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いきつけ【エッセイ】一八〇〇字

 いわゆる「行列ができる店」に並ぶなんて、私の場合はあり得ない。行列そのものが苦手なのである。なので、なじみにする店は、並ばないどころか、ほとんどがいているところが多い。それでいて、ほどほどに味は求める。めんどくさい客なのだ。
 空いている店を好むのは、理由わけがある。ゆったりと呑めるということはもちろんだけど、予約で断られることがほとんどないから。「満席何ですぅ」なんて言われると、恋焦がれるお方に振られた想いになる。それと、月一程度でも顔を覚えていてくれるのも、いい。一度訪れ特に気に入った店の場合(女性に臨む際も同じと思うけど)、なじみになるために、ある戦術を使う。最初の1週間、2、3度ほど通うことにしている。そして、(空いているので必要ないのだけど)敢えて予約する。名前も声も、覚えてもらえることになる。なじみになると何がいいかって、なによりも多少のムリを聞いてくれるのが、いい。
 最近、月に2,3回は行くようになった、蕎麦屋がある。自宅から1700歩、神楽坂本通りから手前800歩にある。きっかけは、昼でも予約を受けてくれたこと。これまで、蕎麦を食べるときは、神田まで足を延ばしていた。「かんだやぶ」とか、「神田まつや」とか。神田は通し営業が多く、昼から予約できる店が多い。が、神楽坂は「通し」がない。あと、本通り近くにある店が、近年「タイヤ屋のガイドブック」で星をとったせいか、人気店が多くなり、昼は特に混むらしい。電話を入れると、(ちょこざいにも)並んでくださいと宣う店がほとんどなのだ。
 しかしその店は、違った。
 3時ころ電話すると、私よりもかなりご年輩と思われる年季の入った声、完璧な後期高齢者と思しきお姉さまが出られた。
「予約できますか? 11時半からなんですぅ・・・。来週の水曜日2名・・・」
「大丈夫ですよ」と、即答。
「来週の水曜日?・・・あら? 来週は河岸の日じゃなかったかな・・・あ、ちょっとまって。ここ上の階の部屋なので、確認して、折り返します」。昼の部が終り、自宅になっている部屋で休憩していたのだろう。
 5分ほどで電話が鳴り、予約が完了。

 十割蕎麦も、酒のつまみも、そして、接客も合格。そして何よりも相方さんも喜んでくれたので、気に入った。しかし、先に書いたように神楽坂には競合する店が多い。しかも、その店の並びにも蕎麦屋があり、夜は予約を受けるので、その別の店に何度か行っていた。三種のそば粉を使っているのが人気らしい。が、難点は予約で断られることもあること。
 なので振られることがなさそうなその店に、1か月後に出かけることに。5時半から1名の予約をすると、ご主人らしき声で、「ああ、大丈夫ですよ」。普通の店は、「携帯電話番号」を訊くのが常だが(多くは番号表示機能があるだろうから訊く必要があるのかと思うけど)、その店は、そのお尋ねがない。無言キャンセルの場合、どうするのだろう。なんともまあ~、太平楽なお店ですこと。と、さらに、気に入った。
 店に入ると、予約席のプレートが同じ席に置いてある。予約客は、やはり私だけのようだ。座るなり、「日本酒ください、冷で」と、前回、接客してくれた女性に言うと、「加賀の雪ですね?」と言ったのには、びっくり。覚えてくれていたのだ。すると、その女性ひとは、「お客さまお2人で、一升飲んでいましたもの」と笑った(いいわけするが、その店の銚子1合は、8勺くらいしか入っていない)。
 その日、前期高齢者1年生くらいのご主人に、野菜天のナスを多くしてくれるようにお願いしたのだが、その1週後に行ったとき、「今回もナス天多めでしょうか?」と訊かれた。ポイント10プラス。そして決定打は、コースで出しているらしいのだが、鯛の刺身。コリコリとして、美味だった。(ムリを聞いてくれ)「天然ものですよ」と、自慢げに出してくれたのが、可愛かった。(のちに、おなじ北海道の出身と知る)

 空いている店を馴染みにしていると、欠点もある。私が疫病神なのか、その店の経営手腕がないのか、いい関係ができた頃には、潰れることだ。カフェや焼肉屋2軒(1軒は、夜逃げ)、そして寿司屋などなど、これまで何軒潰してきたことか。この店には頑張ってほしい。少なくても85歳くらいまでは通えるだろうから、さ(たぶん)。

(おまけ)

タイガースファンのみなさま、おめでとうございます。
一面コラムのほとんどは、「アレ」がテーマでしょうね。流行語大賞間違いなし。
MVPは、近本。いや、(「P」ではないけれど)「コノ」ひとでしょう。選手の実力を開花させた岡田監督(私は、藤山寛美と称していましたが・・・💦)。名監督であることをおしえてくれました。どこかのお方のように近視眼的ではありませんでした。やはり、監督は顔じゃないですなぁ・・・💦

朝日新聞朝刊(9月16日)
東京新聞朝刊(9月16日)


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