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【ネタバレあり ライブ感想文】羊文学「Tour 2024 "soft soul, prickly eyes"」@Zepp Sapporo 2024.9.13(金)
こんにちは。シリアスファイターです。
今回は羊文学のライブツアー、札幌公演のライブ感想文です。
例によって以下の私の文章では、演奏曲と演出について、それに対する思いも込みで言及され続けますので、今後ツアーに参加される方は閲覧をお控えいただくことを推奨します。
それでは。
今回のツアー、やるとしたら多少無理そうな日程でも行くしか選択肢はありませんでした。
そりゃあもちろん!
昨年12月に出たフルアルバム以降、初のワンマンツアーだからであり、そのアルバムの曲を降り注ぐ雨のように浴びたいからに決まっています。
初めて聞き終わった瞬間から、ポップだった前作以上に解放的な心地がしたのは、明るさよりも、暖かさが伝わる声や音が多かった気がするからだと思います。
自分の中で確かに生きている実感を、毛布にくるんで抱きしめたくなる12曲。
アルバム発表と同時に、横浜アリーナとアジアツアーに向けてバンドが走り出していたこともあり、国内ツアーはしばしお預けなのは何となく察していましたが、それでも横浜アリーナの日に何かあるだろう…と期待していたら案の定訪れたツアー発表の時。
即座にチケットを奪取しつつ、フライングで先月のライジングサンでの素晴らしいライブを摂取しつつ、1年振りにZepp Sapporoにて、その轟音に身を委ねることとなりました。
ファンクラブ会員ではない割には整理番号が早かったこの日。
昨年は2階席でしたが、今日は河西さん(Ba.)側の前から4〜5列目付近。
超好位置と言って過言ではありませんでしたが、ステージは昨年同様、一面が白い簾状のカーテンに覆われていて、その様子は隙間からチラチラとしか窺い知ることはできません。
定刻を過ぎると、会場内に流れるBGMはそのままに、暗転したステージ上にメンバーが登場し、拍手や歓声で迎えられます。
準備を整え、塩塚さん(Vo&Gt.)が大きく片手を上げると、BGMがゆったりとフェードアウト。
メンバーを頭上から照らし出す光の柱のみが降り注ぐステージ上で、塩塚さんがポロポロと弾き始めるのは、何だか気怠げですが、肩の荷をゆっくりと下ろせるような安心感に満ちたギターの音色。
カウントとともに3人が音を合わせ始めた瞬間、輝き出す音は「金色」。
サビに入ると、ライジングで聞いた時よりも更に更に調子が良い塩塚さんの裏声が、緩やかにライブハウスの天井に溶けていきます。
何とも心地良い幕開けの後、YUNAさん(Dr.)が刻む細かいハイハットが、ロカビリー好きをビリビリに痙攣させるような「電波の街」でギアもテンポも一段と引き上がりますが、本人たちの纏う空気はいたって「楽しくて仕方ない」という様子。
この時点ではまだステージにかかったままのカーテンから時々覗く塩塚さんの笑みから、メンバーにとっても楽しいロックンロールの時間になっていることは明らか…!
ここでカーテンが演出上の働きをするのは何とびっくり「風になれ」で、カーテン上には色とりどりで大きさも色も全く異なる、無数の惑星のような丸があちこちで円環し続ける映像が映し出されるとともに、ポップだけどゴツゴツとしたグルーヴによってロックバンドたる煌めきを表現する音楽に胸が高鳴ります…!
走る、その先に、どんな未来がきたって
きっと今ならば目を逸らさないよ
私自身も、この無数の丸の1つなのかなと勝手に解釈しながら、たとえ歯車でも、運命でも、今生きることを選んでここにやってきた私の手をグッと握ってくれるような音楽を、掴んで離すものかと改めて決意。
このままギアを上げていくと見せかけて、少しテンポを落としたYUNAさんのドラムに、塩塚さんの暖かいギターリフが重なります。
やがてドラムセットが鎮座する台の上手側に腰かける塩塚さんが、そのコードのままアルペジオを鳴らし始めるのは「深呼吸」。
歌い出しに間に合うようにそっと立ち上がってマイクに向かう様子や、ゆっくりと、新鮮に生きる心地を吐き出すようなアンサンブルに、何かと日常生活に追われることが多くてカチコチになっていた気持ちが、ゆるゆると柔らかくなっていきます。
間奏部では、暗闇からメンバーの足元が少しずつ明るくなる照明とともに、安らぎと透明な空気が充満したアンサンブルが解き放たれていきます…たくさん開放される心…!
