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映画(その2)【エッセイ】六〇〇字

早稲田エクステンション「エッセイ講座」。夏休み前のお題「映画」。(その2)です。今回のアイテムは、『人間の條件』。あなたなら、どんな「映画」の想い出を書きますか?

 旭川から石狩川の上流30キロの位置に、愛別という町がある。小学3年から、1年半暮らす。田舎なので、娯楽と言えるものが少ない。旭川に家族で映画を観に行くことが楽しみだった。海軍出身の父は、映画も本も戦争ものが好き。太平洋戦争戦記に関する書籍が本箱に並んでいる横に、五味川純平の『人間の條件』があった。その小説が映画化されて間もなく、父が連れて行ってくれた。衝撃的だった。初めて「戦争」と「死」について考えたときだった。
 映画がきっかけで、寝起きの布団の中で戦争のことをよく話してくれた。潜水艦に乗っていたので、直接、人を殺したことも、目の前で、戦友が殺されたこともなかったが、海軍の“しごき”は、陸軍よりも厳しかったこと。上級兵にしごかれる新兵のなかには耐えられず自殺する者もいたこと。終戦が遅れていたら、人間魚雷に乗っていたとも。
「たくさんの人が死んだんだよね・・・」
「そうだ。死んだ。ただな、“天皇陛下万歳”って死んだ、というのはウソだ。みんな“お母さん、万歳”って言ったんだ」
「そうなんだ・・・死ぬって、なにもかもなくなるんだよね」
「そうだ、なくなる」
「いやだなあ。死にたくないなあ」と、布団に潜り震えていたことを思い出す。
 この頃からだった。家にひとりでいるとき、「無」が頭をかすめると無性に怖くなり、叫びながら、部屋中を走り回ったのは。中学まで続いた。


(おまけ1)
反戦映画『人間の條件』

原作小説の全6部を3本の映画作品としたトリロジー構成で、1959年から1961年にかけて公開された。五味川純平の同名小説の映画化作品である。監督は小林正樹、脚本が松山善三。主役と準主役は、梶役の仲代達矢と妻役の新珠三千代。キャストは、佐田啓二、山村聡、南原伸二、安部徹、芦田伸介、淡島千景、有馬稲子などの映画界と、宮口精二、小沢栄太郎、東野英治郎、中村伸郎など俳優座・文学座・民藝などの新劇界の豪華な俳優陣。
(ウィキペディアより)

小3のころ映画館で観た作品の内容の多くは憶えていない。1662年に加藤剛主演の同名ドラマ(TBS)も放送されたので、記憶が重なっているかもしれない。しかし、映画で覚えているのは、本文で触れた、新兵が上等兵や鬼軍曹に虐められるシーンと、戦争シーン、そして何よりもショッキングだったのは、新兵が便所の壁にもたれて、三八式歩兵銃の長い銃身を口に入れ足の指で引き金を押すシーンだった。
あらためて鑑賞しようとネトフリとアマプラを検索したが、なかった。

(おまけ2)
「愛別」

“愛別”という町名は、アイヌ語の「アイペッ」(矢、或いはトゲ・川)からとされ、土地の傾斜が急な為、流れが矢のように速い川(愛別川)があり、その川の名が町名に広がったとの説がある。しかし、愛別川はそれほど急流というわけではなく、また、「アイ」はトゲがあるということからイラクサも指し、その意味を「イラクサ・川」「矢の原料になる木がある川」とする説もある。1895年 和歌山・岐阜・愛知から179戸が入植する。
(ウィキペディアより)
そういえば、「イラクサ」は、川岸によく生えていた。

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