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「時間」【エッセイ】一八〇〇字(復帰第一作)

 エッセイを書く。料理をする。考え事をする。そんなときに決まって聴く(かける)CDがある。"Don't Worry, Be Happy"が入っている『THE BEST OF BOBBY MCFERRIN』である。5年前。ニューヨーク旅行の際に予定していたブルーノートに出演するからと、繰返し聴いていたボビー・マクファーリンの1枚である。その後も、部屋に流しっぱなしにすることが多い。歌詞が単純で全体を覆うアカペラが心地よく、集中させてくれるのだろうか。今回の1か月の入院生活のあと、自宅で静養しているときも聴いて、いや流していた。

 12月中旬に受けた健康診断で、γ-GTPが4桁を超える数値が検出され(基準値:13~64)、慶応大学病院にかけこみ、緊急入院。胆管癌の疑いであった。胆管の入口に10mmの腫瘍があり、胆汁が流れず黄疸症状を引き起こしていた。完全に「切腹」か、と覚悟したが、内視鏡施術で済む(悪性か否かの確定までの暫定処置?)。が、膵炎を併発し、HCUに。一時は、脈拍が200になり“旅立ち”をも意識するほどであった。しかし幸いにも、精密検査を重ねるが癌細胞は見当たらず。予断は許されないにしてもとりあえず下された病名が、“IgG4関連疾患”。自分の細胞を傷つけ体内の各所に炎症を引き起こす可能性がある自己免疫疾患。いちおう難病指定である(300番らしい)。胆管にステントを挿入し胆汁を流す処置で、肝臓・膵臓の血液検査の数値も正常に近づき約1か月後に、「仮出所」となる。その後、根本的な治療方針としてステロイド薬の使用を決め、その効果がとりあえず出ているようだ。
 入院中はもちろん、退院後も文章を書く気にならない。本さえ開こうとも思わない。食料の買い出しから戻っただけで脈拍が上がりベッドに横になる。そんな10日間が過ぎる。 しかし、「この先がなかったかもしれない…」。そう頭に浮かぶと、この日、この時が貴重に思えるようになってきている。
 さらに動けるだけの体力が回復してくると、部屋を整理整頓する気になってきた。これまでも何かに行き詰ったときには、この整然とした行為が精神的に安定させてきたようである。作業を始めれば先に進むだけ。とても建設的な行為である(やり方を間違っての後退も時にはあるにしても)。そんなときに登場するのが、マクファーリン。CDを流しながら、単純作業を粛々と進める。自ずと未来が拓けてくる。
 脂質制限が一日35gと厳しく、外食は限られる。キッチンのすべての棚を整理し、自炊に徹するため、調理器具にこだわり買い替えてみた。これまで10分もかからなかったのが、調理時間に小一時間かけるようになっている。
 さらに整頓すべき重要な場所があった。クローゼットである(納戸とも言う。3畳の小部屋)。このまま逝っていたらなんとも恥ずかしい。それほどの“置きっぱ”状態だったのだ。必要な棚を搬入。寝具やバッグ、格納してある扇風機などを出しやすいように並び替える。片つけるときは、想い出があとから追いかけてくるので、さほど広くないが時間がかかる。そのはけっこう好きだ。やはりマクファーリンを流しっぱにする。
 最中、ハンガーにかかったインコテックスの細めのパンツが目に入る。取引先の伊勢丹のお付き合いで購入した代物だが、カッコつけて細めのサイズを選んでしまい数回身につけ吊るしたままになっていた。4キロ回復したもののまだ6キロ減。ウエストは余裕でおさまる。このまま体重をキープできれば、不幸中の幸いということになろうか。
 整理が終わりかけたとき。奥にミカン箱よりも少し大きめの段ボールが、何か言いたげに鎮座している。中身がなにか、まったく記憶がない。開けると、レコードだった。100枚以上はある。プレイヤーがあったのは30年前まで。その時点ですべて廃棄したと思っていた。残っていたほとんどが20代のころに収集したものばかり。小学校の卒業記念とかでありそうな、「“〇〇年後に開けよう”タイムカプセル」のようだ。過去の自分からの思わぬプレゼントをいただいた心持ちになった。古稀まで速足で歩いてきた自分に、「まあ、ゆったりレコードでも聴けよ。 "Don't Worry, Be Happy NOW"」と言ってくれているようである。

                 ※
ということで、このエッセイから再開をさせていただきます。まだ、ウォーキングをしていても、ちょっと気合いを入れると心臓がバファラバファラと不整が入るような不安定さがあります。💦 なので、原則、毎水曜日の投稿(いちおう、頑固に9:00JUST)予定でおります(さいきん特に腹が立つ政治の世界、我慢ができず、ときたま特別出演することもあるかもしれませんが…💦^^)。Note友さんのページも週一ペースになりますが、覗きに行きますね。

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