止まない雨も、
雲に覗く眩しさも知っている私たちは
不確かに揺らぐ日々が隠した
優しさに気づけるはず
白いカーテンにステージの照明が反射して、雨が降り注いでいるようにも、隙間から光が覗いているにも見えるこの時のための曲のようにも感じられながら、溢れ出すささやかな優しさにホッと胸を撫で下ろすばかりでした。
塩塚さん
「チューニング中で〜す。
みんなよく来たね〜。
(とても元気に声を出すお客さんも後方にいて)私もみんなに会いたかったよ、みんなも声とか出してもいいですからね。
今やった「深呼吸」って曲は、北海道で生まれた曲で。
(どよめきと拍手…!)
やっていると北海道の空気をすごく感じます。
たまに、こっちから声出してとか言うこともあるけど、まあ出しても出さなくても何でもいいです。
まだこのカーテンは取れないんだけど笑、
(するとチラッとカーテンを開けて、顔を覗かせてくれるお茶目なゆりかさん笑)
肩の力を抜いて楽しんでいってください。
じゃあ、次の曲いきま〜す。」
いつにも増して緩〜い雰囲気の塩塚さんのMCを挟み、それでもいざギターが鳴ればかっこいいロックバンドでしかないことを証明する「countdown」。
原曲では野太く力強い声が聞こえていたカウントダウンパートを担当するのは塩塚さん。
囁くようなカウントから、無理せず着実にテンションを上げてサビのグルーヴに勢いを付けていく様は、クールにも見えますが、確実に熱がこもっています。
その熱を豪快なギターリフで底上げし、真赤な照明の下で燃え上がらせるのは「Girls」。
ノイズ?のような映像がカーテンいっぱいに映し出される中、よく分からないけど走らずにはいられない衝動のままに、ロックバンドのグルーヴが駆け抜けていきます。
すると対照的に、少し疲れたかのような青い照明とともに、ゆったりと海を漂うようなグランジのヘヴィな音像が印象的だった「人魚」へ。
2番のAメロに入った後、曲の雰囲気に並走するように歪みを増し、巧みに動き回る河西さんのベースにより、その水の中に漂う青はより深みを増します。
少しの暗闇と沈黙から、客席フロアから見て逆光になる眩しい照明とともに「光るとき」のイントロが力強く溢れ出すと、とうとう左右に開かれるカーテン。
堂々と前に出る塩塚さんに続くように、ちょこちょこと前に出る可愛らしい河西さん。
ライブが始まり直したのような大歓声と拍手に包まれます…!
深い海の底から、確かに刺す一筋の光の温もりに心が暖まって、有り余るほどの人生を生きる糧になるような音。
音楽を持って、また生き直す心地を手に入れるには、これ以上ない流れです…!
ステージ中央に3人が集まって、首を、身体を大きく使ってリズムを取りながら、イントロのフレーズをせーので合わせ続ける様が既に愛おしすぎた「あいまいでいいよ」。
その愛おしさはもちろん音にも滲み出ていて、時折笑顔を見せる3人の表情も終始柔らかいもの。
「あいまい」であっても、今はきっと大丈夫だと、心で伝わる感覚に嘘はありません。
そんな曲のアウトロから、YUNAさんによる波打つような力強いドラミングに繋げてみせるとそのまま「永遠のブルー」に繋がる展開は痺れるほどのかっこよさで、まるでライブ終盤のような畳みかけ!!
曲終わりに満面の笑みを浮かべていた河西さんが焼き付いて全く離れないほどには、あまりの大盤振る舞いさに嬉々とした雰囲気に包まれる会場でした。
ライブはここで終わりではなく、塩塚さんと河西さんはドラムセットの台に腰かけ、ここで長めのMCタイム。
先日のライジングサンで、「そこにいた人は全員今日ここに来るという約束をしたにも関わらず、絶対来てない人がいる。」とご立腹の塩塚さん笑
塩塚さん
「友達とかで、来てない人いたら、「怒ってる」って言っといてください笑」
とのことです笑
その後、先日出演したラジオで、終了時刻を勘違いし「お相手は…」と言ったところで放送が終わってしまったなど、本人曰く「初々しさ」を感じられる出演エピソードを披露してくれた後、札幌の話へ。
河西さんはサウナ+1時間の散歩で過ごし、塩塚さんはTOHOシネマズに映画を見に行ったところ、ドリンクカウンターで店員さんに「いつも聞いてます」と反応されるものの、既に見る予定の映画が始まっていたため「急いでます!」という旨を伝えざるを得なかったそう笑
その後、イヤホンの部品を買いにドンキホーテに行くと、ヤンキー風?の方に「羊文学じゃん!」とばれ、声をかけられない内に慌てて近くの別のドンキで買い物を済ませたという塩塚さん笑
塩塚さん
「今日その人(ヤンキー風の人)いませんよね…?流石にいないか笑
