宝物【エッセイ 感想文】八〇〇字
きくちしんいち著『新宝島一部 猩猩( しょう じょう )たちの森』を読んで
小さい頃一度は、冒険小屋を造ったり森に冒険に出かけたりしたことが、あるだろう。
60年前。『北の国から』の舞台、麓郷に小学一年までの3年間、すごしたことがある。家は市街にあり、少し離れた所に東大演習林があった。森に小川が流れ、春が来ると、その川が秘密基地になる。底は岩盤で透明度が高く、プールにもなる。両岸の木々が覆いかぶさり、ドームを形成していた。グーグル・マップで見ると幅のある川ではないが、子供の体躯からすれば巨大で、緑に囲まれた、神秘的な、空間だった。倉本氏が見つけていたら、純や蛍らの遊び場になっていただろう。
スティーヴンスンの『宝島』の話を高学年の子から聞かされ、その子を隊長に、冒険小屋を造り、毎日のように集まった。東大の研究所を城に見立て、森中を探検し回った。疲れると、川面を揺らす緑風を感じながら、小屋で気ままに昼寝をすることも。夢はきっと、この本のような内容だったのかもしれない。
Note仲間の「きくちしんいち」氏が、娘さん讃美子(うたこ)ちゃんのために書いた。娘さんの作文がもとになっているようだ。
主人公は、「うたちゃん」。森でウサギと出会い友達になったあと、知り合ったインコが持っていた「宝の地図」がきっかけで、茶トラ猫も加わり、宝探しに出かけることになる。
紙に拘る昭和の人間なので初のキンドル版。最初は戸惑ったが、次々に矢印を押し、読み進んで行くうちに、「うたちゃん」と一緒に冒険している自分がいた。これは、リズム感の良さか。「きくち」氏が、娘さんに読み聞かせるような声が聞こえ、心地よさを感じた。
第一部は、冒険に疲れて眠り目が醒めたところで終わる。宝探しは二部以降に続くが、どんな宝を見つけるのだろうか。いや、それは愚問だろう。讃美ちゃんはすでに、お父さんが書き下ろした宝を、手にしたのだから。
私にも、60年前の思い出を蘇らせてくれた一冊、宝物になった。二部が、待ち遠しい。
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きくちしんいち著『新宝島 一部 猩猩( しょう じょう )たちの森』