そうしたいから、そうする。そう思いたいから、そう思う。
アルバイト中、ふと映画が観たいと思った。
なぜか分からないが、突如浮かび上がってきた気持ちだ。それはまるで、小泉進次郎が二酸化炭素の削減目標を着想したときのようにおぼろげなものだった。
ひとまず、池袋にあるグランドシネマサンシャインの上映スケジュールを開いた。映画を観るときはここと決めている。アクセスが良いわけでも、縁故があるわけでもないが、なんとなく好感をもっているからそうしている。
合間で予約サイトをスクロールしているうちに、山崎貴『ゴジラ -1.0』(2023)を見つけた。「これだ!」とビビッと反応し、すぐに18時15分からの回を予約した。
時折、何となく後回しにしていたことが突然意識に浮かび上がることは確かにある。セクシー進次郎もそうだったのかな。
さて15時、渋谷でアルバイトを終えた。そこには、上映開始まで約3時間という何とも微妙な時間がうまれた。さて、どのように過ごそうか?
15:40 代々木八幡宮
そういえば、今年は初詣に行っていない。おみくじを引いていない。
何らか信仰をもっているわけでも、占いを信じているわけでもないが、おみくじを引くというイベントは好きなので、気が向いたときに初詣には行くことにしている。その気持ちが固まるまで1ヶ月強かかった。
ということで、歩いて15分ほどのところにある代々木八幡宮へ行った。
代々木公園の外縁を進んだ先、幹線道路と住宅街に挟まれた高台にあった。コンクリートの街並みと静かで荘厳なアジールが地続きになっている様には、東京という都市の狭さと歪さが凝縮されているように感じた。
鳥居をくぐり、石段をしばらく登ると、本殿にたどり着いた。祝日だったためか、それなりの参拝客が列を成していた。前座となるお参りを済ませたのち、いよいよ本殿左側のおみくじを引いた。
中吉だった。続きには、このように書いてあった(抜粋)
えーむっちゃええやん!(CV: ダブルヒガシ東) これまでの22年間、上手くいかなかった物事、不遇、ぜんぶ巻き返させてください! 大切にしたいひとも見つけました! なるべく謙虚な面をしながら、沸々と熱い野心をもって戦う一年にしたい!
かかってこい社会! 染まらねーぞー!!
16:30 初台交差点の手前
まだまだ時間がある。代々木八幡宮から新宿駅まで歩くことにした。
17:20 ジュンク堂書店 池袋本店
新宿駅からは山手線に乗り、池袋駅に到着した。
上映開始まで、約1時間。およそ想定通りの時間だ。ここで時間を潰すとすれば、やはり「ジュンク堂書店 池袋本店』一択である(そんなことはない)。
月に3冊、本を買ってもいいと決めている。ロック・リーが言うところの「自分ルール」であり、来るべき一人暮らしに向けた自制である。
何度もエスカレータを往復し、吟味に吟味を重ね、2月の3冊を選んだ。以下の通りである。
ジョン・オカダ, 2016, 『ノーノー・ボーイ』旬報社.
東浩紀, 2023, 『訂正する力』朝日新書.
にゃんこそば, 2023, 『ビジュアルでわかる日本 データに隠された真実』SB Creative.
そう遠くないうちに、これらについても記述したい。
18:15 グランドシネマサンシャイン
本を選ぶのに時間をかけ過ぎて、グランドシネマサンシャインまでは小走りで移動することになった。生まれてはじめて、映画泥棒検挙の様子を見届けることなく本編が始まった。
感想を端的に述べるなら、「逆にこれで良い!」かもしれない。ゴジラの動き、逃げ惑う人々、建物の崩壊など、CGの素晴らしさに舌を巻く一方で、主軸となる主人公(神木隆之介)の葛藤や挫折があまりにありきたり過ぎて、冒頭10分で結末が予測し得るストーリーを描いていたことが目立つ。ところどころに垣間見えるお涙頂戴な展開には、ため息が出そうだった。
でも、これでいいと思った。ストーリーまで素晴らしかったなら、本当に文句の付け所がない映画になってしまう。名作の一つとして称賛され続ける代わりに、多くの人々の心の表層に触れるだけにとどまってしまう。それではつまらない。
あんなにCGが良くて、セットも良くて、それでもストーリーや演出にはツッコミどころが満載で…… それらすべての塩梅によって、結果として僕はこの2時間を忘れることはない。少なからずいる友だちにも、今日の体験をきっと話したい。
『ゴジラ -1.0』は、そのような余地が多分に残された映画だと、僕は思う。そう思いたいから、そう思っている。そうでなくてはいけないのかもしれない。