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路(みち)【エッセイ】八〇〇字

 この「路」(800字)は、早大オープンカレッジ・エッセイ教室の、2019年10月5日のお題「道」(600字)に200字分深めリライトしました。当初、同教室の本日提出のお題「流れ星」(800字)用に書いたのですが、内容的に、どうも無理がある。七転八倒したあげく、はっとしたのが、25日(水)アップの「夕陽」(1000字)。いただいたコメントを拝読していると、「夕陽」は、「流星」に通じるのではないかと、思ったわけです。「スター気分」の中学時代から、高校時代は、一転。まさに、星が消滅する瞬間、と思った次第です。400字分つめて、提出することにしました。
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 北海道の冬は、厳しい。20歳で上京して、半世紀。完全に東京人の身体になりきってしまったので、戻ろうと思わない。近年、セントラルヒーティングをはじめ、住居の構造は、私がいた時代と違ってかなり進化しているので家の中にいると快適だが、一歩外に出ると、慣れてはいても、辛いに変わりない。
 しかし、小学生のころは、子どもは「風の子」ならぬ、「雪の子」。学校の往き帰りの雪道や雪原が、格好の遊技場になる。
 朝は凍(しば)れて、田畑の雪面が固くなる。歩いても、足跡がつく程度。学校までのショートカットのルートになる。時には、スキー板を履いて。まさにノルディック。気温がさらに低くなると、空気中の水蒸気が凍ってキラキラと輝く、ダイヤモンドダストが見られる。
 だが、気をつけることがある。火野葦平の『糞尿譚』ではないが、肥溜(こえだめ)といって、肥料となる糞尿を溜める穴に、年に1人は落ちるものがいる。だから、秋のうちに肥溜マップを更新しておくことを、怠ってはならない。
 帰り道。凍った道路の車輪の跡、轍(わだち)が、ランドセルを滑らし遊ぶ装置になる。もちろん、ボーリングやカーリングなんて、知らない。遠くまで滑らせられるかを競いながら、家まで帰る。当然、革の傷みが早まってしまうので、母に叱られる。
 屯田兵の旗に始まって、道章や札幌市の徽章は、北極星がモチーフになっているように、極寒の夜は特に、星は大きく、綺麗に見える。
 小雪がチラつく曇りの日であっても、星が見られる。夕方。道端の街灯の下に、ドーム状の明るい空間ができる。仰向けになると、雪は、暗黒の宇宙から落ちてくる流れ星に見えてくる。いや、いまで言えば流星群。まるで、プラネタリウムにいるかのようだ。幻想的な状景にしばらく見とれてしまって夕食に遅れ、父に叱られたことも。
 中高校生になると厳しいだけだったが、小学時代は、美しく、楽しい北海道の冬だった。

Photo:「YAMAP」サイトから

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