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クライベイビー
マドモアゼルにだって苦手なことがある。なんせ、赤子が泣き止まない。別に子供がキライとかそんなんじゃないし、人並みに平和を愛する心があればこそ、未来を担うキューティーボーイorキューティーガール(またはその両方)には心動かされる。だけどもだけど、それは当人のハートが血を送りしアタマが想うことであって、相手方が必ずしもそうだっつうことは、大人同士でさえ、よほどないのだ。
今日もまた妹の家に遊びに行き、本日こそはの心意気で、1歳になる可愛い可愛い姪っ子を抱いたが最後、両隣と斜向かいの家にまで響く「ギャン」泣き。背中をゆっくりポンポンしてみても、高い高いしてみても、いないいないburningしてみても、とんと泣き止まない。
4〜5分頑張ってはみたが、少し息切れもあって、母なる妹キャンディの腕の中へ赤子を返したのだった。
「ホンっとに、お姉ちゃんに出会った赤ちゃんが泣いていないところ、見たことないわ。」
「マジ、張り裂けそうな思いなんだけど。他人の子供ならいいわよ!他人の子なら。なんで身内の子まで拒絶するのよ!」
悲しみor怒り(またはその両方、当然自分に向けて)に苛まれるマドモアゼル。足元には4歳になる赤子の姉がまとわりついて楽しく笑っている。泣き止むのは何歳が境目だったろうか?ということについてはファミリーの誰しもが思い出せない。
「よし!」
腕まくりするマドモアゼル(もともと半袖だから、そんなにまくれない)。
「お、第2ラウンドいきますか?」
キャンディは顔面いっぱいで赤子をあやしながら、1歩前マドモアゼルの方に寄った。
「叔母というものを見せてやるわ、フェンディ、見てなさい!」
鼻息荒い、叔母モアゼル。
「レリゴ!」
4歳の小悪魔フェンディの合図で、赤子は柔らかい手から、さらに柔らかい手に受け渡された。
、、、
ギャン、、
ギャン!、、
ギャン!ギャン!!ギャン!!!
「だめだこりゃ。」
「ダミダミダ。」
キャンディとフェンディが額に手を当てて首を振る。その分、「ギャン」は何倍にも増し、机のコップでは水が揺れている。
結局、今日も愛おしさはディスタンスの先、キウイジュースを啜りながら遠目で姪っ子を愛でることとなったマドモアゼル。でも、赤子に引っ張られた髪の根元がなんだかジンジンして痛いのを感じ、「ああ、私、生きてる。」とか思っていた。
「姉さん、『私、生きてる』、って顔してるわよ。キモ。」
「ふふふふふ。」
「笑うな。」
「妹よ、私にも出来ないことがまだまだある、挑戦の日々だということぞ。」
不敵な笑みをたたえるマドモアゼル。3回戦にいくかと思いきや、地味に腰をやっていた。笑うしかないのだ。
「キモ。」
「チモ。」
もうすぐ春一番が吹く季節だというのは、マドモアゼルの勘だが、いまだかつて外れたことがない。
「ホロッホウ。」
「クルックウ。」
それを示唆するように、窓の外では2羽の鳩が地を這って優しく円を描いていた。
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