ヤンキーにも聞いてもらえてるんだと思って、ありがとうございます笑
じゃあ、そろそろやりますか。
今日ホントにあっという間に終わっちゃうから、心して楽しんでください。
今年リリースした曲で、このツアーで初めてやってる曲をやります。」
緑色の照明に包まれるステージで、静かに鳴らされ始めるのは「tears」。
肩の力を何としても抜きたい夜に響いてほしいアルペジオと、そこに寄り添うように音を重ねていくドラムとベースに、そっと心を預けます。
昨年のワンマンでは未発表の新曲として披露されていた「honestly」。
原曲を聞いた上で聞くと、サビでのかけ合いのような歌唱パートは、ライブでは塩塚さん1人で歌い切らねばならないため息継ぎがとても難しそうでしたが、難なく歌いきってみせる塩塚さん。
YUNAさんが刻む細かいビートが曲に推進力を与えて、何があっても正直で逆らえない心の内をじわじわと露わにしてくれます。
ステージバックの幕に、水に青の絵の具を溶かしたような映像が流れる中、静かに演奏された「つづく」。
最後にはその映像が逆再生され、染まりながら、浄化されながら、それでも何かが続いていく事実を淡々と受け入れ、受け止めていくような時間が流れていきます。
真っ暗なステージで、塩塚さんの足元のみを照らし出す照明。
始まるのは「祈り」。
ライジングでは少し苦しそうだった塩塚さんのロングトーンも、この日は軽やかな羽を携えたように綺麗に羽ばたいていきます。
でも決して力強いだけではなく、とても繊細。
曲が最初のサビに差しかかっても、照明は真っ暗な夜道で光る1本の電灯程度の明るさしかありません。
真っ暗だからこそ、この曲が歌う「泣いても大丈夫であること」が、その優しさを讃えた祈りの意味が、私の心を抱きしめてくれるような音が広がるから、私は泣きました。
アウトロでバチバチと光り輝き始める照明とともに、夢のようだけど、確かな轟音に包まれる会場。
1音1音叩きつけられる最後の最後まで、これからまた生きる意志を込めながら、力強く曲が幕を下ろすと大きな拍手と歓声に包まれます…!
するとこの流れでYUNAさんによる力強いドラムから、歪み、燃え上がる塩塚さんのギターの音像。
間違いなくこのライブのハイライトになった「Burning」。
何にもなれないって
誰よりわかっているみたいに吐き捨てた
あと幾つ手にしたら満たされるんだ?
ねえ答えて 涙が ああ 涙が
塩塚さんの歌唱はCメロで力が入るあまり、「涙が」のフレーズは、絞り出すようにかすれた声に変わり、私の中でも心から溢れ出すものを堪え切れませんでした。
Yeah I'm crying 消えない傷跡が明日を
飲み込む前に暗闇の底から命を燃やすの
この曲の間、ステージバックに流れていたのは、ぱっちりと開いた瞳の奥に、一本のろうそくの火が揺らめいている映像。
堪えきれない涙を流す瞳の奥で灯る命の灯火が絶えることは決してないから、涙を堪えきれなくてもいいんだ…この歪んだ轟音が私のお守りなんだ…!
「祈り」からの流れも相まって、少し震えながらも絶対に目も耳も心も逸らしたくない轟音の景色がありました。
ライブもおそらく終盤戦。
少しギアを上げる「OOPARTS」では、MVを彷彿とさせるTV画面がステージバックに幾重にも映し出され、謎のヒトデ形のマスコットキャラクターや、瞳や、パソコンのエラー画面や、デジタル時計など、処理し切れないほどの映像が流れてきます。
そんな中でも、間奏では塩塚さんと河西さんが、ステージ前面に出て、ギターとベースをこれでもかと弾き倒す様を見て、これが私のエンパイア!と思ってしまいます(ちょっと意味不明ですかね?)。
どれだけの情報量の中でも、自分の中の理想を信じて突き進む気持ちはしっかり持っていたいと改めて思う音だったのです。
イントロとともに自然と会場内で起こる手拍子から待望感に満ちていた「more than words」。
オレンジの火花のような照明がステージを満たす中、その待望感に歪みを上塗りするように、終盤に向けてどんどんと歪みを増す塩塚さんのエレキギターの音色、河西さんのベース、YUNAさんの力強いドラム。
言葉がよく伝わる曲だからこそ、言葉を越えた音に宿る何かを、じっくりと込めるような演奏でした。
塩塚さん
「…さっき言いそびれたんだけど、3人でご飯食べに行ったでしょ?
そしたらどっかのタイミングで、店員さんがこっち見てニコッとしてて、そしたらさっきまでnever young beachがかかってたのに、羊文学が流れ出して笑
しかも「あたらしいわたし」って曲で、知ってる?
