6次産業化は「加工」することではない!夢を実現するための「手段」だ!!
「6次産業化」っていうこと場を聞いたことがあるだろうか?筆者は「6次産業化エグゼクティブプランナー」をはじめとして「6次産業化」に取り組む事業者を多く支援している。しかし、「6次産業化」の定義についてはいまだに確立されていないように感じる。本稿では「6次産業化」について筆者に私見を述べたい。
そもそも「6次産業化」って何?
まず「6次産業化」についての経緯を説明する。「6次産業化」は2011年3月に施行(2010年12月に公布)された「地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律(六次産業化・地産地消法)」が発端となっている。つまり、法律では農林漁業者(1次産業)が加工(2次産業)、販売(3次産業)まで行う取り組みのことを「6次産業化(1次×2次×3次=6次)」と定義している。
では、「6次産業化」とは具体的にどのような取り組みなのか?
以下の取り組みは全て「6次産業化」に該当する。
➀生産者が農産物をスーパーに直接販売する。
②生産者が農産物を直売所やECで消費者に直接販売する。
③生産者が「ジュース」に加工してお土産店で販売する。
④生産者が農家レストランを運営して料理を提供する。
⑤消費者を生産現場に招いて収穫体験をしてもらう。
⑥生産者貸農園を運営して消費者が栽培するのを管理する。
「ん?ちょって待って!①、②、⑤、⑥って加工してないじゃん!生産・加工・販売を行うことが6次産業化じゃないの?」って思う人がいるかもしれない。そうなのだ。実は「加工」することが必須なわけではない。しかし、「6次産業化=加工」と思っている人が多い。それはなぜか?
その理由として、「6次産業化」に取り組む農林漁業者は農林水産大臣が定めた基本方針を踏まえて総合化事業に関する計画(総合化事業計画)を作成して農林水産大臣の認定を受けると法律・制度・資金面での支援措置を受けられる。例えば、農林水産物を加工するための施設を作る場合の費用の1/3~1/2を補助金で負担してくれる。
つまり、ド直球に言えば「加工施設を作れば補助金がもらえる!」ということである。実際、「六次産業化・地産地消法に基づく総合化事業計画」の認定件数は2,593件(令和3年4月30日現在)のうち、そのほとんどの事業計画において「加工」が含まれている。そのため「6次産業化=加工」というイメージがついてしまったのである。
「6次産業化」って上手くいっているの?
では「6次産業化」は成功しているのだろうか?農林水産省が実施した「六次産業化・地産地消法に基づく認定事業者に対するフォローアップ調査結果(平成29年度) 」によると、「認定申請時と比較した新商品の売上高の増減」については74.1%が「増加した」と回答している。
これだけ見ると6次産業化は成功しているように感じるかもしれない。しかし、「認定申請時と比較した売上高経常利益率の増減」については45.8%が「減少した」と回答している。つまり、約半分の農林漁業者は6次産業化に取り組む前と比較して売上に対する儲けの割合(経常利益率)が減っているのである。
経常利益率が減少している理由として半数以上が「経費の増加」と回答している。その内訳は①設備投資や機械導入に伴う減価償却費の増加、②事業の拡大等における生産施設等の改修費の増加、③従業員を増やしたことによる人件費の増加と続いている。
しかし、これは当然のことと言える。これまで「生産」だけしかしてこなかった農林漁業者が加工するためには、加工するための場所や設備を用意しなけらばならず、さらに加工・販売するためにはそのための人員を増やさなければならない。その結果、「6次産業化」に取り組む前よりも利益率(売上高経常利益率)が減ってしまっているのである。
「6次産業化」という言葉の起源は?
