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ミニマリズム【エッセイ】
コロナ禍の一年前の春、五泊七日の予定で、初めてマンハッタンに行くことになる。
旅行は、荷物を極力少なくし身軽さを旨としている。特に初日、ヤンキースの開幕戦で、マー君が投げる試合を観ることになっており、開始が午後一時。JFK到着予定が、三時間前。ギリギリなのだ。間に合わせるためには、ターンテーブルの待ち時間が無駄と、機内に持ち込めるサイズのバッグが、必須となった。
確か、春樹のエッセイ『村上ラヂオ』に、こうあった。下着、靴下、などの類は、捨ててきてもよいものがいい、と。加えて、部屋着や、インナー類も、古いTシャツとか(ハネムーンじゃないから、いいですよね)。
定刻少し前に着く。指紋照合機の感度が悪く少し難航したが、予定通りにホテルに到着。バッグを預け、地下鉄で向かう。ここでも、券売機や改札カードリーダーの感度が悪かったり(意外にNYはセンサーが遅れている)、路線を間違え、黒人の青年に助けられたりしながらも、やっと初球に間に合った。
概ね順調に経過し、最終日。「断捨離」を決行し、空きスペースに土産を格納(春樹の場合は、中古レコードが収まるのだけど)。無事、JFKに向う。が、ここで思惑違いが。離陸が三時間遅れるという。「おいおいよしてくれよ、最後に」、と思ったが、腰を据えてラウンジでワインでも飲みながら、待つことにする。
すると、横に座ったのが、少し年上の七十代中ほどの上品で気さくなご婦人。職業を聞くと、ドイツで大学教授をしているという。話も、ワインもかなりはずんだ(と言ってもスマホの翻訳機能を使いながらですが)。楽しく時間が過ぎ、便は違うが、一緒にゲートに移動し、ハグして別れたのだった。
しこたま飲んだおかげで、帰路は短かった。
羽田に到着したときも酔い心地だったが、入国審査もスムーズ。手荷物受取場を軽やかに素通りし、スイスイとロビーに。そこでハットした。ショルダーを機内に置き忘れた! 身軽さ気分が仇となってしまった、のだった。