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「本のある暮らしーその13」―気づけばすでに闇の中|MASATO ZAITSU @BookHiroshima #note

ある地方新聞の記事をもとに新刊書店の今後について考える。見出しは、街の書店は本と出合う楽しみがある、というこれまでの記事と全く変わり映えしないものである。
参照記事として、ネットの台頭により10年間で新刊書店数が3割減った、というこちらもこれまでの新刊書店に関する記事として新鮮味はない。興味深いのは次に紹介する二つの事柄である。

一つめは北海道砂川市の有名個人新刊書店である「いわた書店」に関する記事である。「一万円選書」を始めてから書店経営が今もなお右肩上がりであるという。簡単に説明すると、1万円分の本の選定を書店に託すという取り組みである。SNSでの拡散をきっかけに、テレビで大きく取り上げられ2014年にブレイクした。依頼主である客のために一万円分の本を選ぶのであるが、事前に「カルテ」のようなものを提出してもらう。

「何歳の時の自分が好きですか」や「あなたにとっての幸福とは」「これまで生きてきた中で忘れられない本を20冊教えてください」などの項目がある。その答えをもとに、1万円分の本を選ぶという仕組みだ。今もなお依頼が後を絶たず、申し込んでもかなりの時間待つことになる。店主の方のご家族もこの1万円選書の受注を開始し、店主である岩田さんとはまた趣の異なる選書をすることで、こちらも相当な人気という記事だ。一万円選書を始めたからか否かは記事にはないが、同店の返品率は4%、業界全体の返品率がもはや40%に手が届こうとする中、脅威の数字である。この数字は「仕入れた本はすべて売りつくす」という意味になる。言い換えれば「売りたい本しか仕入れない」を意味する。

一方、同記事内で返品率の低下を掲げる大手出版社と大手商社が手を組み、人工知能やタグによる出版流通の「見える化」に取り組む会社を設立したとの記事がある。わかりやすく言えば「AIやタグでその書店の特性をつかみ、それに沿った適正配本を実現しながら返品率を下げる」ことが目的であるとのことだ。

一万円選書はこの連載で書いてきた私の考え、本ぐらい自分で選ぼう、とはまた異なる取り組みであるし、一方AIやICタグによる配本も、「より完璧な金太郎書店」を数多く生み出すことになるというのが私の感想であるが、私の書簡などには大した意味はない。大切なのは、あらゆる考え方を具現化しようとする力と、今のままでは本や出版全体が復興する道はないと行動を起こすことである。出版社も取次も新刊書店も、変なこだわりを一度捨てて本を売るための自分の態度をもう一度明確にする時期がとっくに訪れている。

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