引け目【エッセイ】六〇〇字
早大エクステンション「エッセイ教室」冬講座の2回目の課題は、自由題。ただし、テーマは、旅。「人生の旅」ととらえ、書きました。
「レタス爆弾」の話は過去にも書きましたが、今回、ちょっと違います。
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いつも付いて来るヤツが、煩わしかった。
小さい頃から、年上とばかり遊んだ。夏は野球や川遊び、冬はスキー。ヤツを置いてきぼりにして。
勉強も、野球もトップ級。二つ違いのヤツは、先生によく言われたらしい。「アニキは野球も勉強もできるのに、お前もがんばれ」と。
中学でも、野球部で活躍。三年の時、ヤツは、部に入ってきたが、二か月で退部。ここでも、担任に、いつも比較されていたらしい。
しかしその後、私は、進学校の野球部に入るのだが、体力も成績も落ち続け、四か月で退部。高二で病気を患い長期入院し、留年。ヤツは、工業高校に入り、陸上部で砲丸や円盤の競技で奮闘。平均身長の私よりも、入院中に七センチも高くなり、体格も、追い越されてしまう。私は、入試に失敗。七〇年安保前夜の荒波にも巻き込まれ、二浪。東京の専門学校を選んだヤツと、一緒に暮らすことに。
ヤツの賄い付きで、だらだら勉強していると、ある日、「爆弾」が破裂。「アニキはさ、食べるだけ。いい気なもんだ」と叫び、手にしているレタスを、脳天に振り落としたのだ。
おかげで私は、覚醒。紆余曲折はあったが、ほどほどに、成功。ヤツも、資格を取り故郷で測量会社を、経営。やっと、肩を並べる。
が、いつも煩くついてきたヤツが、何を勘違いしたか、古稀過ぎて、追い越してしまった。
オレを、置いてきぼりにしやがってよぉ・・・。
(後記)
書いている途中で、タイトルを「挽歌」に変更しようとしましたが、それはご法度。そのまま「引け目」にしました。