始まっても、一人食べさせられていた。低学年の時は涙をこらえながら、時には流しながら食べていたが中学年になると知恵がつき、隙をみてランドセルにパンを隠し持ち帰るようになった。土曜日にもなると、やけにランドセルが重いのは5日間分のパンが眠っているからだ。月曜日の分は鈍器の如く硬くなり、夏場は若干カビが生えている。合わないものは合わない。子どもながらに感

          本のある暮らしーその生業としての推敲