ロン・ハワード監督『バックドラフト』
シカゴを舞台に消防士の活躍を描く作品といって思い出されるのは、『LAW&ORDER』シリーズや『FBI』シリーズなど、数多くの大ヒットドラマを手掛けた御大ディック・ウルフの手による『シカゴ』シリーズの1本『シカゴ・ファイア』だ。アメリカではシーズン11が終了し、9月からはシーズン12の放送も始まる大人気作品。同じようにシカゴを舞台に消防士たちを描いた映画があったことを覚えているだろうか? それが1991年制作の『バックドラフト』で、日本では7月に公開され、配給収入12億円を上げた。監督は『コクーン』や『ダ・ヴィンチ・コード』など、今やハリウッドの巨匠監督のひとりとなったロン・ハワード。音楽は1980年代から数多くの映画作品を手掛けるヒットメーカー、ハンス・ジマー。カート・ラッセル、ウィリアム・ボールドウィン、ロバート・デ・ニーロ、ドナルド・サザーランド、ジェニファー・ジェイソン・リー、スコット・グレン、レベッカ・デモーネイといった豪華キャストが共演している。その後、2019年にはゴンサーロ・ロペス=ガイェゴ監督、ジョー・アンダーソン主演、ウィリアム・ボールドウィン、ドナルド・サザーランドが同じ役で出演した続編『バックドラフト2/ファイア・チェイサー』が作られた(アメリカではDVDストレートという不遇ぶり)。こんな続編が作られたなんて全然知らなかった。
筆者がこの映画を初めて観たのは劇場公開当時、渋谷にある渋東シネタワー(現TOHOシネマズ渋谷)だった。テレビ初放送は1995年4月8日のフジテレビ『ゴールデン洋画劇場』で、ラッセル=谷口節さん、ボールドウィン=堀内賢雄さん、デ・ニーロ=羽佐間道夫さん、サザーランド=富田耕生さん、ジェイソン・リー=鈴鹿千春さん、グレン=青野武さん、デモーネイ=高島雅羅さんというボイスキャスト。2回目はテレビ朝日『日曜洋画劇場』で、ラッセル=山路和弘さん、ボールドウィン=井上和彦さん、デ・ニーロ=小川真司さん、サザーランド=宮部昭夫さん、ジェイソン・リー=藤井佳代子さん、グレン=田中信夫さん、デモーネイ=岡本茉莉さん、ちなみにソフト版はラッセル=石丸博也さん、ボールドウィン=関俊彦さん、デ・ニーロ=小林清志さん、サザーランド=池田勝さん、ジェイソン・リー=井上喜久子さん、グレン=納谷六朗さん、デモーネイ=深見梨加さんだった。
1971年のシカゴ、ラッセル(二役)演じる消防士の父デニスが火災現場で殉職した現場を目撃したボールドウィン演じるブライアンが、20年後、消防学校を卒業し、ラッセル演じる兄スティーブンと同じ隊に所属する消防士となる。ブライアンはスティーブンに厳しく鍛えられるが、途中で挫折し、デ・ニーロ演じる消防捜査官リムゲイルの部下として働き始める。だが、シカゴではバックドラフト現象を利用した連続放火殺人事件が続発し、リムゲイルが捜査を続けて真相に迫っていくが、犯人と遭遇し、大ケガを負ってしまう。殉職した消防士の父と息子たち、消防士の兄と弟、兄と元妻という家族ドラマ、ブライアンとジェイソン・リー演じる元ガールフレンドの女性ジェニーとの恋、連続放火殺人事件の捜査というサスペンスと、さまざまなジャンルの物語が詰めに詰め込まれ、それらの物語をさばき切り、138分という映画に仕上げたハワード監督の巧みな手腕が光る。そして、最大の見どころといえるのは、火災現場を描くときの炎の描写だ。まるで生きているかのように消防士たちに襲い掛かる炎を実写と視覚効果を使って見せる技術とその迫力にも驚かされる。さらに物語を盛り上げるのがジマーの音楽。フジテレビの『料理の鉄人』でも使われた耳慣れた音楽だが、観る者の気持ちをかき立てる勇壮なメロディーと重厚なサウンドは、制作から30年以上経ってもまったく色あせていない。
現在、全国の映画館で開催されている『午前十時の映画祭13』の中の1本として、『バックドラフト』が久しぶりに映画館で上映されている。筆者は立川にある立川シネマシティのシネマツー・c-studioの“極上音響上映”で久しぶりに大きなスクリーンで観ることができた。フィルムライクなDCPで、炎が消防士に襲い掛かるときの低音の振動が座席にまでズンズンと伝わってくる。いい音響で場内に響き渡るジマーの音楽にさらに気持ちが上がった。やはり、映画は映画館で観るものだということを実感させられた。