フロリダ州ペンサコーラ 11
ヴィレッジに住んでいる日本人の学生がフォークギター用の歌謡曲全集を持っていたので週末のプールでやるパーティーで、マサの生ギターで大カラオケ大会をしたことがある。
「ねえねえ、ほんとにここにのってるやつだったら弾ける?」トシコさんがノリノリでマサに訊ねるというよりは詰問している。トシコさんは地元の寿司バーでバイトをしながらグレイハウンドなんかでアメリカを放浪している名古屋出身の女性だ。日本からやってきた留学生の不動産の契約や大学の事務手続きのサポートをしたりもしている。
「たぶん、弾けると思うけど」
「じゃあさ、何にしようかな、う~ん、『時代』も捨てがたいけど、ここはあえてこれいっちゃう、『酒と泪と男と女』」
「河島英五ですか、いいね、でもトシコさんは酒と男でしょ」トシコさんはアメリカ人もびっくりの酒豪で、かなり男前な生き方をしている。
「何いってんのよ、いいから弾きやがれ」
トシコさんの声量は凄いのでパーティーの雰囲気が一気に酒と泪と男と女になってしまった。それをきっかけに、日本人たちはお構いなしにマサにリクエストしてマサは忠実に生カラオケマシーンに徹した。
『学園天国』、『なごり雪』、『働く男』、『飾りじゃないのよ涙は』、『ガンダーラ』、『ガッチャマンの歌』……。ほんとに節操なくリクエストした。
「レッチリは弾けるか、マサ?」レオのルームメートのジョーが訊いた。
「『スカーティシュー』だったら弾けるよ、こっちでアルバム買ったし」
「分かってるじゃねーか、よし弾いてくれ」
ジョーは気持ちよさそうにスカーティシューを唄っていた。そしてマサもボトルネックは持っていなくて、もちろん弦の張ってあるギターを弾いているわけだけど、最後はこの歌のプロモーションビデオでギタリストのジョンがそうするように、椅子から立ち上がってギターを投げ捨てるシーンを真似していた。
マサのルームメイトのアロンはジャズドラマーなのだがなぜかアロンはレオが歌っていたエレファントカシマシの『悲しみの果て』を痛く気に入った。
「マサ、さっきの曲もう一回弾いてくれないか」アロンはサビだけ日本人に訊いて唄った。
「カワシミノハエーニナニガハルーハンテ~」もうむちゃくちゃな歌い方だったのでみんな大爆笑した。そしてレオがこの歌の歌詞をアロンに訳してやっていた。これもかなり強引に訳していたような気がするけど。
I don't know what is in the end of sadness, After the end of sadness, I will have wonderful days.