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外は強い風が吹いている
彼此10年程、自転車通勤をしている。
雨の日も風の日も。
片道30分くらい、
来る日も来る日も必死にペダルを漕ぐ日々。
なんでこんなにも向かい風ばかりなんだろう。
行きも帰りもって、おかしくないか?
そうは言っても、自転車は好きだ。
景色の流れ方が丁度いい。
歩くよりも、車に乗るよりも。
朝早い仕事で夜明け前に出発するので、
行きの道はホントに空いていて気持ちがいい。
季節の移り変わり、時間による空気や明るさの変化に敏感になれた気がする。
結構スピードも出るため、危険察知能力や動物的本能も
磨かれているんじゃないかと感じる。
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昨日から妻が体調を崩している。
朝方は元気にお外でひとりモーニングをしていたらしく、
ルンルンで仕事中の僕に
食べたものの写真を送ってきたりしていたのだが。
そして、今日の昼頃には、
息子が学校で吐き気と腹痛を訴えていると連絡があり、
お迎えに向かう。
仕事場で知らせを聞いた僕は、
いつにも増して必死にペダルを漕いでいた。
なのに、全然前に進まない。
風が強すぎる。
僕を取り囲む全ての木々が風でしなっている。
なんてこった !
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顔色が真っ白でお腹を押さえて痛みを訴える息子を病院へ連れて行く。
病院の待ち時間は長い。
ベンチで横たわる息子。顔を顰めて苦しそうだ。
可哀想に。
診断はウイルス性胃腸炎。
学校でも流行っているみたいだ。
病院の窓から見える景色は嵐のようだった。
街路樹は揺れ動き、ごみ箱やどこかの店の登りやらが散乱している。
でも音はない。防音がしっかりされているのか、
それらは窓の外でただ激しく動いていた。
待合室の静かなオルゴールの音色だけが聴こえていて、
なんだかまったく現実味がない空間にいるようだった。
息子の顔を覗き込む。寝息が聞こえた。
寝入って少し落ち着いたみたいだ。
よかった。
家に帰り、息子に薬を飲ませて寝付かせる。
脱水しないようにと、薬局で買った経口補水液のゼリーを枕元に置いた。
明日には良くなりますように、と願う。
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気持ちを落ち着かせる
一息つこうと自分のためにコーヒーを淹れた。
妻と二人で飲む時はいつも深煎り。妻はあまり浅煎りが得意ではないのだ。
未だ腹痛の妻はコーヒーなど飲めるわけもなく、
僕はひとり浅煎りのコーヒーを嗜んだ。
甘酸っぱさが口中に広がった。
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抜けていくのが分かる
部屋の窓ガラスはガタガタと軋んでいる。
家全体が揺れているようだ。
外は強い風が吹いている。
明日には止んでくれるだろうか。
でなけりゃ、また向かい風の中を必死にペダルを
漕がなくてはいけない。
それはちょっと勘弁してもらいたい。
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しあわせだ