「きらめき」っていうミニアルバムに入ってるんですけど。
さっきのヤンキー風の人といい、札幌の街に根付いてるなって思いました笑」
そういう方との遭遇率も確かに凄いですが、おそらく後数十枚で売り切れだったんじゃないだろうかというくらいにはパンパンに埋まっていたフロアの様子からも、どんどん知名度を上げていることが伝わってきます…!
塩塚さん
「2024年の羊文学はもう疲れたので笑、このツアーはゆっくり回ろうというコンセプトでやってます。
今のところゆっくり回れてるよね?
(うなずく河西さん)
衣装も、普段は黒でビシッと決めることが多いんだけど、今日はジャージ素材をベースに作ってもらって。
グッズも、デザインしてくれる人に連絡取ったら「自分も疲れてる」って言ってて、疲れてるからって可愛いの作ってくれたりしました。
今日はアンコールやらないから、後3曲で全部出し切ります。
(いたって静かな客席)
「えー!」とかないんだね笑
優しいね笑
(客席から響く「えー!」の声)
そういうのいいから!笑」
ロックバンドはある程度無理をする生き物だとは思ってますが、側から見ても確かに怒涛すぎた今年の羊文学。
でも今日の演奏や雰囲気から、たとえシリアスで攻撃的な曲にも、どこかリラックスした雰囲気が感じられたのは、きっと本人の言葉どおりのライブができていることの現れなんだと思い、こちらも改めて安心してしまいます。
塩塚さん
「最後の3曲は、ゆっくりめの曲と、ミドルテンポの曲と、後は秘密なんだけど笑。
ミドルテンポの曲の最後の方は、古い曲で分からないかも知らないけど、一緒に歌ってほしい、というか、何でもいいので声出しオッケータイムなので笑、よろしくお願いします。」
こうしてある意味アンコールのような時間をゆっくりと始めるのは、指先から力が抜けるようなアルペジオと繊細な裏声にスッと引き込まれる「くだらない」。
ステージ後方に何本か設置されたオレンジの柱のような照明がどこか夕暮れを思わせながら、この肩の力の抜けた楽しいライブがそろそろ終わることに対する切なさも少し感じ始めます。
宣言通り、この日唯一バンドから声出しを促す曲は意外にも「涙の行方」…!
2番のAメロあたりから、腕を上下にフリフリし始めて既に楽しそうだった塩塚さんは、曲終盤のコーラス部分に突入するとともに、曲のリズムに乗りながら、
「ここだ!♪
歌って!
何でもいいぞぉ!!」
と雄叫びを上げます!
どうでもいいことに悩んだ毎日も
いつかはあなたの明日を繋いでゆく
とても高いキーですが、私自身は裏声で、他のお客さんも思い思いの形で、「hu hu hu…」と歌を紡いでいきます。
塩塚さん
「そのまま続けてください…!」
お客さんのみのコーラスとともに、原曲にはない長尺のアウトロで足取りは軽快に、音像は渋く歪んで歯切れの良いセッションを畳みかける3人…!
塩塚さんの言葉に呼応するように、この日も、明日に向けて繋がる新しい音楽が生まれたところで、内緒にされていた最後の一曲は…先ほどを遥かに上回るほど、あまりにも意外過ぎた「Addiction」…!!
真緑に包まれるステージで、どれだけ肩の力を抜いても抗えない、攻撃的なオルタナロックバンドの性が大爆発する音像に大興奮…!
これだから…こういうことがあるから…ロックバンドは好きすぎます…!
自由にステージ上を動き回りながら暴れ回る音像を最後まで楽しみ尽くした3人。
最後には晴れやかな表情で客席に手を振りながら(塩塚さんは両手で小さくハートマークも作りつつ)、ゆっくりと歩いて退場。
終始、過去一番に肩の力が抜けた心地良い雰囲気でしたが、随所随所から滲み出るオルタナロックバンドとしての性が音から溢れ出していたせいで、見て聞いているこっちは、目玉の奥から、鼓膜の奥から、生きてる心地をギラギラに取り戻しましたよ…!
無理しても無理せずロックバンドを楽しんでいる姿に、こちらも安心感を覚えるようなライブでした。
セットリスト
1.金色
2.電波の街
3.風になれ
4.深呼吸
5.countdown
6.Girls
7.人魚
8.光るとき
9.あいまいでいいよ
10.永遠のブルー
11.tears
12.honestly
13.つづく
14.祈り
15.Burning
16.OOPARTS
17.more than words
18.くだらない
19.涙の行方
20.Addiction
今回は以上です。
最後まで読んでいただいたそこのあなた、本当にありがとうございました。