では「6次産業化」は失敗だったのか?筆者の答えは明確に「ノー」である。その理由として「6次産業化」の語源について触れておきたい。「6次産業化」は東京大学名誉教授の故今村奈良臣氏が1992年に初めて提唱したと言われている。しかし、今村先生が提唱した「6次産業化」は農林水産省が定義している「6次産業化」とは若干異なっているように感じる。
今村先生は「農林漁業者(第1次生産者)が生産だけでなく、加工・流通・販売等を統合的に取り扱うことで事業の付加価値を高める経営形態」が「6次産業化」であると述べている。この「生産だけでなく、加工・流通・販売を統合的に行うことで、事業の付加価値を高める」ということが重要なポイントである。
まず、押さえたいポイントとして、今村先生の6次産業化は「農林漁業者」が主語にはなっていない。つまり「農林漁業者」が主体でなく「加工事業者」や「流通・販売事業者」が主体であっても、生産から加工・流通・販売を「統合的に」行う取り組みであれば「6次産業化」であると解釈できる。
そして、もう一つのポイントが「事業の付加価値」を高めるという点である。2011年から始まった6次産業化は農林漁業者が生鮮品では出荷をできない、いわゆる規格外品等を加工することで「商品」の付加価値を高めようとする取り組みであった。しかし、今村先生は「商品」の付加価値ではなく、「事業」の付加価値を高める取り組みだと明記しているのである。
「6次産業化」は数百兆円のマーケットへの挑戦
次にミクロ的な観点から少し視野を広げてマクロ的な観点から「6次産業化」の必要性について述べてみたい。農林水産省の「令和元年農業・食料関連産業の経済計算 」によると農林漁業の市場規模は12.5兆円となっている。これは日本の国内総生産の2%程度にしかならない。
しかし、農林漁業という事業領域を「食」全体に広げてみた場合、農林漁業を行うための資材供給産業が2.1兆円、関連投資が2.4兆円、また食品製造業が37.9兆円、流通や小売を含めた関連流通業が34.7兆円、外食産業が28.9兆円となっており、「食」全体で考えると農林漁業のみの12.5兆円から118.5兆円にまで約10倍にマーケットが大きくなる。
さらに、食と農林漁業分野から派生し、「農業×観光」、「農業×医療・福祉」、「農業×食育」、「農林漁業×スポーツ」、「農林漁業×再生可能エネルギー」、「スマート農業(農業×IT・IoT・AI)」など、農林漁業および食分野から派生した産業まで含めるとその規模は数百兆円にもなる可能性がある。つまり、本当の意味での「6次産業化」とは数百兆円のマーケットへの挑戦なのである。
「6次産業化」とは夢を実現するための「手段」
いきなり「加工」とか「販売」の話から数百兆円のマーケットに話が飛躍したのでビックリした人も多いかもしれない。しかし、筆者は「6次産業化」の本質はそこにあると考えている。
農林水産物を「加工」したり、直売所やインターネットで「販売」するだけでなく、その可能性は「他産業との融合」、ひいては時代の地域全体を巻き込んだ「地域活性化」や「地方創生」にまで繋がっており、その選択肢は無限に広がっている。
実際、「6次産業化」は2011年3月に法律が施行される前から全国各地ですでに取り組まれていた。それは、農林漁業者が「生産」だけでは生きていけないという危機感から「加工」して商品価値を高めたり、自ら小売や外食に「販売」することで自ら値段を設定するなど、「生産」から経営の「多角化」を行ってきた結果である。
最後に筆者は改めて「6次産業化」について定義したい。
「6次産業化」は「加工」することが「目的」なのではない。
「6次産業化」は「夢」や「ビジョン」を達成するための「手段」である。
つまり、「6次産業化」に取り組むためには農林漁業者が「何を実現したいのか」をまず明確にすることが重要であり、そのために「理念」や「ビジョン」が必要なのである。そして、その「理念」や「ビジョン」を実現するためにどういう事業を行っていくか、それこそが「事業の付加価値」を高めていくということに繋がるのである。
いかがだっただろうか?
「6次産業化」にすでに取り組んでいる、興味があったという方は本稿を読んで改めて考えてみて欲しい。そして「6次産業化」を知らなかった人、もしくはこれから農林漁業に取り組もうと考えている方は「6次産業化ってそういうことなんだ!」と思っていただけたら幸いである。