【壊し続け、創造し続ける新次元へようこそ】女王蜂「十ニ次元」
こんばんは。シリアスファイターです。
久しぶりにアルバムの感想と曲紹介をまとめてみたくなりました…というか、まとめたくてたまらなくなりましたので今回はこちら。
女王蜂、3年振りのフルアルバム「十ニ次元」です。
前作の「BL」辺りから、バンドサウンド以外の打ち込みや楽器も積極的に取り入れる姿勢が如実に出ていた(それまでに取り入れていた曲もありましたが、)ので、今回も直近のシングル群の流れから、バンドの枠に捉われないとても幅広い楽曲が並んでいます。
それらの楽曲を並べて聞くことで、常に孤高の存在として、自らの表現に挑戦し続けるバンドの姿をより多面的に、立体的に感じ取れるアルバムでした。
以下は、一曲ずつ簡潔に、私なりの曲解釈と感想です。
1.油
アヴちゃんの力強いボーカルが口火を切るオープニングナンバー。
跳ねるリズムに弦の音色が加わることで、極めて和風、豪華絢爛、魅惑の世界へご招待…なんて謎の決まり文句が口から飛び出してしまいそうな、女王蜂流のド派手なおもてなしが早くも心地よくて、ライブではジュリ扇が舞いに舞う様が目に浮かびますね。
一曲目から多彩な声色を使い分けながら、ラップさながらに言葉を畳みかけるAメロから、豪快に歌い上げるサビまで見事に決めていて、まさしくここから女王蜂に入る人にとっても、名刺替わりのような曲にもなるような印象でした。
そんな、女王蜂を構成する要素を全乗せしたような曲ですが、歌詞は、言い訳せずに、過去と明確に決別し前進あるのみ、という攻めの姿勢が感じられました。
このアルバムで、またとんでもないところに連れて行かれることを大いに予感させる、潔く全てを忘れる締めも含めて完璧なオープニング。
2.犬姫 (12D ver.)
既発曲のアルバムver.。
ロングver.のイントロに導かれ、満を持して主役が舞台に華麗に登場するような印象が加わり、いよいよアルバムが本格的に始まりを告げます。
原曲から変わらず、やしちゃんのファンキーで渋いベースラインと、和楽器の醸し出す流麗な雰囲気のコンビネーションが、私の大好きポイント。
まるで煌びやかな衣装に溢れた時代劇を見ているような清々しい気持ちになれるのに、曲の行き先は地獄。
辛くとも、それが生きる道ならば、堂々と行くしかないですよね、と不思議と思えてしまうほど、逞しい音が鳴っています。
3.夜啼鶯
ゴリゴリのハードロック色濃いめで、アルバムを勢いづける楽曲。
高音部がしっかり強調された激しいドラムのフレーズと、サビ辺りから荒れ狂うギターフレーズによるアレンジが決定打で、ライブでクールに弾き狂うひばりくんの姿を想像するだけで非常に燃える一曲。
曲を締めくくる、「さあ、参りましょう」のフレーズ。
ここから間髪入れず次曲に入りますが、次曲のシングルジャケットで不敵に手招きするアヴちゃんの姿が自然と浮かんできてしまった時点で、とっくにこのアルバムから、女王蜂から、逃げ出すことはできなくなっていました。
4.MYSTERIOUS
終始ジャジーな雰囲気のドラムとベースが曲を引っ張るミドルナンバー…。
…なのですが、所々現れるセクシーなアコギの音色やら、優雅な雰囲気のストリングスも混ざり合うことで、異次元をふわふわと漂うような浮遊感を得られるかと思いきや、サビに向けたブレイク前、唐突に激しさを増す弦楽器のアクセントが効いて、サビでは優雅に力強く翔くイメージに変わっているというマジックにかかります。
えっ、なんで…?
でも不思議と気持ちいい。これぞミステリアス。
5.KING BITCH (feat.歌代ニーナ)
リンクはシングルver.です。
改めて、「BITCHの王」って、メジャーシーンで活動するバンドのシングルのタイトルとしては非常に攻めまくっているし、どういうこと!?と思わずワクワクさせられたので最高だなと思います。
歌代さんの声とラップパートが加わり、そんな攻めたタイトルによりふさわしい、気高く汚れた美しさ(いい意味でのBitch感?)を持つ王としての風格が漂いすぎる仕上がりに。
この世界で孤高の存在として生きる覚悟が、2人のボーカルの掛け合いから滲み出ています。
歌代さんパートはもちろんのこと、二番以降はアヴちゃんパートも、歌詞もメロも大胆に追加され、最早シングルver.とは完全に別曲と化していますが、多面的な表情を見せるこのアルバムの一曲として、同じ曲でも新たな魅力を提示するという意味で、これ以上ないカッコよさではないでしょうか。
6.バイオレンス
アニメ「チェンソーマン」のエンディング起用や、このバンドでは本っ当に珍しいTVでの歌唱が何度もあったりと、これを入口に改めてバンドの存在を知った人も多いのではないかというこの曲で、前半をバッチリと締めます。
バチバチに楽器隊がぶつかり合う攻撃的なバンドサウンドに、EDMを大胆に取り入れながらもそれがバンドの音を邪魔しないどころか、バンドの音とタイマンでガチンコの喧嘩を繰り広げた挙句、アヴちゃんのセクシーで力強い歌声まで乱入してきたせいで、とにかく「闘い」まくっているロックナンバー。
少し余談ですが、この曲をTV歌唱した3番組を見ましたが、どれもただただ孤高の女王蜂でしかなくて、緊張したけどため息が出ちゃうカッコよさでしたね…。
