記録 星野源さんのオールナイトニッポンで僕原案のラジオドラマが流れた話「近況編」

※余りにも書きたいことが多すぎるので、身辺雑記の「近況編」、ドラマ内容の「放送編」と分けてお送りします。

どんなことも胸が裂けるほど苦しい 夜が来てもすべて覚えているだろ  声を上げて飛び上がるほどに嬉しい そんな日々がこれから起こるはずだろ 「フィルム」/星野源

いつ起こるんだよと心の中でつぶやきながら体を起こした。午前十時。朝ごはんには遅い時間になってしまった。眼鏡を掛けて寝返りを打つと「規則正しい生活リズム!!」と書かれた百均のホワイトボードが居心地悪そうに壁にぶら下がっていた。体が重い。またいつものようにiPodを鳴らしっぱなしで一時間くらいゴロゴロしているのだろう。

コロナ禍の世の中になり、生活が一気に変わった。3つの密を避けるため、不要不急の外出を自粛しなければならなくなった。大学は閉鎖され、対面授業もサークルの活動も出来なくなった。かわりに始まったオンライン授業も、「授業」とは名ばかりで、実際はzoom通話ではなくPDFで資料が配られて「これ読んでレポート書いて」と言われるだけのものばかり。処女作(http://ongakubun.com/archives/11568)にもある通り、僕は多動癖があり机に向かう勉強が非常に苦手である。地獄の受験記が終わってもそれは変わらない。人の話を聞くのが好きなので対面授業の時は何とかやれていたが、一人で家の中に籠るようになってから全く集中が出来なくなった。相談しても共感してくれる友達はおらず、コロナ後のことを妄想しても苦しさは少しも良くならない。そんなうちに生活は崩れ、飯も風呂もテレビを見るのも、携帯をいじることすら面倒になって、全く動けなくなった。課題を出せなくなってから三日が経っていた。

もしもの時は 側に誰もいないよ わかるだろう 今まで会った人や 残してほしい つたない記憶も 「もしも」/星野源 

iPodまで悲しい現実を突き付けてきたので「クソがっ!」と電源を切った。高校時代あれほど憧れた一人暮らしもいよいよ限界を迎えているようだ。僕は両親に電話し、車で迎えに来てもらうことにした。今の環境を変えないと間違いなく僕は終わる。一日三食ちゃんと出て「風呂入れ」と発破かけられる実家の方が生活リズムも整うはず。親の目もあれば課題だって捗るだろう。

その週末、遠路はるばる両親がやってきた。車に荷物を詰め込み、出発する。空は一面の曇天。窓には雨粒も見えた。無言の車に響く高速道路の走行音を聞きながら、僕はただ外を眺めていた。頭の中には彼の曲が流れていた。

耳のあたりに雨 胸の下を濡らして 晴れる日をずっと待っている
ここではない何処か いまではない彼方へ ここではない何処かへ いまではない貴方へ 「彼方」/星野源

実家には戻ったが、精神的には相変わらずだった。何一つ変わらなかった。親の目があっても課題は全然進まないし、他のこともやる気が起きない。ふとした瞬間に体が重くなり半日寝る。半日寝るとその日の夜に体力が余り過ぎて眠れなくなる。

ツイッターを見れば、「30分課題チャレ~ンジ!」だとか「ギリセーフやったぜ」だとか、褒められたやり方ではないにしろ最終的にはしっかり課題をこなしている友達ばかり。知っている劇団員はネット配信で劇団の知名度を保つ試みをいろいろ繰り出している。フォロワーにはドラマ脚本のコンペに向けてコロナの中絶賛創作中の人も結構いるし、noteにはフォローしているクリエイター達の記事が毎日毎日上がってくる。

俺は何をやっているのだろう。課題もこなせず、志望している創作系のことも何一つできず、ただテレビを見て、ラジオを聴いて、noteを読んでいるだけの人になってしまっている。何も動けていない。クリエイター志望たるものこういう有事にいかに新しいものを考え出せるかが勝負だというのに、それ以前の日常生活でもがいている。

とんとんぽつぽつ あなたが出ていく 小さな事件があなたを変えました 一念発起なんだそうです それは見事に産まれ変わったみたいです
なのに私ときたら ふら ふら ふら 昨夜も今朝も ふら ふら ふら 「次は何に産まれましょうか」/星野源

死にたくはないけど、死んだら楽になるとは思う。鬱モードになるといつもこうである。痛いのは嫌だし、死ぬのは怖いし、まだまだ見たいものはたくさんあるし、でも生きていて誰かに何も残せていない自分が申し訳なくて、今生きている奇跡に申し訳なくて仕方が無くなる。思考の負のスパイラルに陥っていた。

まさかこんな時期の真っただ中に、そこから救い上げられる出来事が起こるとは思ってもみなかった。



2020年6月23日、敬愛する星野源がソロでの音楽活動を開始してから10周年の節目を迎えた。それに伴い、その日の『星野源のオールナイトニッポン』は10周年記念特番をYouTubeライブで同時生配信するという特別仕様での放送となった。

