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ぼんじり

明るい黄色い看板
チェーンの焼き鳥居酒屋は
ここのところ活況だ
世の中が止まったように
伽藍堂だったあの頃を乗り越えて
そこかしこで
ガラガラ笑う声がする

先の先のテーブル
その横のテーブルに
ここには似つかわしくない
キラキラギラギラした
細身の女性が座っている
細長い指に真白いタバコを挟み
肘は軽やかにテーブルにつき
紅いルージュの隙間から
スマートな煙を吐いている
パーマのよくかかった黒髪は
前方部分がわざとらしく盛られていて
襟裏には金髪が一線流れる
赤く肩の張った
タイトなスーツもさることながら
まぶたの紫は
鬼才の映画監督が好みそうな色合い
足元のヒールは凶器のようだし
短いであろうスカートの部分には
誰しもが目をやりづらい

彼女の前には
太った
頭皮の薄い
汗かき
の男が背中を丸め
おしぼりでこめかみを擦りながら
何かを必死に弁明しているようだった

意に介さないように
女性は少し上を向いたまま
目線と並行に煙をスッと吐き
一度タバコを置いたあと
月見つくねを食べようと
髪を少し上げながら
小皿に口を近付ける

埒があかないように
男は首を振り
店員を呼び止めてビールを頼んだ
女性にもおかわりを勧めたが
彼女は首を横に振り
下唇についた月見が落ちないように努めた

「お前、ほんと、
 ぼんじり好きだよな」
僕の横で連れが喋る
「ぼんじりっつうのは、
 鳥の尻の骨周りの部位なんだよ」
斜め向かいの別の連れが説明する
「だからか」
横の連れが返す
「だからか、じゃねーよ。
 意味わかんねーし」
これは僕が言う台詞

そして彼女は
男のために持ってこられた
生ビールの中ジョッキを奪い
一気に飲み干した後
男の頬をビンタした

周りの目線が集まることには
二人とも慣れているようで
男はまた
おしぼりでこめかみを擦りながら
何かを強く弁明しているようだった

「おい、俺のラストぼんじりは?」
これは僕
「お前が、ボーッとしてるからだよ」
横の連れ
「ケラケラケラ」
斜向かいに座る連れ

とかく
最近では珍しく
タバコの吸える
このチェーン居酒屋は賑わっていて
梅雨時期の心地悪さを
ビールで晴らしたい人々を誘惑し
商売のピークを
虎視眈々と狙っているようだった

今のところサポートは考えていませんが、もしあった場合は、次の出版等、創作資金といったところでしょうか、、、