特にスッキリでは加藤さんも言ってましたが、なんで朝からあんなに声が出るんだと思いました…凄まじ…。
7.杜若
疾走する王道のロックサウンドに乗せて、歌謡曲のような哀愁漂う歌メロがストレートに響く一曲。
アルバムで1番、直球勝負の女王蜂という印象です。
タイトルは、かきつばた、という花の名前なんですね…初めて知りました。
花言葉は「幸運」のような意味を持つらしいですが、歌詞は幸せいっぱいではなく、どんなに辛く苦しい環境でも、誰かといられる日々なら、少しはまともに思えるのではないか、そんな誰かとなら自分の目指す何か(幸福?)を追いかけることができるのではないかと、静かに確信する(というかしたがっている?)内容。
バイオレンス→杜若→回春の繋がりで聞くことで、「売春」の歌詞に登場するあの2人が抱いていた、お互いを求め合う心情の変遷と解釈することもできるような気がします。
8.回春
ということで、過去曲である「売春」のその後を描いた(であろう)この曲で、クールダウン…と言いたいですが、BPMが落ちるだけで、主人公たちの現在と心情をより深く抉っていきます。
アヴちゃんの変幻自在の声色で、曲中に一人二役を演じながら歌い分ける様や、随所随所のアレンジやフレーズなど、「売春」を踏襲しつつも、更にアップデートさせた楽曲です。
過去の出来事を肯定するでもなく、乗り越えるでもなく、ただそこにあるものとして、自身の一部として受け入れながらも、時にお互いのことを思ってしまうという絶妙な距離感は、切なさを感じつつも、お互いをお互いとして尊重し合う上で、そうするしかないなのかな…なんて妄想が捗ります。
9.堕天
先行シングルだった「夜天」はアルバムに入らないんだと思っていたら、アレンジされたver.がこちらの「堕天」。
「夜天」はこちら↓
比較的ポップで明るく、打ち込みを多様したアレンジで、切なさや儚さが美しく映えるのが印象的な原曲に対し、「堕天」はBPMを落とし、地に足をつけた力強いバンドサウンドとピアノ主体の曲に変化しています。
アヴちゃんの歌唱も、高くかわいらしい声を多用していた原曲から一転、ほぼ全編に渡って地声の低い声で確かな決意を持ったものに変わり、孤独の果てに出会える喜びを噛み締めながらも、それでも人が孤独であることに変わりはないからこそ、その前提の上で突き進むという覚悟が滲み出た一曲に変貌を遂げました。
ここから終盤へ、核心へと向かっていく準備はできているかと、聞き手である私も問いただされているかのようなシリアスさを纏いながら、いよいよアルバムは佳境へ。
10.ハイになんてなりたくない
怪しい雰囲気の打ち込みトラックと、シリアスだけどどこかドラマチックなストリングスをバックに、アヴちゃんが情感たっぷりの歌声を捲し立てるという、暗黒曲。
一聴ではなんだこれ!?となる一曲でも、サビで繰り返されるタイトル通りの歌唱から、まだここで死ねない、これは限界じゃない、という切実さが身に染みます。
また、ドラッグetc...外的な要因?にも頼らず、己の力で進んでいくという意味の「ハイ」もかかってますね…。
生きてる限りどうせ死ぬ運命は変わらない、このアルバムにも終わりが近づいてる、でもまだまだ見せきれてないから、ここで終わるわけにはいかないという決意と挑戦の一曲。
11.長台詞
間髪入れず、舞台に上がり、中央に歩を進める足音が聞こえてきます。
そこからは聞いてびっくり、2分30分近くに渡り、タイトル通り舞台上で劇の長台詞を演じるように、アヴちゃんによる歌詞の朗読が繰り広げられます。
イヤホンで聞くと途中、左から右へ、アヴちゃんの声が動くように聞こえることから、まるで舞台上をゆっくりと歩きながら主人公を演じる、アヴちゃんの姿が瞼の奥にはっきりと浮かびます。
多種多様な声色使いのアヴちゃんの持てる全ての声を持って届けられる長台詞。
ハイになんてなりたくないと言っていた前曲から、舞い落ちる灰を見て、雪のようだと無邪気にはなれなかった主人公は、そっと何かを決意するように強く舞台を踏みしめて、次の舞台へ進んでいきます。
12.十二次元
流麗なギターのアルペジオを誘われ始まる、アルバムの核心。
一つひとつ数え上げていくような歌詞とともに、淡々と進行する曲調は、バンドサウンドを主軸としつつも、どこか怪しい雰囲気を携えています。
数を数えるうち、大きな盛り上がりもなく叩きつけられたバンドサウンドと、アヴちゃんの声とともに、曲は唐突に終わりを告げます。
このまま死ぬまで、孤高の存在としての女王蜂であり続ける覚悟を、一つひとつ刻みつけるようにアルバムは幕を閉じます。
和楽器から打ち込みまで、多彩な音を取り入れながら、最早バンドサウンドではなく、演劇のような口上だとしても、それら全てが私の女王蜂に対するイメージを何度も壊す度に、全く新しい女王蜂が爆誕する今作。
どうあっても他に似ることはない、孤高の存在を突き詰めて、堂々と鳴らす姿勢が存分に現れた12曲を聞いていると、また自然と、自分の思うままに生きる勇気が湧いてくる…。
今作もそんなアルバムでした!
ここまできっちり流れに沿ったアルバムですが、果たしてアルバムツアーやるのかな…、あるなら是非、ライブでも体感したいですね。
今回は以上です。ありがとうございました。
最後まで読んでいただいたそこのあなた、ようこそ十二次元へ。