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宮崎駿監督『紅の豚』

 1979年、『ルパン三世 カリオストロの城』で劇場用映画デビューを飾った宮崎駿監督。1984年『風の谷のナウシカ』、1986年『天空の城ラピュタ』、1988年『となりのトトロ』、1989年『魔女の宅急便』、1997年『もののけ姫』、2001年『千と千尋の神隠し』(ベルリン国際映画祭金熊賞、オスカー長編アニメーション賞受賞)、2004年『ハウルの動く城』、2008年『崖の上のポニョ』、2013年『風立ちぬ』などを発表し、『千と千尋~』は2020年に『劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編』が記録を更新するまで日本の映画歴代興行収入記録第1位だった。
 そんな宮崎監督が1992年に監督したのが『紅の豚』だ。数ある宮崎作品の中でも大人をターゲットに作られた異色作で、1992年の公開時には配給収入28億円(興行収入54億円)という大ヒットを記録した。筆者がこの作品を初めて観たのは、テレビ雑誌の記者をしていたときで、テレビ朝日の広報部にその前の会社時代からの知り合いがいて、その方に試写状をいただき、旧東宝の試写室で観た。その後、日比谷映画(旧千代田劇場)での劇場公開時に再見し、テレビ放送、ビデオ、DVDと、事あるごとに観てきた。だが、劇場公開後は映画館のスクリーンでは上映されていない(と記憶している)。
 舞台は1930年前後のイタリア。空賊退治を請け負う賞金稼ぎで生計を立てる元エースパイロットのマルコは豚の姿からポルコ・ロッソを呼ばれていた。ある日、彼はアメリカ人のパイロット・カーティスに飛行艇を撃墜され、ミラノの工房・ピッコロ社に愛機を持ち込み、修理を頼む。修理を担当するのはピッコロ社のおやじの孫で17歳の女性フィオ。フィオの才能を見込んだポルコは修理を承諾し、フィオは新たな飛行艇を完成させる。イタリアの秘密警察に追われるポルコは“人質”という建前でフィオを連れ、愛機を離陸させアジトに戻る。そして、カーティスとの一騎打ちに挑むというのが物語の流れだ。主人公ポルコ・ロッソの声を演じるのは森山周一郎さん。吹き替えではジャン・ギャバンやチャールズ・ブロンソン、テレビドラマ『刑事コジャック』のテリー・サバラスなどを担当し、低音を生かした渋い声が特徴で、今作でもユーモアを交えた巧みな演技を披露している。おそらく、宮崎監督はジャン・ギャバンあたりの演技を狙ったのではないかと推測。宮崎作品の醍醐味は飛行艇の飛行する姿や空中戦などの爽快なアクション。アニメならではのダイナミックな動きが本当に見事で、空や飛行機好きな宮崎監督ならではの演出が施されている。大塚明夫さん演じるカーティス、上條恒彦さん演じる空賊マンマユート団のボス、桂三枝(現・六代目文枝)演じるピッコロ社のオヤジほか、宮崎アニメに欠かせない味のある脇役たちを演じる個性豊かなキャストが聴かせる声の演技も楽しい。そして、岡村明美さん演じる設計士のフィオ、加藤登紀子さん演じるマダム・ジーナ(加藤さんは劇中の歌「さくらんぼの実る頃」、エンディングの「時には昔の話を」も担当)といったヒロインたちも魅力たっぷりで、凛とした立ち姿もいい。さらに、宮崎アニメに欠かせないのが久石譲さんの音楽。一節聞いただけで久石さんの曲だとわかる、まさに“久石節”が効いていて、サウンドトラックという音楽単体でも楽しめる。
 東京都調布市にあるイオンシネマシアタス調布で行われている“映画のまち調布シネマフェスティバル”というイベントでDCP化されたスタジオジブリ作品が上映されている。2019年は『風の谷のナウシカ』(コロナ禍の2020年には『もののけ姫』『ゲド戦記』『千と千尋の神隠し』と共にTOHOシネマズをメインに上映された)、2020年は『天空の城ラピュタ』、2021年は『となりのトトロ』、2022年は『魔女の宅急便』、2023年は『耳をすませば』だった。来年こそは『紅の豚』が上映されないかと期待しているのだが、シアタス調布自慢のULTIRAがIMAXレーザーに変わってしまったことで、今後どうなるのかが気になるところ。もし、IMAXレーザーではなくても、上映されたら行ってしまうだろう。やはり、『紅の豚』を映画館の大きなスクリーンといい音響で観たいというファンは多いと思う。どんな形であれ、ぜひ、実現してほしいものだ。

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