ウォーキング小景(あれこれ篇3)【エッセイ】二四〇〇字
マスク、よし! クレジットカード、よし! 「慶応病院の診察券+保険証」、よし! (肩掛けポーチに入った)布のエコバッグ、よし! スマホ、よし! と、ウォーキング前の持ち物チェックをし、気合を入れて、いざスタート!。
エレベーターでは、先にひとり乗っておられたので、礼をしてから「こんにちは」。しかし、お返しがない。<ま、そんなこともある>と、自分を納得させ、外に。最近の酷暑で、出たら“あごマスク”。快適に歩いていると、なにか妙な雰囲気を出会った通行人から感じる。<“あごマスク”は、熱中症対策で、政府だって推奨しているんだよ>と思いつつも、マスクをもとに戻す。次に出会ったひとからも視線を感じる。そのひとは“ノーマスク”だった。<おいおい、オレは一応マスクしているよ>と思いながら、歩き続けた。自分だけなら、“あご”にずらす。ひととすれ違いそうになったら、戻す。そんなことを繰り返し、ゴール近くのスーパーに、あごマスク”ではないことを確認して、スタスタと入る。買い出す食材は、メモしている。かつその店の配置は熟知している。さっさとカゴに放り込み、レジに。すると、馴染みのお姉さま(いや、完全に妹さま)が、クスクスって感じで手を口に当てている。<??????>と頭をかしげて、店外に。<なんか、きょうは注目される日だ>と思いながら、わが集合住宅に。“あごマスク”じゃないことを確認して。きょうは、エントランスで誰にも逢わずにエレベーターに乗った。すると、正面の鏡を見て愕然とする。最近、室内用で愛用しているTシャツを着ているではないか。「アベ政治を許さない」の特製Tシャツ。ウォーキング専用の白のTシャツに着替え忘れたのだった。
(ヘッダーの写真とアイコンで着ているTシャツが、特製。金子兜太さんが書いた字をプリント。ヘッダーの写真は、NYのメトロポリタンでフェルメールを鑑賞している、ワタクシ)
ウォーキングの必須携帯品に、「慶応病院の診察券+保険証」がある。万が一のときのために携帯することにしている。というのは、あることを経験したことがきっかけだった。
交差点で信号待ちしているとき、横で「バタン」と大きな音がした。確実に80代以上と思われる、“確実に老人”さんがうつぶせになって倒れている。<熱中症??脳溢血??だとすると、動かさない方がいいな>と思い、「お父さん、大丈夫ですか? 動かないで。動かない方がいい。救急車、呼びますか?」と声かけた。すると、「う~~ん。う~~ん」と、意識はあるようだ。「動かないで。動かない方がいい。救急車、呼びますから」と言うと、その“確実に老人”さんは、「アツアツ、熱ーーいんだよ」と起き上がろうとして座った。そこで、近くの交番のおまわりが到着し、救急車を呼んでくれることになった。猛暑日のアスファルトは、その“確実に老人”さんにとっては、熱せられたフライパンだったようだ。余計なお世話ってやつ、だった・・・・?
ルートのひとつに“鰻屋ルート”がある。店までは、3600歩あるので、往復すれば1日のノルマ達成! と、鰻重の匂いを感じつつ、向かう。
席はいつも同じ。写真右の2名席の奥。暖簾(トイレ)を背に座る。老舗のせいか椅子とテーブルの間隔がなく椅子を後ろにずらせることが理由(なにしろ脚が長いもので (-_-;))。それと、あとひとつ。この店の鰻の味は超一流なのだが、ウォッチングが不十分なのが、欠点。写真右側に厨房と接客待機室があるのだが、そこから出てくるのは料理を運んでくるとき。出入口は写真手前右と、私が座る場所から手をのばすと引き戸がある。大声で呼ぶのも抵抗があるので、そのドアを左手でノックして呼ぶことにしている。
その日も、“専用席”に座り、注文する。「吉乃川、冷で、“とりあえず”1本。特上と肝吸い。あと肝焼き2本、焼き鳥4本」と。すると、いつもの子が「卵焼きはどうしますか?」と訊く。「いや、きょうは、いいや」とニヤっと返す。コロナ禍で2年ほど来られず、さいきん復帰し4回目くらいでよく覚えてくれたことへの、“ニヤっ”だった。
焼き物をつまみに、日本酒1本目が空いたとき、左手で厨房の戸をコンコンと叩き、2本目を注文。すると、右斜め前(階段の下)にある4名席にひとり座っている男の視線を感じた。「ちちちちち」って奇妙な音を発しながら、食べている。70代中半、ちょっとだけお兄さんって感じ。しかし、お世辞にも顔色がいいとは言えない。小さな新香を肴にビール小瓶をチョビチョビ呑んでいる(いや舐めている)。「ちちちちち」。何回か視線が合う。こちらが注文していたときも視線が合った。すると、鰻重が彼の席に(中の鰻の大きさまでは見えないが、特上ではなかったようだ)。すると、運んできた子に「ありがとう」。「あ、どうしようかなあ・・・飲もうかなあああ・・・飲むか!」「日本酒ですか?」(意を決したように)「うん。飲もう! 一番安いヤツ!」と。酒と新香と鰻。池波正太郎の「鰻の食い方」を地で行っている。
“一番安い酒”を持ってきたときも、「ありがとう」。そして、「ちちちちち」って発しながら、食べている。ときどきゲップ。それを繰り返しながら、酒を含み、美味しそうに食している。しかし、ゲップが気になる。どこか体を壊しているのだろうか。姿勢も、階段の下なので猫背になっているのか、病気のせいなのか。「ちちちちち」、ゲップ。
食べ終わり勘定を済まし、「ありがとう。ちちちちち」とゲップしながら、猫背のまま、出て行った。
私も食べ終わり、支払いをしているときに、いつもの子に聞いた。「あそこに座っていた人、よく来るの? 1度ここで見かけたことがある気がする」と。「ハイ、常連さんです」「いつも一番安い酒って、頼むの?」と、笑いながら訊くと、「いいえ、ビールかお茶だけなのですけど・・・珍しいです」と。
私が2本も飲んでいるので、それに影響されたか・・・。たぶん禁酒を医者に言われているのだが、我慢できなかったのだろう。彼の体が心配だが、池波流で食する姿がシブかった。よし、次来たときは、「“上”に抑えて“一番安い酒”って言ってみようか。
(おまけ)質問!
「幅1メートル強の歩道を、大きめの日傘をさして歩いてくる上品なご婦人が目に入った。歩道の左が車道とガードレール、右は2メートル位の塀。あなたなら、歩道の左右どちら側を歩きますか?」