生活リズムを整え直していた僕も、さすがにその日はリアルタイム視聴してもいいだろうと判断し、二十五時、YouTubeを開いて視聴していた。

源さん「どうもこんばんは、星野源です。」

源さんと放送作家の寺ちゃんが画面に映る。進行ゲストは芸能界きっての源さんファン、銀シャリの橋本さん(正装)。ミキサー室には懐かしのADくまさん。いきなり毎週聴いているファンとして微笑ましくなるポイントだらけで流石10周年特番という感じだった。源さんが10年間の感謝を述べ、橋本さんがメールテーマがを読み、ここまで全く源さんに目を合わせられないかわいい橋本さんに源さんがツッコミを入れ、一曲目の曲フリに入る。曲は橋本さんの選曲で、「ブランコ(House Ver.)」だ。

だけど死ぬのは怖いし できれば未来は見たい
いろんな人の力を借りてゆこう 最後の時までブランコは揺れるだろう 押す人がいればね 「ブランコ(House Ver.)」/星野源

橋本さんは「今の時期にピッタリだ」と言っていたが、自分にとってもピッタリで、何度も聞いた曲だが改めて心に沁みた。と同時に自分にとっての「押す人」とは誰なんだろうとも思った。

その後も番組は進行し、新曲「折り合い」の話や、僕らの”船長”テレ東の佐久間Pからのお祝いメッセージなどが続いた。

羨ましいと思った。自分の思っていることや面白いと感じたことを作品として世に出し、誰かを救ったり、人の人生を変えたりして、10年間ずっと続けてきた。他の仕事もしながらどれも手を抜かず、一人で食べられるようになり、メジャーシーンに飛び出てからも変わらないものを持ち続けて、暗いことだらけの世の中を照らしている。自然体でいてかっこよくて優しい。僕はいつもその光に照らしてもらう側で、どんなにあっち側に行きたいと願っても、いつも自分の身の回りのことに押しつぶされて、結局ダメになってしまう。情けなく思う。

CM中、BGMとして「フィルム」が掛かる中、準備をする源さんとスタッフの姿が映り続ける。ばりばり仕事中なのに、画面の向こう側に流れる雰囲気は温かい。その画面から伝わってくる熱が、今の僕には少し辛い。

源さん「続いては、星野源とスタッフが心を一つにしてお送りするこのコーナー。『星野ブロードウェイ』!」

今年の4月ごろから始まり、人気を博しているラジオドラマのコーナー。10周年記念のスペシャルバージョンらしい。源さんはともかく普段演技などをしないスタッフ陣の演技を動画付きで見られるのは貴重だ。橋本さんがメールを読み始める。彼も出るのだろうかなどと期待感に胸が躍る。




橋本さん「今日のドラマの原案を送ってくださったからのメールをご紹介したいと思います。東京都にお住いの”しげおかしげお”さん、19歳男性の方からのメッセージでございます。」




明らかに聞き覚えのあるラジオネームだった。




橋本さん「私が考えた『星野ブロードウェイ』は、源さんの曲『ある車掌』から着想を得ました。」




あれ?





橋本さん「源さんの曲の要素を思う存分散りばめてみました。」




記憶がよみがえる。

コロナ自粛が始まって間もないころに応募して、きっと不採用だと諦めていた脚本があった。

自分の持つ星野源の曲のイメージを沢山取り入れて、星野源への愛を思う存分込めた脚本。自分のクリエイターとしての身の立て方など一切考えに入れずに、ただただ好きなものを取り込んで作った脚本。



橋本さん「舞台の湘南台駅は『時よ』のミュージックビデオのロケ地です。」



おいおい……………嘘だろ……………!?



源さん「配役…すごいいっぱいいる!?えー、乗客:星野源、やらせていただきます。車掌:寺坂直毅、ナレーション:宮森亮、あとは出てのお楽しみということでございます。」

源さん「じゃあ、いきますよ皆さん!いいですね?映像なんですよ。後戻りはできないですよ(笑)それでは、東京都にお住まいの”しげおかしげお”さんが作ってくれた原案をもとに、作家の寺ちゃんが脚本を書きました。『星野ブロードウェイ』第10回公演『A conductor』」



「うおおおおおおおお!!!!!!」と声を上げた。

飛び上がって喜んだ。

さっき流れていた「フィルム」の歌詞が、運命みたいに頭の中によみがえってきた。


どんなことも胸が裂けるほど苦しい 夜が来てもすべて覚えているだろ  声を上げて飛び上がるほどに嬉しい そんな日々がこれから起こるはずだろ 「フィルム」/星野源


「放送編」へつづく……………


放送編→https://note.com/masaomi_hoshida/n/n846f0578ead8

放送アーカイブ→https://youtu.be/bCyRWuVRBSQ





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