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<短歌 repost> 二〇二二年八月の歌

 騒然と過ぎにし半年何歳も老けたと思う二〇二二

 地球外惑星の海泳ぐごと体温超える空気の重さ

 猛暑日の仏壇下がりの牛乳はすでに危険な味と成りたり

 夕雲に紛れる月は気弱げでもっとこっちに来れば良いのに

 あの月は誰にとっても月だから今夜はぼくのものでも良かろう

 今日もまたサヨナラ負けの阪神に逆上(のぼ)せた月もどこかに消える

 死のロード三タテ喰らう阪神のこんな時だけ全試合放送

 見なくても良いのに阪神八連敗解説消して音も落として

 テレビでも拡声器でも連日の「命を守れ」戦時と思う

 強制で無いならマスクも節電もするがマイナカードは御免だ

 原爆忌報じる横にザポリージャ原発攻撃伝えたる記事

 死してのち侵略者たる汚名着る戦車の中に果てし兵士よ

 我が背なに感じる歴史の重たさとテレビがしゃべる言葉の軽さ

 渡されたバトンを宙に放り出しラインを踏み越えそれでも前へ

 ウイルスと熱波に豪雨 人間と争う余地はどこにもあらず

 他人事(ひとごと)では無いないのだからと仰るが他人事ならば助けんのかと

 他人事かどうかは知らず人なれば成すべきことを成すべし 以上

 戦争は他人事で無し戦争を始めた側の国民として

 簾(すだれ)越し欅の枝に手招かれ消えない声は蝉はた耳鳴り

 軒簾巻けずに残す微動だにしない飛蝗の背の鮮やかさ

 亡き父の誕生日にてスーパーのパックの蒲焼き供えてみたり

 仏壇に魚を置けば最近は何でも食べるでしょと亡母

 どんよりと疲れた朝を引き連れて八月十六日のひぐらし

 泣けてきて泣けてきてまた泣けてきて・・・・ それが八月

 若者のギター離れよ音楽はアプリで作る時代となりて

 Fの壁どころか指はフレットを押さえることなくスマホを擦る

 視野欠損あまり変わりはありません 治らぬ病の「あまり」の重み

 洗濯機暗き隅にて回しおり死なない限り生きねばならぬ

 ワクチンを明日に控えて菓子パンとスポーツドリンク、ノンアル缶も

 生(あ)れしより最期の日まで人として落第である咳(しわぶ)き深し

 高熱で前後不覚の一日が明ければ空ははや秋の雲

(初出:『こばと第11号』)


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