感想文 パク・ヨンミ著 『生きるための選択』
In Order to Live: A North Korean Girl's Journey to Freedom
(Yeonmi Park, narrated by Eji Kim) 2015年
邦題『生きるための選択 - 少女は13歳のとき、脱北することを決意して川を渡った』。図書館オーディオブック。ナレーションが抑揚のない棒読みで好き嫌い分かれると思う。英語はイギリス風の韓国発音まじり。アクセント強くて聞き取りにくいことがたびたび。慣れたら大丈夫。
ストーリーはパク・ヨンミさんの実体験。13歳で母親と脱北。人身売買のブローカーに騙されて母娘ともに壮絶な体験をして最終的に韓国、そしてアメリカへ。こういう話に接するといつも思うが、失敗して北朝鮮に連れ戻され投獄されたり処刑されたりする人もいる中、助かってのし上がっていく人は前者とどこが違うのか。運?本人の強い意志や努力?
食い物に困る北朝鮮へは絶対に帰りたくない、文字どおり「どんなことをしてでも」逃げ出してやると思った、と著者は綴る。
北朝鮮での生活ぶりには驚愕するし、恐怖政治には憎しみを覚える。脱出劇は迫真もので、けなげな姿に応援せずにはいられない。苦しみを乗り越えたヨンミさんには心から祝福を送る。
その一方、冒頭からあちこちに…おもに脱北以降はその感情描写に…違和感を覚えることがあった。多感な時期に学校に通わず、脱北後ひたすら本を読み漁り、独学で中学・高校卒業資格を取り、自力で大学へ進学してこの本を書いたという。すごい。そしていきなり考え方が西側的・アメリカ的なのだった。勝手な憶測ながら、著者本人がこの本をすべて書き上げたのだろうか。インタビュワーが誘導して引き出したような文章がいちいち気になった。
スマホの画面の小さなオーディオブックの表紙をよくよく見たら、"With Maryanne Vollers" と書いてある。ずっこけた。共著者おったわ。それ以降、違和感ある部分はパク・ヨンミさんではなく「西側の白人女性」の主観にすり替わって聞こえた。
表紙を熟視したついでに、顔写真はご本人だろうか、なんだかアジア系AIみたいな印象。脱北者だから今も身を隠して暮らしてるのだろう、それならAI顔で匿名性を表してるのかも…と想像した。驚いたことに実際は脱北者は数多く、韓国では彼らが出演するテレビ番組もあり、著者もたびたび出演したとのこと。
作中に出てくるダブリンでの例のスピーチ、YouTubeにすぐ見つかった。2014年当時、大学生の彼女はあどけない子供に見える。チマチョゴリのピンクのスカートが愛らしくまるで小鳥のよう。これは世界中の人の心を鷲掴みにしたに違いない。背後に映っている白人男性が「号泣した」という司会者だろうか…
ご本人は現在YouTubeチャンネルやInstagramでインフルエンサーとして活動中の様子。そのInstagram見て絶句した。こっちのメディアに洗脳されたんじゃありませんように。なんと表現すればいいのか、ずらりと並んだサムネイル…せっかく人身売買から逃げ出したのに。意味ありげな表情で、ぴったりな服着た体をくねくね動かすビデオ、濃い化粧に露出度の高い服で決めポーズの自撮り画像。それがやりたくて今幸せなんだったらいいけどやね。「こうしなきゃフォロワーが満足しない」とかいう使命感にかられてやってるんじゃありませんように。踏みにじられる前の、まだ少女だった頃のヨンミさんを思って物悲しい気持ちでタブ閉じた。
中国からモンゴル、韓国への逃亡を手助けしたのが、キリスト教宣教師や韓国語も解さないような韓国系中国人たち。見ず知らずの他人のために自らの命を懸ける人々の存在に心底感動した。
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