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隠しごと【エッセイ】

 東京オリンピックの年に「平凡パンチ」、二年後に「週刊プレイボーイ」と、若者情報週刊誌が相次いで、創刊される。
 高二のとき、肺結核で半年入院したのだが、隣のベッドにいた大学生の母親が、話題の雑誌を差し入れていたのを借りて、読んでいた。
 退院後の静養中。病院帰りによく、買っていた。裏返した上に、大江とか三島とか、「ガロ」などを重ねて。なので、二誌を買う余裕などない。グラビアが刺激的なほうを選ぶ。家に戻ると、母には小説を買ってきたことだけを伝えて部屋に籠り、見入っていた。
 “コト”をなしたあとは、袖机最下部の引き出しの下の隙間に、忍ばせていた。二つ違いの弟にも、内緒で。口軽な奴、だから。
 ある日。母がふいに、
 「M坊、読んでいるの? 」と聞いてきた。
 「ん? な、なにを」
 「三島の短篇」
 「ん? ああ(それ)、ウ、ウン」
 「なに、面白いと思った? 」
 「う~ん。なにかなあ~。(少し間があって)やっぱり、『花ざかりの森』かなあ~」
 「あっ、そう。はははは、は~は」と、意味ありげな、笑い方をした。
 後日、三島を読み返していると、ハッとした。『憂国』の一部、十数ページだけ、地の部位が、黒ずんでいるではないか・・・。

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