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第1章 ヨウとおジィ 昔ばなし 17

「うん」

「熱くなるじゃろう?」

「うん」
「あれの究極が戦争じゃ。熱くなる。血が沸き立つんじゃ。愚かなことだと思うし、二度と経験したくない。でもな、敵陣に迫って、陣地を奪取しようとする切迫した雰囲気を、わしはな、わしらは、瞬間でも楽しんだんじゃ。自分の銃弾や銃剣の先に倒れた敵の向こうに、家族や友人の悲しみがあるということを、瞬間でも忘れて、わしは戦争に興じた人間じゃ。そこに人間の本質があるような気がするとき、わしは生きてのこのこ帰ってきたことを、今でも後悔する。でも、否定できんやつもたくさんいる。高揚感に任せて、駐留先の村の女を犯したり、女子どもを殺した連中が、先の戦争を否定したら、おのれを否定することになるからな。集団殺戮のおおもとを拵えた政治屋がそれを認めたら、責任の重さに生きて行けんじゃろう。そういう連中の戦争を無理やり肯定した言葉を聞き続けたせがれや孫がまた、同じ政治屋になっとるからな。そりゃあおんなじことを繰り返すさ。同じ顔をしとる。
口が裂けても、戦争に興じたんじゃと、今ではいえんじゃろ。でも、それも戦争の一側面であり、……真実だと、わしは思う」おジィは、何をいってんだわしは、と悔しそうに頭をかいた。

「ヨウ、機会があるのに学を修めなかったら、いつか後悔をするぞ。まあやりたくなったときにやればそれでいいわけじゃがな。しかし何はともあれ、選択肢があるということは、素晴らしいことじゃ。たくさんのことを自分で知って、選択肢を広げて、自分の意志で選べ。そして自分で決めた道に対して、絶対に言いわけをするな」

おジィは慣れんことをいうと調子が狂うな、ちと腹が痛くなったといって便所へ引っ込んでいった。

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